第15話 メイド見習い?(彼女サイト)




    あたしが後ろ手でドアを閉めて部屋に入ると、ケントさんはあたしの方に背を向けて小さなテーブルに着いていた。

    途端にあたしはハッとする。

    そうよ。そうなのよ。

    部屋の入り口に一番近い席が『下座』って呼ばれている。

    ケントさんは、ドアに身体が向けられる奥の『上座』に座っていないって事は……ケントさんは『訪問者』であり、会社で言う『お客様』なのだわ。

    「す、すみません。あたしってば、お茶も出さずに……」

    あたしはフリフリメイドのスカートを翻して、テーブルの上に放置されていた白いお皿と、渋いベージュ色の湯飲みをそそくさと片付ける。

    「あ、いや、お気遣いはご不要に願えませんかな?」

    ケントさんは姿勢を正して正座をし、あたしの心遣いに気付いて微笑んでくれた。

    いやぁーん、ケントさんも『元』イケメンでいらしてたのねぇー。

    あ……駄目っつ。美しい微笑に蕩けそうだわ。

    うん、5ポイント獲得ぅ〜。


    ……なぁーんて、あたしが浮かれて居られたのは、ホンの少しの間だけだった。

    ケントさんは、あたしの事をマジでトッキーの専属メイドだと勘違いしちゃっているみたいなんだもの。



    「粗茶ですが……」

    「これはこれは……いたみいります」

    一人用の丸いお盆の上に、茶托とお茶を淹れた湯飲みを載せて、あたしはうやうやしくケントさんの前にお茶を置いた。


    あたしは社員研修を履修していて、ソコソコの評価を講師の先生から貰っていたから、お茶の淹れ方には自信があったの。

    だけどケントさんは、あたしの淹れたお茶を一目見るなり、平然とこう言った。


    「まだまだですな」

    「……」

    ん、ん……なにぃい〜〜〜っつ???

    あたしは○ニスの王子さまじゃないわよぉおおお!!! って、ケントさん、アンタは越前リョー○かいっつ!

    「お湯の温度がなっておりませんな。加えて茶葉が出す色具合も宜しく無い」

    冷静&平然とノタマッタこのおぢ様。

    このあたしが直々に淹れたお茶に、よくも難癖付けて言ってくれるわねっつ。

    「はぁ、そうですかぁ?」

    口先ではヤンワリと誤魔化したけれど、カチンと来たわよ? 

    だけどココは抑えておかなくっちゃ。

    トッキーのお爺様。トッキーのお爺様……

    あたしは必死で笑顔を浮べた。

    あ? 少し顔が引き攣っちゃってる。

    でも……やっぱし悔しいぃい〜〜〜っつ!


    「美弥さん、こちらへ……」

    「はい?」

    あたしの心を見抜いてか、ケントさんは優しく笑って手招きした。

    「御覧なさい」

    「……?」

    ケントさんがあたしに見せたモノは、さっきあたしが淹れたばかりのお茶だった。

    湯飲みは内側が白い陶器だから、お茶の色が異常に薄過ぎているのがモロ判りだった。

    しかも細かい茶葉のクズが底に一杯溜まってる。

    「沸騰し立て直後のお湯を使用するのはよくありません。十分に水道の塩素成分が抜け切っておりませんから。そして茶葉も直に濾すのでは無く、サッと湯を潜らせて乾燥した茶葉を開かせてからの方が美味しゅうございますよ?」

    ケントさんはあたしに、輝くような余裕の微笑みを向けてくれた。

    ひく……

    「さ、然様にございますか」

    って、ケントさんの口調に釣られて、ヘンな言い回しをしてしまうあたし。

    ううん、ココで負けたりなんかするもんですかっつ!

    「い、今のは失敗でしたわ」

    あたしは一旦出したお茶をソソクサと下げると、ケントさんが言った言葉を実行する。

    ……ふーん、確かに今度のは、お茶の色も香りも格段に違ってるわ……と、納得。

    あたしはツイデにトッキーが淹れてくれていた『茶柱』もオマケに入れて出してみた。


    「どうぞ……」

    「これは再度のお手間、かたじけない」

    今度こそ合格よっつ! って思ったのに……

    「美弥さん……」

    ケントさんがドンヨリと暗くなって沈んでしまった。

    「あのー、なにか?」

    「ズルをなされましたな?」

    ぎくうっつ!!!

    キラリーン☆ と、あたしを見詰める、細いケントさんの瞳が鋭く光った。

    「此方の茶柱は、先程美弥さんが下げた、茶柱ではありませぬか?」

    「っええ―――っつ???」

    なっつ……ななな、ナンで判っちゃったのぉおおお???

    ああ、バレナイから……なんて思っていたのに思いっきりバレてるし。

    またあたしに対するケントさんの評価が下がっちゃうよー。

    なんて落ち込んでいた。

    「マイナスニ十点……と、言いたい処ではありますが、ズルした茶柱の件以外はOKですぞ?」

    「え?」

    しゅんとなって、ケントさんの傍にちんまりと正座しているあたしを見て、ケントさんは優しくそう言ってくれた。

    「美弥さん、ご精進なされよ」

    「はい」

    って、一体、いつの時代なのよぉー!



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