第27話 Shock!(彼女サイト)




    「どちらのお嬢様だか知らないけれど、子供が言った言葉でしょ? それを大の大人が真に請けちゃって、なにワガママを聞いてあげているのよ? ケントさんもマサくんのおじいちゃんだったら、そんなの常識で考えたって断る事が出来るでしょう? おかしいわよ!」

    あたしは無性に腹が立って来た。モチロン、トッキーが知らない女の子……しかも通りすがりのお嬢様小学生子なんかに見初められて、取られちゃうのだってガマン出来ない。

    トッキーはこのあたしが貰っちゃうんだもんね。譲って堪るものですか。

    「美弥どの、此処は落ち着かれて……」

    「コレが落ち着いてなんか居られますか。そもそも、ケントさんがその話を聞いたのでしょう? そんな理不尽な事、どうしてその場で断れないの? 相手は小学生なのよ? 『ママゴトの延長』だなんて、二人共なに暢気な事を言っているの! 小学生だって乙女なのよ? 自分の迂闊な言葉でマサくんがGET出来たのだと喜ばせておいて、『ウソでした』はナシでしょう?」

    幾ら相手が小学生だからって、女の子に対してそりゃナイわよ。だからそのお話は、拗(こじ)れちゃう前に丁寧にお断りして貰ってね? 代わりにあたしなんてどお? ……なんて、心の中で自推してみた。

    鼻息を荒くして捲くし立てたあたしを見るなり、落ち着き払っていたケントさんは、一旦コホンと軽く咳払いをしてみせる。

    「いえ、その『ウソでした』と言うのはございませんが?」

    「え?」

    どゆこと?

    「恐らく、明日香さまが適齢期をお迎えになられれば、そのままご成婚の運びと相成りますでしょう」

    「……え?」

    涼しげなケントさんの表情からはとても想像出来ない、信じられないジョークを貰ってしまい、あたしの顔は強張って、そのまま かちん☆ とフリーズした。

    イマドキ源氏物語でも無いでしょう? そんなの犯罪だわ! なんて心の中で言い切っちゃうあたし。

    「っと待ってぇ―――っ!」

    トッキーの慌てた大声STOPに、あたしはびくりと肩を跳ね上げた。

    「今の話の流れだと、俺には選択の余地すら無いのか? 話が違うじゃないか、つか、どうしてそうなるんだよ?」

    「しかしながら、明日香お嬢様との仲が宜しければ、断る理由などありませぬ」

    「いや、それは無いだろう?」

    押しの強いケントさんの口調に、思わず退いてしまったのか、トッキーは弱々しく反論する。

    いや、この場合はもっと強く断らないとダメじゃないのぉー。

    「それはお付合いなされてからの事でございます。お目通りさえ致しておりませぬゆえ、どうして駄目だと仰られるのでしょうか? 明日香お嬢様はお子様ではございますが、それはたいそうお美しく、賢く、尚且つ聡明であらせられます。お年頃になれば、さぞやご立派に……」

    「い、いや、そんな。でっ、でも小学生……」

    ご立派に……って、ドコが『ご立派』に成長するって? ケントさんの意味深な物言いに、あたしは妙に引っ掛った。

    トッキーはと言えば、虚ろな視線を彷徨わせ、もの凄ぉーく真っ赤になって困った顔をしてる……ように見えた……コトにしておこう。

    ううん、イキナリ小学生から見初められて、おじいちゃんであるケントさんまでが賛成している婚約だなんて、誰だって困っちゃうハズだもの。

    大体、そのお嬢様だって、小学生のクセにナマイキなのよ。このあたしだって現在進行形で彼氏募集中なのに、おかしいわよ。順番が間違ってるわ。

    出来ればそんな得体の知れないお子ちゃまじゃなくって、このあたしを選んでぇ〜〜〜。お願いっつ、貴方の目の前にノーマークのあたしが居るのよう〜〜〜。

    あたしは胸をドキドキさせながら、トッキーの食べちゃいたいくらいオイシソウな、容の良い唇から発せられる、次の言葉を待っていた。


    「ときに、美弥どの?」

    「うわっつ、あ? はいっ!」

    いきなり、すぐ後ろからケントさんに呼ばれてしまった。トッキーの一挙手一投足を見逃すまいと集中していたあたしは、気勢を殺(そ)がれて飛び上がる。

    「美弥どのがお捜しになられている鍵は、こちらでございますかな?」

    「あ、そうです。どうも……」

    ケントさんは、ついっとあたしの手を取ると、その掌にロッカーの鍵を載せてくれた。

    「宜しいので? 一刻も早く駅へ参られませんと、終電を逃してしまわれますが?」

    「って、ええっつ???」

    あたしは慌てて腕時計を見る。そして、今の自分のナース姿に焦ってしまった。

    幾ら駅が此処から近いと言っても、着替えなきゃなんないんだから、着替える時間を逆算すると……やっぱり時間がもう無いわ。

    でも、終電に間に合わないと困るけれど、このままトッキー達を残して、あたしだけがお別れだなんて、そんなのってないわよう〜〜〜。

    ああん、こんな時に限って、なんであたしだけがシンデレラ状態なの?

    「あの、その……」

    「お気をつけてお帰りくださいませ」

    自分の状況に納得が出来なくて迷っていると、ケントさんから、有無を言わさない一方的なお別れを告げられ、深々と頭を下げられてしまった。




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