第39話 お邪魔…?




    さっきから心臓がドキドキしている。この心音が美弥に聴かれてしまうのじゃないだろうかと思うと、尚更胸が激しく高鳴った。

    「んー」

    美弥は眼を閉じて、軽く顎を突き出した。化粧っ気は殆んど無いが、それでもしっとりとして柔らかそうなピンク色の唇は、口紅を引いたみたいに艶やかで甘そうな果実みたいに見えて、俺にとっては凄く旨そうに思えた。

    コレって、もしかしたら『キス』の催促……なんだろうか?

    「はふっ?」

    そう思ったら、無意識に俺の口と下半身に妙なリキが入ってしまい、背筋がゾクゾクする。俺の視線は美弥の唇に吸い寄せられて、逸らせるコトが出来なくなった。カサカサだった自分の乾いた唇を無意識に舌先で舐めて、適度な湿り気と柔軟性を取り戻す。


    ――行けっ! 行くんだっつ!


    頭の中にもう一人の俺が居て、俺に美弥にキスしろと妖しく唆(そそのか)す。

    美弥を拾ったのはこの俺だし、偶然かもしれないけれどこうして美弥の家に案内された。そして今、目の前にメイドエプロン姿で俺を待っている美弥が居る。

    先ずはお互いの趣味なんかで時間をかけてじっくりと会話を盛り上げてから……って言う、俺が思い浮かべていた、出逢い恋愛シミュレーションとは若干……つか、全く違っているけれど、これ以上のお膳立て美味しいかものシチュエーションを、みすみすスルーしてしまうのは美弥に対して、逆に失礼なんじゃないのかなと思ってしまった。

    「うン、マサくぅ〜ん、早くぅう〜ん」

    「美……弥さ……」

    俺は美弥の色っぽさに見惚れてしまい、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

    美弥は頬を染めて眼を閉じたまま、俺が来るのをじっと待っている。

    さっきのビールには媚薬か何かがコッソリ入れられていたのだろうか? 俺はなんだか頭がポーッとしてしまい、まるで催眠術を掛けられて吸い寄せられるように……そっと美弥に唇を重ねた。

    ん……見た目もそのまんま。柔らかくって温かくって、ムニュムニュしてる。

    こ、これが……キス?

    病み付きになりそうな気持ちイイ感触に、俺は有頂天になってしまった。

    ……と、その時だ。

    「ん? ん〜! んん〜!!!」

    それまではしおらしかった美弥が、イキナリ俺の頭を両手でぐぁしっつ☆ と掴んで固定したと思ったら、全体重を利用してもの凄い力で押し倒して来た。再び俺の身体に美弥の巨乳が凄い弾力を伴って押し付けられる。

    そして美弥は、俺の口中に舌先を尖らせて突っ込んで来た。

    「はへぇ? みひゃはん、あにふるんふぇふぅー?(美弥さん、何するんですー?)」

    驚いてじたばたする俺。眼を見開くと、大接近している美弥の眼が、俺の視線に応えるように妖艶に細くなる。

    「んぐ、あぐぐっつ……」

    ひぃいいい〜〜〜!!! こっつ、怖えぇ〜〜〜!

    ドン退きする俺にお構い無く、美弥は俺の口中を舌で舐め回し貪欲に唾液を啜った。

    こんなのって、無いぞ? 俺の中ではこんなのはナシだよ!

    俺の理想と懸け離れていた美弥とのキスに、俺はショック受けた。

    幾ら女性ケイケンが無いって言っても、一応俺だって理想のえっちとか妄想して……まぁ、オカズにしたりしていたけど。こうも責められると……なんかヤだ。

    「んぁあ、美弥ひゃん」

    「あに?」

    「ひゃ、ひゃめれくらひゃい(止めてください)」

    「ウン、じゃあねぇー」

    俺の要求に、美弥は素直に唇を離した。透明な唾液の糸が俺の口から繋がっているのを、美弥はちゅ☆ と音を立ててススリ上げる。

    「あーんしてぇ?」

    「?」

    なにそれ?

    ポカンとしている俺を見るなり、美弥はもの凄く嬉しそうな顔をして、俺に口を開けろと言って自分の口を開けて見せた。

    ピンクの唇から、真っ白いキレイな歯がチラチラと見え、その奥で紅いヌメった果実がちろりと動いた。

    「どうするんです?」

    「うふふっ、あのねぇ……」

    若干恐怖を覚えて慄く俺の反応に満足したのか、美弥は尚も説明をしようとした時だ。



    玄関から呼び出しのチャイムが鳴り、俺と美弥はその場で飛び上がるほど驚いてしまった。

    こんな真夜中に、一体誰が美弥のところに遣って来たのだろう?

    そう思ったのも束の間。俺は瞬時に何者かの気配を察して美弥を強引に押し退けると、素早く自分の背後に匿(かくま)った。

    突然の俺の反応に、美弥が小さな悲鳴を上げる。

    「誰だッ!」

    さっきまで美弥と二人っきりだったこの室内に現れた、大型キャビネットの陰に隠れているもう一人の気配に向かって怒鳴った。

    「ちょ、ど、どうしたのよ? マサく……」

    「出て来い! 隠れても無駄だ!」

    相手からは、俺達をどうこうしようと言った悪意は微塵も感じられなかった。だけど、そのぅ、お、俺としては情ナ〜イ初えっちを目撃されてしまったワケで……

    と、とにかく、ソイツをとっ捕まえて、何とか隠蔽行為に専念するんだ。ああっ! 出来る事ならソイツがケントではありませんように……

    なんて想いも虚しく……現れたのは、いつものスーツ姿でキメている俺の『元』執事だったケント。あの時、追いかけて来るなとちゃんと言い置いていたのに……やっぱり……来たんだ。

    「〜〜〜」

    う―――あぁあ―――っつ!!! よりにもよって、一番俺が見られたく無いケントに見られてしまったぁあああ!!!

    激恥ズくて、顔から火が出そうだ。まさか、最初っから隠れて見ていたのじゃないだろうな?




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