第3話 見られちゃった?




    風呂場のドアは中央が風呂場側に折れ曲がり、開いた端っこがドアのレールに沿ってスライドするホテルタイプ。

    そしてココは洋風風呂で、浴槽の隣には小さな洗面台と洋式トイレが設置されている。

    本来なら浴室とトイレを仕切るビニール製のカーテンがあったらしいが、俺が遣って来た時には既にカーテンは無く、天井付近にカーテンレールの突っ張り棒が、残っていただけだった。

    ドアに付いていた鍵は壊れていたけど、必要性が無いから大家さんに言って直して貰うまでも無いって思っていた。


    って……いっつ、今その必要性があったあああ!!!

    音を立ててドアを開けたのは、やっぱり猫耳女だった。

    しかも思いっきり寝惚けているのか、デカかった瞳は半分以上目蓋が下がり、見た目もものすンごく機嫌悪そう。

    その猫耳女が半開きの目でジロリと真っ裸(パ)の俺を睨み付けた。

    「あ、あのぉ〜?」

    「……」

    「何か用?」

    俺、入ってるんですが?

    「……」

    話しかけても返事ナシ。

    猫耳女は俺の声を無視してズイッツ! と狭い風呂場兼トイレの小部屋にまるっきりの無防備で入って来た。

    ひやぁあああ……

    俺は慌てて彼女に背中を向けて、不本意ながら生尻を披露してしまうハメになった。そしてシャンプーの付いた手で股間を隠す。

    「ち、チョッと君! 勝手に入って来ないで……うきっつ☆?」

    そこまで言って、違和感に飛び上がった。

    俺が使用していたのは『爽快トニックシャンプー』だ。頭もスースーしていれば、手で覆った股間もスースーして来たし。

    あ? チョッとヒリヒリしてるかも……って、敏感な部分だろよ?

    ひぃいいい〜〜〜

    だけどやっぱり猫耳女は、俺を完全に無視してくれた。


    いや、たぶん寝惚けているんだろうと思う。

    彼女は躊躇う様子も無く洋式トイレの蓋を開けると、膝丈のフリフリペチコートを両手で器用にぶゎさり☆ とたくし上げた。

    膝上黒のニータイツの上は、同じくフリフリレースで飾った黒の薄布スキャンティー……? 何だか紐みたいだけど……それを一気に膝の辺りまで下ろすと、くるんと向きを変えて便座に座った。

    「……」

    あのぉ〜、今、なんかカワイイ桃(お尻)が見えちゃったような気がするんですが?

    眼鏡を掛けていても、レンズが濡れて微妙に曇っているから、細かい所まではハッキリと見えなかった。

    ザンネンな事をした。

    だけど見えないからこそ、妙にえっちっぽく頭の奥に彼女のあられもない格好が焼き付いてしまった。


    ……風呂に入っても眼鏡を外さないのは、俺がウソみたいにド近眼&乱視だから。眼鏡を失くすと全く生活出来ないくらい視力が悪いからだ。

    俺の外見上の欠点って言えば、背が標準よりも低くって眼が悪いってトコ……かな?

    眼が悪いのは後天的なものだけど、背が低いのは男としてはかなり辛い。

    毎日牛乳を欠かさず飲んでるのに、なんで背が伸びてくれないんだろ?

    社会人になったのに、未だに女子大生や女子高校生から『かわいー』とか、『ちっちゃーい』とかって言われてる俺って……



    ビックリしていると、間も無く便器の中から勢いのある水音がして来たし。

    ……マジ?

    もの凄くドキドキする。

    おっつ、俺、聞いちゃっててもいいのかなぁ? 

    って、彼女が勝手に入って来ちゃったんだし。

    彼女に背中を向けたままだったが、俺の視線は曇り止めがしてある洗面台の鏡に釘付けだった。

    つか、今時じゃトンデモナイ行動したりする子って結構油断出来ない。

    俺のコトを『人攫い!』なんて誤解されて言い上げられても厭だし。

    だから少し心配になっちゃって、監視する心算で彼女の事をコッソリと盗み見ていたんだ。


    「くぁあ……」

    便座に座って用を足し終えた彼女は、見掛けによらずデカイ口して大欠伸をする。

    彼女のナナメ後方からの様子が鏡に映る。

    そして座ったままで『う〜〜〜ん!』と手足を前に突き出して一杯に伸ばし、背中を丸く湾曲させた。


    「……ン?」

    猫耳女が、真っ裸(パ)の俺の存在に、やっと気付いてくれたみたいだ。

    「や……やぁ……」

    ああっつ! こんな時、なんて言えばいいんだよっつ???

    俺は彼女に生尻を向けたまま、シャンプーのアワ付けたアフロ頭で引き攣った笑顔を浮べた。

    う〜〜〜ん、この場合、どっちが痴漢??? 変態っつ???

    「……」

    悲鳴でも上げて逃げ出すのかと思ったら、彼女はホンの少しだけ閉じかかっていた瞼を開けただけだった。

    人の裸見ても殆んど動じない……つか、少しは自分の身の周りの変化に気付けよな?

    彼女は『あ? 居たの?』みたいな?

    そんな反応。

    俺としては、明け方の静か過ぎるボロアパートで、悲鳴上げられて『拉致られた』とかって騒がれるよりは幾らかはマシ……なんだけど……なんか微妙だ。

    こんなのって、アリなのかな?

    俺がそれなりに悩んでいたら、背後でトイレットペーパーを取っている音がする。


    彼女はトイレの水を流すと、何事も無かったみたいにサッサとココから出て行った。

    「……」

    ……猫だ。

    彼女の行動、どれを取っても『猫』が憑依しているんじゃないのかって疑いたくなる。

    そのうち『みゃお〜ん☆』なんて言って、片足上げて耳の後ろをカシカシなんてするのかな?

    想像してみて、チョッと可愛く思えたりした。



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