第31話 最強彼女?(彼女サイト)
――助けなくっちゃ!
そう思った瞬間、身体が動いた。連中は後から遣って来たトッキーに注目している。
幸か不幸か両手は既に掴まれて固定されている。あたしは一旦両腕を強く下に引っ張った。急に下方へ引っ張られた肉体野郎は、慌ててあたしの力に負けまいと反発し、掴んでいた両腕を更に強く上の方に引こうとする。
あたしはその瞬間を逃さなかった。腹筋と背筋を巧みに使って両膝をぐっと引き付けると、肉体野郎にぶら下がり、余所見をしているデブと死人めがけて、ダブルの蹴りを放とうとした。
フリフリのフレアスカートが大きく捲り上げられる――
「あーッツ! パンツまる見……!」
逸早くあたしの殺気を感じたのか、偶然デブが振り返り、あたしの醜態を眼にして喜んだのだけれど、次の瞬間には笑顔を浮べている広い顔のド真ん中に、あたしの左足、黒のストラップ付きエナメルシューズがめり込んでいた。
デブの声に釣られて、浮かれて振り向いた死人の股間にも、ぐにょん☆ と右のシューズが沈む。本当はキモイ顔面を狙ったのだけど、近過ぎて顔まで届かなかった。
死人は蒼白い顔を更に蒼くさせて、白目を剥いた。自分から引き込んだ厄介ゴトでもナンでもないわ。『あたしは立派な被害者なのよ?』って思いが、連中に対して『情け容赦』の文字を一掃していた。
二人共、声一つ上げずにそのままどさりと崩折れる。
あたしの頭の中で、リンが『ち―――ん☆』と鳴った気がした。
成仏……してね?
それにしても、ショーツ換えていて良かったわ。ケントさんにイタズラされていたショーツだったら、あたし、この二人をマジで再起不能になるまでゲシゲシ蹴り倒していたかも知れないし。
「この女ァ……! あいっ! ててて……」
あたしから突然ぶら下がられてしまったマッチョな肉体野郎は、腰にダメージを受けてバランスを崩し、足元をふらつかせて堪え切れずにあたしの手を離してしまった。
見た目ビジュアルを追求しているこうゆー連中は、俄か筋肉質。基礎を鍛えていないから、大抵腰を痛めたりするのよね。で、誰のせいでそうなったのかは無しって事で……
両足の着地とほぼ同時に、両手がフリーになったあたしは踵を返して向き直ると、サッと腰を落とし、肘を曲げて脇を締め、拳を握ってファイティングポーズ。
あたしの動きにワンテンポ遅れてフレアスカートがふわん☆ とついて来る。
若干、このスカートに気が散って集中力を欠いてしまいそう。でも『素』には戻っちゃダメよ美弥子! 『怖い』だなんて悠長に言っていられやしないわ。もうこうなったらヤケよ。こいつ等を伸して、トッキーを助けられるのは、あたししか居ないんだし! しっかりしなくっちゃあ!!!
あたしはそう自分に言い聞かせると、軽快な膝の屈伸運動でタイミングを取りながら、やや内股摺り足で近寄ると、息を詰めて相手の出方を窺った。
足元には、あたしがクリティカルヒットで伸したデブと死人が転がっている。
「この……!」
肉体野郎は焦りまくり、大振りのヘタレパンチを繰り出して来た。
あたしは正面のキモイ顔を見据えながら、動きを見切って左右に顔を振り、ヘッポコパンチを二、三発ススッとかわす。
「ッシャアァアアア―――!!!」
気合イッパツ!(……って、あたしのキアイじゃないわよ?)肉体野郎が渾身の力を込めたパンチを放った。
あたしはヒラヒラのフレアースカートを翻して、パンチをかわしながら、同時に放った右手のカウンターストレートパンチが、深々と肉体野郎の右頬に決まる。
「がはぁあああ!」
肉体野郎は派手に鼻血を吹き、白目を剥いて引っ繰り返った。
あららら……? なんだか呆気なかった……かも? 見掛け倒しで、意外と連中は弱かった? これならトッキーを助けてあげられちゃうかもだわ?
そう思って気を緩めた途端、イキナリ背後から強く肩を掴まれた。
「っああ!」
指先が服の上から肌に喰い込みそうなくらいの凄い握力で強く掴まれ、思わず顔を顰めて顎を仰け反らせた。
そう言えば、連中の残りがまだ居たのだわ。
しっかりと肩を掴んでいるその手から、後ろ方向に強く引っ張られて、あたしは硬いアスファルトの路上に、スカートの裾を乱して転ばされて、尻餅をついてしまった。勢いで左足からシューズが脱げてしまう。
「痛たたた……っは!?」
何が起こったのかと訝り、必死になって眼を見開く。
あたしの視界を遮るようにして、目の前でガバッと人影が覆い被さって来た。
その途端、あたしは自分よりも遙かに強い相手から転ばされてしまったのだと覚り、息を飲んで身体を強張らせた。
一瞬の出来事で悲鳴一つ上げられず、あたしは路上で仰向けになって押え付けられてしまった。
驚いて息を飲んだあたしの胸の谷間に、その人の頭がぐぐっと押し付けられて、あたしの二つの膨らみが、ムニッ☆ と顔の方に競り上がる。
「あんっ!」
ハァハァハァ……
耳元で荒々しい呼吸が聞える。怖いハズなのに、あたしの胸に頭を埋めて興奮しているその人の、浅くて速い呼吸が服の生地を通って、熱い息が素肌に当たるから、感じちゃってナンだか少し変な気分に……
「あん、いやん……」
恥ずかしくなって、はにかみながらその人が誰であるのかを確認しようと、頭を擡(もた)げて見詰めると……あたしのゆったりと寛(くつろ)げた胸元に、サラサラヘアが掛かっている。気持ちイイけどくすぐったいよう。
だけどこんな頭したの、痴漢撮影隊の中に……居たっけ???
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