第29話 ヘタレなヒロー?(彼女サイト)




    あたしは中々出ない勇気を振り絞って、この場から逃げ出そうとした。左に居る、この色黒デブなら他の奴等よりもきっと反応が遅いハズって決め付けたあたしは、デブの居る左側から逃げ出そうとして、向っていた派出所とは別方向に逃げ出そうと身体を翻した。

    だけど、デブはあたしが思っていたよりも意外と反応が早かった。

    「おーっと、そうはいかねーよ?」

    じっとりと汗か脂かで湿った掌で、あたしの左の二の腕をむんずと掴んだ。脂肪タップリの掌は、ふんわりとした感触で、き、気持ち悪いよぉおおお〜〜〜!!!

    「きゃっ!?」

    あたしと視線が絡み合ったデブは、細い目を更に細くしてにぃーっと笑った。

    キモッツ!

    恐怖映画のヒロインに自分がなってしまった気分にさせられてしまうわ。

    怯んだあたしの右腕を、後ろに控えていたヤツが素早く掴み、デブから拘束していたもう片方のあたしの腕を引き寄せて、あたしは両手を上げてバンザイ姿の無防備な格好にさせられた。

    「いいねぇ〜、その格好。タマンねーよ」

    死人野郎がニヤニヤと笑いながら、着丈が短くておヘソが丸出しになったあたしの姿を爪先からゆっくりと視姦する。

    デブがフガフガとハナイキを荒らげたと思ったら、突然路上に這い蹲り、膝上ニータイツの片足に縋り付いて来た。

    「ひっ!?」

    生暖かいモノが、あたしのタイツの上をじれじれと蠢き始める。

    あたしは恐怖に顔を引き攣らせたまま、顎を一杯に引いて足元を見ると……デブがあたしの左足に抱き付いて、タイツの上を舐め回してるー!!!

    「いやぁあ〜〜〜ん!!! 誰か助けてぇえええ!!!」

    気持ち悪いよぉおおお!!!

    あたしはドン退きして大声で叫んだ。

    近くには何人もの人が、嫌がっているあたしを眺めて素通りして行く。中には笑いながら通って行く人だっている。

    なんで? こんなにあたしが嫌がっているのに、どうして誰も助けてくれようとはしないの?

    こいつ等がマジでヤバそうだからなの? それとも他になにか理由が……?



    「はい! 良いよぉ〜、もっと嫌がって!」

    その声は、明らかにあたしに向かって叫んだセリフだ。でも、なにその事務的な口調はぁ?

    涙眼で声のした方に首を捩ると、そこにはカメラを廻しているサングラスの男と、ライトを微調整するスクリーンを持ったスタッフらしい連中も居る。

    ナニコレ? 撮影? あたし、そんなの聞いて無い! つか、誰の許しで撮ってんのよ?

    途端に会社業連で注意喚起されていた数日前の記事を思い出してハッとした。

    ――『盗撮注意! 撮影だと偽っての痴漢行為が多発しています』

    こいつ等がそうなのだと思った。だからみんな撮影の邪魔をしちゃいけないと思って、知らない顔で通り過ぎて行ったのだわ。

    成り済まし痴漢って事かしら? でも、あたしが被害者だなんて、こんなの絶対にイヤだしお断りよ!

    「さー、お洋服脱いじゃって? 綺麗ーな桃ちゃんを拝ませて貰っちゃうからねぇー」

    「や……」

    『桃』ってなによ? おっぱい? それともお尻の事? だけど、そのどっちでもイヤだぁ!!!

    死人野郎はニタニタ嬉しそうに笑いながら、あたしの正面に廻って上着ブラウスの裾を掴むと、カメラに見せるようにしてゆっくりと焦らすようにして持ち上げる。

    強制的にバンザイを強いられてしまったあたしのブラは、少しだけ上にずらされておっぱいの下の方……丸み部分がはみ出しちゃっていた。

    「ヤダ……」

    みんなから見られていると言う恥ずかしさと、この不気味な連中に誰も立ち向って行ってはくれないのだと言う孤独や恐怖に煽られて、声が出せない。

    え〜〜〜ん! どうすればいいのよ?

    鼻の奥がじわりと熱くなって、涙がポロポロと堰を切ったように溢れて来る。

    「あーあ、泣いちゃった」

    「またソレがいいんでね? 泣いちゃってもカンケーないし」

    連中は、それぞれが周囲に撮影だと思わせるように言い放つ。

    だけど、あたしには全くの災難なのだってば!

    「は、放し……イヤァ!」

    死人の両手が胸の後ろに廻った。このままブラを外す心算なの? 冗談じゃないわよう!

    必死に身体を捩らせて暴れるあたし。もう駄目なの? 逃げられないの?

    そう諦め掛けていた時だった。


    「あのぉー、本当にコレって撮影なんですか? 彼女、本当に嫌がってるでしょ?」

    気が引けて、おずおずといった感じの声がして、連中の動きがピタリと停止する。

    あたしは聞き覚えのあるその声にハッとなり、涙で霞む目を凝らして声の主を捜した。

    「ンだぁ? テメェは?」

    「撮影のジャマすんなやコラ!」

    それまで成り済ましていた連中が、急に正体を現した。オラオラ口調で言い上げられてしまっているのは、紛れも無くトッキーだわ! きっとあたしを送ろうとして追い掛けて来てくれたんだぁ!

    あたしはこんな状況でも、トッキーの姿を見て舞い上がってしまった。

    「ガキはスッコンでろィ!」

    「っあ!」

    スクリーンを持っていた男がツカツカとトッキーに歩み寄ったかと思ったら、突然平手でトッキーを殴った。元々女の子みたいな華奢な身体のトッキーは、男の人が言う『ウェイト』らしいものは無い。

    たちまちトッキーの顔から眼鏡が外れて宙に飛び、遅れてトッキーの身体が飛ばされてしまった。

    「きゃああ! トッキー!!!」

    一瞬、辺りの空気が凍り付く。



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