第24話 ややこしい?




    そう思った途端、イキナリ部屋の押入れがサラリと開き、白髪白髭がトレードマークのケントが現れた。

    「もうバレてしまいましたか……」

    「うぉあっつ?」

    「きゃん!?」

    ケントの出現に驚いて飛び上がってしまった俺達。

    押入れ……って、一体ドコから出て来るんだよっ!? 来るならちゃんと玄関から入って来いっつ!

    腰を抜かしそうになった俺は、思わず身体を退いてしまい、後ろ手を着いて片足立膝状態になった。思いっ切りスキだらけだ。

    方や俺と対面位置にあった押入れには、上の段にビシッとした隙の無い不動の構えで正座をしているスーツ姿のケントが居る。

    なんで押入れにケントが居られたのか……? 

    理由は簡単。俺が見事なくらい赤貧だから、押入れ上段にまで収納出来るモノが何も無かった……詰まり、十分な空きスペースがあったって事だ。


    正座と言えど、馬鹿には出来ない。武道の真髄は『礼』に始まり『礼』に終る。

    正座が基本的な構えの一つになるって事を知っている人は、そんなには居ない。今仮に俺がケントに攻撃を仕掛けたとしても、俺は簡単にケントから弾かれてしまうのが関の山だ。

    俺はそんな勝算の無い馬鹿なコトはやらない主義だし、ケントは俺の師範だ。『ドコから出て来てンだよ?』的な突然の訪問にはマッタクもって驚かされてしまったが、久し振りに昔と変わらない身のこなしのケントの姿を眼にして、俺はもの凄く嬉しくなる。

    「お懐かしゅうございます。坊ちゃ……」

    「うわぁああぁあ〜〜〜!!!」

    俺はケントの言葉を遮るように、慌てて意味の成さない大声を張り上げた。

    改めて俺を見上げたケントは、口を閉ざして眉を寄せ、軽く首を傾げたが、俺の向かいに座っていた美弥の存在を確認すると、すぐに俺の立場を心得てくれたみたいだった。

    美弥はキョトン☆ として、ケントと大声を上げた俺を交互に見遣ったが、今の所美弥に俺の正体がバレた様子は無いみたいだ。

    つか、美弥が一体何者なのか、俺はまだ判っちゃいないんだ。この際、ケントには悪いけれど、余計な情報は差し控えて貰おうと思った。

    それに、今の俺は『常盤正宗』じゃなくて、一般人の『土岐正宗』だ。昔の生活が好きじゃ無かったと言えば嘘になるが、常盤財閥は破産宣告を受けてから既に三年以上もの月日が経ってしまっている。今更ケントに『ぼっちゃま』と呼ばれても『はいそうですよ』と返事出来るほど俺は単純でも無いし、もうそんな身分でも状況でも無いってコトぐらいは弁えている心算だった。

    「あ、いや、正宗どの、お元気であらせられましたかな?」

    「え? ええ、何とか……」

    ケントは一頻り咳払いをして場を紛らわせると、何事も無かったように『おじいちゃん』スタンスの、上から目線で話し掛けて来た。

    で、俺もそんなケントに合わせてみる。

    だけど、幾ら俺と会うのが久し振りだからって……どっから湧いて出て来んだよ? 俺はケントのお茶目ぶりに、思わずプッと吹いてしまった。

    ケントは取り澄ました涼しげな表情を浮べてはいるが、やはり恥ずかしかったのだろうか、頬だけが上気してほんのりと赤く染まっている。

    「いやぁー、スッゴーイ! ケントさんってば、どうやって出て来たのぉ?」

    「……」

    一人、状況が読めていないのが居たよ……美弥はケントの出現に、大きな眼を更に大きくして興味津々と言った様子。もー、誰のせいで、こんなにぎこちない挨拶を交わしていると思っているんだよー?

    ケントは、元常盤財閥執事兼お庭番頭領だった男だ。空調設備が無防備になっているこんなオンボロマンションに侵入するのは造作も無い。スーツにホコリ一つ付着していない相変わらずの手並みには感心させられる……と言いたい所だったが、美弥の存在を見落としていたのは、ケントらしからぬ落度だなと思ってしまった。

    「美弥どの……今のは捨て置き下されよ」

    困ったケントが苦し紛れにそう言った。美弥に手放しで褒められて、若干自分に酔っているのがミエミエだ。

    この二人、俺が帰って来るまでに会っていたらしいけど、何かあったのかな? 妙な引っ掛かりを覚えたが、今はそれどころじゃなかったし。コンビニのバイト開始時間まで、もう十分を切っている。五分前には行かないと。

    「ケントさん、お久し振りです。だけど俺、これからバイトなんです。悪いけど……美弥さんも今日はもう帰ってくれない?」

    俺的に余裕が持てなくなってしまって、二人にアンマリな言い方をしてしまった。

    「その件も含めてお話しとう事が……」

    「マサくんってば冷たいんだぁー!」

    俺が気になったケントの言葉を遮り、掻き消すように美弥が喚いた。

    「ま、まぁ、美弥さん? 此処に残ってくれていても、俺は明け方まで帰って来ませんから……」

    俺の言い方が気に入らなかったらしい。美弥はしかめっ面をして、すっかりヘソを曲げてしまったみたいだ。

    「あたしが今朝言ってたの、もう忘れちゃったの?」

    「は?」

    ああ……頼むからケントの前で、話がややこしくなりそうな事を言わないで欲しい。

    「マサくんがW・グローバルの社員なら、バイトの二次収入は厳禁でしょ? あたしはその事を知っているんだからぁー」

    「……」

    美弥がナニを言いたいのか、俺はその先が読めてしまった。『バイトを辞めなきゃ会社にチクる』……って? この娘(コ)、なんでそんなに俺に執着すんの?




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