第32話 お持ち帰り?(彼女サイト)




    あたしは頭を廻らして、路上に転がっている痴漢撮影隊の姿を捜した。

    ……って、あ、あれれ? カメラマンもみーんな全員が揃ってオヤスミしちゃっているわ。だとしたら、このあたしを襲っているオオカミさんは一体ダレっつ???

    「うぅう!!!」

    「ひっ!?」

    その人は低く唸ると、あたしの襟元にワイルドに噛み付いて首を振り、上着のシャツを力任せにビリビリと引き裂いた。

    「きゃ!? ト、トッキー???」

    我を忘れて野生に戻ってしまった野獣みたい。超ワイルドにあたしを倒して押さえ付け、シャツを乱暴に引き裂いてくれたのは、あの超温和な好青年……のハズであるトッキーだった。

    シャツの右襟を肩口まで深く破かれて、あたしの細い右肩が胸元まで露わになっちゃった。乱されたせいで、ブラの右肩紐がはらりと肩から外れ、Cカップからナマの膨らみが今にも弾けて飛び出しそう。因みに今日のブラは淡いピンクのラメ入りレースのお気に入り。

    ホントーは、トッキーにハズして貰いたかったのだけど、こんな場所と状況で……なんて絶対にイヤ。

    「き、きゃあぁ……ぁんぐ?」

    悲鳴を上げそうになった口を唇で塞がれた。相手がトッキーだと判ってショックを受け、思わず涙眼になるあたし。

    しかも、初めてのトッキーとのキスなのに……こんなのって、やっぱしイヤだぁ。

    「うぐぐぐ……ん、ふぅん……」

    ああん、普段の温厚トッキーとならこんなワイルドプレイでもゼンゼンあたしはOKよ? だけど『素』を忘れて理性が消し飛んじゃって、暴走しているトッキーとのドキドキファーストイベントがコレだなんて、怖くてやっぱりイヤなのよう!

    ……って思ってるのに、ナゼだか感じて気持ちイイ?

    いや、感じている場合じゃないわよう! 

    早くいつものトッキーに戻って欲しい。そして、別の場所でこの続きをシッカリと遣って貰わなくっちゃあ! 

    ……なんて考えてしまうあたしはチャッカリ者……なのかな?

    「ん?」

    路上に這うあたしの指先が、手懸かりになりそうな物を捜して彷徨い、そして何かに触れた。ヒンヤリとして細い『何か』は軽い物らしく、あたしの手で簡単に弾かれる。

    この感触。まさかとは思ったのだけれど、コレってトッキーが平手で殴られた時に外れたあの眼鏡なのかしら?

    あたしはこの時、何を思ったのか自分でもよく判らなかったのだけれど、とにかく眼鏡を掴むと、あたしの上で馬乗りになって猛り狂っているトッキーに素早く装着させちゃった。

    「お? ……ぅあ?」

    「んっ?」

    途端に、それまで暴れていたトッキーが、急にピタリと静止して動かなくなってしまう。でも、眼鏡を掛けて、急に大人しくなっちゃうのって……ヘンだよ?

    あたしは妙に勘繰って、今度はトッキーの眼鏡のブリッジ部分を片手で掴んで、するりと顔から外してやった。

    「あ……ぐぅう……」

    トッキーは顔を顰めて軽く俯くと、またしても殺気立って唸り始める。

    いやん。オオカミみたいな君も好きぃ〜。なぁーんて調子に乗っている場合じゃなかったわっつ! 

    ウソみたいなこの『殺気』! 早くこの眼鏡を掛けさせないと、あたしマジでトッキーに食べられちゃうかも知れないし。

    ……別の意味で食べてもいいよん。って思うけど、流石に今はヤバイわよ。

    あたしはササッとトッキーの眼鏡を元通りに掛けてあげた。すると、トッキーったら寝起きみたいな、ぽやん☆ とした表情にもう一度戻っちゃったし。

    「あ……れ?」

    「は、はぁ〜い」

    あれだけの衝撃でも、全く破損していないトッキーの知的黒縁眼鏡くん。一体、どんな衝撃緩衝仕様になっているのかしら。普通なら、レンズぐらい割れちゃうでしょう?

    その眼鏡のレンズの奥で、一杯に眼を見開き、自分が路上に押し倒しただろうと思われるあたしとの状況を把握して、メチャクチャ驚いた表情を浮べてフリーズしたトッキーに、あたしは照れながら小声で返事をしてあげた。

    ツイデに顔の横辺りで、左手で小っちゃく手を振ってみせる。

    「あ、あのぅ〜こんな状況で、こう言うのもナンなのですが……」

    「はい?」

    あたしはトッキーの、超ドアップ困った表情に見惚れながら、ワクワクして次の言葉を待った。

    「どちら様でしょうか……?」

    が―――ん!!!

    トッキーの言葉に打ちのめされて、思わず頬が膨らんでしまった。

    アイタタ……☆ 一体ナンなの? このボケは……? マジでトッキー天然……なのっつ???

    思わず退いちゃうあたし。

    あ〜ん、このあたしが上司の美弥子さんだと気付いてくれないのは変装したりしているから仕方ないし、気付いてくれなくってもゼンゼンOKなんだけど、一発ヌイテあげた『美弥』ちゃんのあたしの事も判んないのぉおおお〜〜〜???

    拗ねるわよっつ? 今月の考査は辛口に付けちゃうからっつ!

    「あの、本当にあたしが誰だか判らないの?」

    「はぁ……俺、女の子に知り合いなんて……第一、こんなに近付いたのも、その……」

    でっ、でぇえええ〜〜〜??? なにその『真っ赤になってのモジモジ君』はぁあ? もしかして『こんなシチュエーションは初めてなんですぅ』なんて、言い出すのじゃ無いでしょうね?

    あたしの激怒爆発が秒読みカウントダウンに入った時だった。



    「こっちです! お廻りさぁーん!」

    切羽詰ったような誰かの声がして、数人が走る乱れた靴音と、野次馬連中に道を空けるよう警告する警笛の音が近付いて来た。

    撮影だろうと思っていたギャラリーの誰かが、騒ぎに驚いて通報したんだわ。

    そういや、さっきまであたしは派出所に助けを求めようとしていたのだったっけ。

    だけど、トッキーのこの状態! あたしを襲っているトッキーは、どう見たって立派な『痴漢さん』でしょう? 言い逃れなんて出来そうも無い状況だわ。

    「ちょ、退いて!」

    「あ? ああ……」

    あたしはトッキーを力任せに押し退けてスック! と立ち上がると、有無を言わさずにトッキーの左手をがしっ☆ と掴み、お巡りさんに背を向けて駆け出した。

    「ち、ちょっと君っ! あ、あのっ……」

    「面倒な事に巻き込まれたくなかったら、サッサと走って!」


    トッキーの手を掴んだまま、あたしは駅の改札口を駆け抜けた。ジャストタイミングで停車していた電車に飛び込むと、間髪を容れずにドアが閉じる。

    「あの……何処まで行くんですか?」

    息を切らせたトッキーが、心持ち頬を赤く染めながら不安そうにあたしを見詰めた。

    妙に可愛く思えたその表情に、思わずドキンとするあたし。

    それでも握った手をあたしは放さなかった。放すとナンだか勿体ない気がするし……

    って☆ や……やっば〜〜〜っつ。

    あたし……ドサクサに紛れて、トッキーをお持ち帰りしちゃったわ。




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