第4話 猫耳人形(彼女サイト)
「ん?」
あらひのきゃららぎゃ揺れれうー? (あたしの身体が揺れてるー?)
奇妙な浮遊感と単調なリズムの揺れ具合に、あたしはボンヤリと眼を開けた。
あん?
眼鏡が無いからハッキリとは見えなかったけれど、舗装された暗い道を、あたしってば誰かに何処かへ連れて行かれてる?
しかも、このあたしがキツネの襟巻きみたいに担がれてるの!
なんで?
どうしてっつ???
「……」
何が起こったのか、一生懸命思い出そうとするのだけど……
……ヤバイわ。
何にも覚えて……ない。
少し前だったら覚えてる。合コンで知り合ったイケメンの彼と、近くにあったバーで面白半分にワインと日本酒の利き酒をしてて、それから……
う〜〜〜ん、その後がゼンゼン思い出せないわっ。
だけど、イケメンのカレシってこの人……だったっけ???
ってか、なんでこの人?
あたしはあたしを担いでいる男の人の横顔を、チラリと盗み見てしまう。
あ〜〜〜ん、だけどショックぅ〜〜〜眼鏡が何処かに行っちゃってるから判んない〜〜〜。
それに、この『彼』コンビニの制服着てるぅー。
やっぱ、違う『カレ』でしょ?
どうしようかと迷ったけれど、いい案が浮かばない。
あたし、この人に運ばれて、何処に連れて行かれるのかなぁー?
多分、この状態はあたしにとってはもの凄く危険……それは判っているの。
判ってはいるのだけれど……
ナンだか揺られて気持ちイイ……
って思っていたら、何処かの部屋に入ったみたい。
トタンに『ゴン!』って音がして、あたしの眼から火花が散った。
「ぎゃんっつ!」
イタタタ……
頭、打ったあぁあああ〜〜〜ふみぃ〜〜〜ん。
思わず叫んだあたしの声に、彼は『え?』って驚いていた。
……そりゃあ、打ったら痛いんだから、悲鳴上げるの仕方ないっしょ?
あたしは彼の大袈裟過ぎるリアクションを不思議に思った。
彼はあたしをもう一度、今度はお姫様抱っこで抱き上げてくれた。
間も無くしてお尻に接したベッドの感触に、あたしは慌てて目を開けて『ナニすんの?』とばかり彼を見上げる。
ボンヤリとしか見えてなかった彼の顔が、間近に見える。
今日逢ったカレシには負けるけど……ややカワイイ系の顔だわね?
黒縁の眼鏡しか印象無かったけど、意外と眼鏡除けたら男前……なのかしらん?
あたしと同い年か年下なのかなぁー? なんて思っていると、あたしと視線を合わせてしまった彼は、タチマチ真っ赤になっちゃった。
そして『あ、あのっ、そ、その……え、えええエッチしようとしたんじゃない……です……から。きっつ、君が眠っていたから、そ、そそそその、よっつ、横にしようとしただけで……』なんて純情なコトを言ってくれる。
……ふぅん……
だけど、あのカレシみたいに煙草吸っているのかな?
あたしは思わずいつもの癖で、彼の首に近付いて煙草や他の女のニオイが付いていないかをチェックした。
……
……汗臭っつ☆
この彼……煙草どころか色気も……女ッ気すら全く……無いわ。
今時にしては、珍しいのね?
だけど、そう思ったら妙に安心出来ちゃった。
変なの。
今日こそは、未来の旦那さんを『捕獲(ゲット)』するぞ―――!!! って息巻いて、合コンに参加してたのに。
襲われちゃって、イケナイ事が起こってもゼンゼンOK! の覚悟だったのに。
こんなにホッとしているだなんて、やっぱ心のどこかで焦り過ぎちゃっていたのかなぁ?
……で、何でイケメンのカレシが、この人にすり替わっちゃっているのかは、未だに不思議なんだけど?
彼、もしかしてあたしの事を拾って介抱してくれたのかしら?
あたしが眠ったフリをしていたら、あたしが絡ませた指を彼は優しく解くと、傍からそっと離れて行った。
……え?
こんな時でも襲うの……ナシ?
良かったぁあああ〜〜〜
意外だった彼の行動にホッと胸を撫で下ろしていると、別室に入るドアの音がして、水音が聞えて来た。
「……」
あたしはパチッ☆ と目を開けて、消灯している薄暗い彼の部屋だと思われる場所を見回した。
六畳……じゃないわよこの狭さ!
最近は学生だってこんなに狭い部屋じゃないわよ?
しかも部屋にあるのはこのベッドと小型テーブル。そしてその上にはPC。それから一メートルくらいの高さの冷蔵庫と、レンジ。
天井には洗濯物の靴下とパンツにシャツが部屋干されていた。
壁には……?
なんだか見覚えのある作業着の制服。
アレって、ウチの会社のとよく似ているけど……そうなのかなぁ?
だけど、良く見えないのよね。
一体、何処に落としちゃったのかなぁ、あの眼鏡……
ボンヤリと考えていたら、急におトイレに行きたくなった。それに喉が渇いてお水が飲みたい。
あんなに飲んだりするのじゃなかったわ。
お酒は結構強いって思っていたんだけどな? 今日はお酒に飲まれてしまったのかしらん???
悪いとは思ったけれど、後でお返しすると心に誓って、彼の部屋の冷蔵庫を勝手に開けさせて貰った。
中には……麦茶のパックが入った保冷用ポット……だけ?
何か他にはと捜したけれど、清涼飲料水なんて見当たらない。
ってゆ〜か、食材さえ中には殆んど入っていなかった。
仕方なく、シンクの洗いカゴに入っていたコップに麦茶を注ぐ。
とくとく……
保冷ポットからいい音が聞える。
こく……
あら? ……美味しい。
麦茶なんて、あたしが作ったら真っ黒になっちゃってもの凄く苦いのに、ココのは美味しいわ。
きっと彼が作った……のよね?
あたしは妙に感動して、ふうんと鼻を鳴らす。そして二杯目のオカワリを注ぎ足すと、空っぽの冷蔵庫から視線を逸らし、マトモに見えない眼をうんと細めると、もう一度部屋の中を見回した。
コッチも……殆んど、何も無い。
コレって清貧? 赤貧???
あたしってば、ひょっとして貧乏神の住んでいる場所に遣って来たのかしら?
そう思えてしまうくらい、彼の部屋は整然と……散かせるモノさえ無かったの。
かと言って、掃除とかを怠っているってカンジじゃないし……
「……う」
ああっつ、忘れていた『尿意』があぁあああ〜〜〜!
あたしは涙眼でキョロキョロと見回し、おトイレを探した。
……ウソッツ!
ひょっとしなくっても、今、彼がシャワー浴びている中にしか……ないのっつ???
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