第36話 ファーストたっち☆
「うん?」
クリーム色の革張りローソファに座っている俺の目の前鼻っ面に、彼女は両腕を自分の膝に突っ撥ねると、腰を屈めて顔をぐっと近付けた。その奥で、深い谷間が白いフリフリエプロンの胸当て部分から今にも溢れてしまいそう。
うぉあっつ☆
そ、そそそんなに腕で胸を挟んだら、ぷりん☆ って、余計にバストアップしちゃって、胸にお尻があるみたいに見えるじゃないかよー。
眼の遣り場に困ってしまい、真っ赤になって逆上せてしまう俺。心臓がバクバクしちゃって……こんなのじゃ、彼女が美弥かそうでないか……だなんて『冷静に判断出来るワケないじゃないかぁー!』状態だよっ!
すっかり腰が退けちゃって、後ろ手を着いたまんまで慄(おのの)く俺。今にも彼女から押し倒されて襲われてしまいそうだ。
でも、柔らかそう……
って、ああっつ! いっつ、イカン。逆上せてしまって、せっかくのシーンなのに、眼鏡が曇ってよく見えな〜〜〜いっつ!
「うふふん。眼鏡が曇っちゃっているわよ?」
クスクス笑う『ぷりん☆セス』は、バストアップしていた腕で、今度は俺を挟むように左右の腕を拡げてソファに着くと、俺に覆い被さるようにして大接近して来る。
「あ、ああああのっつ……」
「うん?」
「ぼ、ボク達さっき会ったばっかりで、そっ、その……ち、ちょっと、あ、あのー、こ、こんな行動に出すのは早くないですか?」
「そんな事無いわぁー。コレが二人の運命なのよ〜」
「えぇえ〜?」
なんでー? ……って一瞬だけそう思ったけれど、幾ら見掛けで女の子の個体差区別が出来なくったって、俺にだって『勘』って言う第六感くらいはあるんだよ。
イキナリな大胆行動に、俺は彼女と美弥のキャラが合致したような気がしたし。
そうだよ。でなきゃ、見ず知らずの俺の些細なオーダーに、ココまでサービスしてくれる理由が見当たら無いじゃないか。
そ、そのぅ……シャワー浴びて準備まで……
「あ、あああ、あのっつ」
「んー? なーに?」
俺のドギマギ状態を面白がって窺っている『仔猫』の大きい瞳が、紅いフレーム眼鏡の奥でキラリン☆ と光る。
もしかして……
「美弥……さん?」
「ピンポーン! 当ったりぃー! って、今頃なのー?」
「はぁ……す、スミマセン」
「まぁいいわ。気付いてくれちゃったのならぁー。で? あたしへのご褒美はにゃ〜に? ご主人さまぁー」
美弥はそう言った後に『みゅん!』って猫の鳴き真似をすると、気持ち顎をクッとナナメに引いて、大きな瞳をパチパチと瞬かせ、俺に媚びて見せる。
自分で自分を演出するのが上手いなぁーと、俺は妙な次元で感心して見惚れてしまった。だから猫耳メイド姿がナース姿よりも似合っているのかぁー……なんて勝手に納得。美弥は『猫』タイプなんだろう。
……なんてコトを考えていたら、傍目固まってフリーズしてしまった俺に、美弥は痺れを切らせてしまったみたいだ。
「んなぁっつ???」
イキナリ美弥は俺に向かってダイビング……いや、ボディプレス? 彼女の標準ではそんなには重く無い体重で、俺はソファの奥にめり込むように、ぐうん☆ と沈み込まされる。
っても、やっぱし重い……つか、む、胸に顔が挟まれてるぅ〜〜〜!
「やーっと気付いてくれたのねぇー? ウンもう、マサくんってば遅いわよう。サービスしちゃうからぁ」
「ん〜ん〜ん〜!!!」
一体、ナンの『サービス』だぁあ? つか、い、息が出来ない。窒息するぅ―――!!!
「やーん、マサくんってば興奮しちゃって熱いぃー。そんなに動いちゃったら感じちゃうからダメぇ〜」
頭をがしっ☆ っと両腕で抱え込まれ、俺は息が出来なくなって必死にもがいた。そして美弥の腕をポンポンと軽く叩いてギブアップ。たちまち酸欠状態になって、全身がカアァッ! と燃えるように熱くなり、痺れ始める。
「なぁ〜に? 今の『ぽんぽん』って?」
ひぃいいい〜〜〜、美弥はギブアップのサイン――相手を軽く叩いて『参りました!』の宣言の事を知らないのかぁあ?!
き、気付いてくれよぉお〜、お願い、気付いてぇえええ〜〜〜! し……死ぬぅう〜〜〜!
俺はこの時『窒息死』の文字が脳裏に過った。
き、気が遠くなるぅう―――!
「んんっ……マサくん、眼鏡ジャマぁ」
むぎゅぅう―――と俺の頭を抱き締めていた美弥は、意識が遠くなって行きそうになった俺を一旦解放すると、抱き締められたせいで顔から外れ掛かってしまったトレードマークの眼鏡をヒョイ☆ と取り上げた。
「ンっあ……はぁー、はぁー、はぁー……」
や、やっと息が……出来た……ぜーはぁー言いながら、全身に失くした酸素を送り込もうと、俺は身体全体を揺らして大きく息を継ぎ続ける。
ま……マジで死ぬかと思ったし……
窒息酸欠状態がなせるワザなのか、そとれともケントがいつも厳重注意していた眼鏡を外されてしまったからなのか……俺は気分が悪くなるほどの強い眩暈を感じて片手で顔を覆い、眼を強く瞑った。
「ふふん、ねーえ、眼鏡外したらどうなるの?」
「っだ、駄目です美弥さん……返してください」
「ねーぇ、もう一度あたしに見せてぇ?」
「意地悪しないでくださいよぉー」
眼を閉じている俺の耳元で、イタズラっぽく美弥がそっと囁いた。美弥の熱い吐息を首筋に掛けられてゾクゾクするが、眼鏡を返して貰おうと焦っている俺は、ザンネンだけど感じている余裕なんて全く無い。
と、とにかく返して貰わないと。このままだと意識が飛んで、俺がナニをしでかすか……そう思った時、チラリと美弥の破けたさっきの服を思い出してしまった。
まさか……あれってもしかして……
胸に詰まっていた厭な予感が、一気に噴出して俺を包み込む。
う、うわ……アレって、俺が遣ったのかぁあああ? だとしたら、今のこの俺の状態は、美弥にとってもの凄くヤバくてキケンな状態なんじゃないかよー!!!
満更でもない可能性に、俺は尚も焦った。
「早く眼鏡返してください」
俺は眼を硬く閉じたまま、美弥の手にしているだろう眼鏡を捜し求めて、腕を伸ばして泳がせる。
「うふふん、やーよ?」
「コラッツ!」
「あー、なにその言い方ぁー」
「あー、スミマセン。つ、つい……」『意地悪っぽいトコロが猫にソックリだったから』って、言い出しそうになってしまった。「と、とにかく返してくださいってばぁー」
「やーよ。マサくんからご褒美貰わなくっちゃぁ、返してあげなーい」
「もぉー、なんでそんなに意地悪するんですー? 返してくださいったら、返してくださいよぉー、つーか、熱いからチョッと離れて?」
俺は美弥の身体を退かせようと、腕を深く折り曲げた。お互いの身体の隙間に潜り込ませ、両手を開いて突っぱねる。
「ひゃん!?」
あぁあ?
むにっ☆ ……って、こ、この掌に接触した柔らかいモノは、も、もしかすると……
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