第42話 山路家での…朝?




    「ん……」

    完全に締め切られていなかった遮光性カーテンの隙間から毀れて来る、柔らかな日差しを浴びて、俺は久し振りにフカフカ高級ベッドの上で眼が覚めた。

    ベッドのサイズはダブルのキングサイズ特注品。『天蓋』と言う屋根があり、そこから薄絹のカーテンが何重にも折り重ねられている。身長百六十強の俺が独りで眠るには、モッタイナイくらいの大きさだった。尤も、常盤が崩壊してしまうまでは、俺もこんなゴージャスなベッドを愛用していて、ケントの淹れてくれた極上コーヒーで優雅にモーニングを摂っていたんだけどね。

    俺はそれまでのウソみたいなドン底の生活の総てが夢であって、ずっとその悪い夢を見続けていたような気がしていた。

    いや、マジでコレは夢……なのか?

    ほら、コドモが俺のコトを覗き込んで見ている……し?

    アレ? そもそもウチにコドモなんて居やしない筈だが……?

    ……うん? それにしても、ナニを覗き込んで見ているんだ? 俺の顔ならココにあるのに、上半身じゃなくって、下半身を見ているのか?

    そう意識した途端、俺は下半身にあるべき上質シルク製の毛布の存在感がスッカリ無くなっているコトに気が付いた。

    「いっ、いいいっつ!?」

    慌てて上半身から毛布を片手で剥ぎ取りながら、空いた片手を支えにして上半身を引き起こす。

    「ああ、起きたのか? 早いな? もっとゆっくりしていても良いのだぞ?」

    そのコドモは、なんと明日香お嬢様。

    俺がココに遣って来るのを、夜中まで起きていて待っていて、イキナリムチで歓迎してくれちゃった女の子だった。

    「な、なな……」

    なんでココに居るんだよっつ??? 

    ココは昨夜確かに俺の部屋だと与えられた場所なんだぞっつ?

    しかも、明日香が見ていたのって、お、お……俺の生理的現象のあ、朝立ちっ……しかも、ヤケにスースーするなぁーって思っていたら、パジャマのズボンとその下着がねぇえええ〜〜〜???

    「ああ、気にする事はないぞ? お前の健康チェックをしていただけだ」

    「きっ、気にするよッツ!」

    慌てて毛布を掛けて『ブツ』を隠した。

    それはナイでしょお嬢様? コドモに俺の秘密をナマで観察されてしまったし。

    自分、小学生だろうがっ! まだ興味を持つのは早過ぎるんだよっつ! ンなコトをどっから学んで来てンだよっつ?

    ったくぅー。

    「明日香の旦那候補なら、その辺りをちゃんとチェックしておかねばな。EDでは困るのだ」

    「いっつ……」

    E……D……です……か。

    ははは……今時の小学生は凄いんだと思ってしまった。ナンテェ言葉を知っているんだよー。俺、ショックで暫らくは小学校の前を通れそうにないよ。

    サスガは中々子宝に恵まれなかったと噂の山路家だ。旦那候補の初っ端条件がクリア出来て光栄だよ。


      *  *


    「明日香お嬢様? 御召し換えをなさいますか?」

    「うむ」

    俺のベッドすぐ傍で、明日香に声を掛けた女の気配がした。そして天蓋ベッドのカーテンを手で押して顔を見せたメイドが……み、美弥っつ??? 

    ……って、冷静になってよく見てみれば、年頃は美弥と近いだろうけれど、顔と姿は全くの別人だった。

    つか、ゼンゼン似て無かったし。

    左右振り分けの三つ編みオサゲが、その子を大人しくて従順そうな好印象的にしていた。胸だって美弥ほど成長し過ぎていないし、寧ろ平坦なくらいのささやかな丘。

    って、もしかすると、今さっきの俺の状態を、みっ、見られたぁっつ???

    途端に顔が熱くなって、火が出そうになった。コドモに見られたって知れているし、明日香の言う通り、気にするコトは無いと思っていたのだが、サスガに適齢期の女の子から見られちゃったら恥ずかしいよぉー。


    明日香は俺の居るベッドからひょいと降りると、オサゲのメイドの前に立った。

    「失礼致しますわ」

    メイドはそう言って明日香の羽織っていたピンクのガウンの紐を解く。ウェストで縛られていたガウンは、明日香のなで肩も手伝って、未成熟な白い肢体を撫でるようにして滑り落ちた。

    俺からは明日香の後姿しか見えなかったが、ガウンの下には一切何も身に着けてはおらず、メイドが履き易いように広げた白いパンツに片方ずつ脚を通して履かせて貰っている。

    あのー、もしかしなくても俺を無視して、そこで着替えてしまう心算なのかなぁー?

    キメの細かい白い柔肌はホンの八年物。華奢な身体の明日香だが、ウェストはまだずん胴で、お尻が小桃みたいにぷりん☆ としていて、もの凄く柔らかそうだった。

    幾ら小学生だとは言え、女の子のナマ着替えだ。男の俺としては、このシチュエーションに少しだけドキドキしてしまう。

    メイドはてきぱきと明日香の身支度を整え、俺が昔通っていた懐かしい聖ヨシュア学院の制服姿に着替えさせると、今度は俺に向かってニッコリと微笑んだ。

    「さあ、今度は正宗様の番ですわね?」

    「っえぇえええっ???」

    おっつ、俺っ???

    彼女は俺にそう言うと、両手を二度ほど、パンパン☆ と叩いた。

    「失礼致します」

    彼女の合図で、部屋の外で待機していただろう三人のメイドが、深々と頭を下げて俺のベッドを取囲む。

    「あ、ああ、あのっ、俺は自分で着替えるから、べ、別にイイです」

    「然様な事を仰らないで下さい。皆、正宗様の為にこうして控えておりました」

    「いや、あの、か、勝手に控えていてくれなくったって、着替えくらいは自分で……」

    「駄々を申されるものではありませんわ。さあ、お起きになられてくださいませ」

    オサゲ髪の大人しそうなメイドさんは、どうやら俺達の身の回りを世話してくれるメイド達の長になっているらしい。俺の弱腰退きの態勢に多少イラつきを感じたのか、やや強い口調でぴしゃりと言われてしまったし。

    つか、俺だって着ているモノをキチンと着ているのなら、喜んでOKしているだろう。でも、今は本当に困るんだ。

    だって寝る前にちゃんと履いていたパジャマのズボンとパンツなのに、眠っている間に何処かに脱ぎ捨ててしまったらしい。詰まり、今の俺は上はパジャマを着ているのに、下は下半身露出したヘンタイ野郎になっちゃっているんだし。

    こんな姿で女の子達の目の前に出るコトなんか出来ないよっつ!

    俺はマジで困ってしまい、いつまでもモジモジしていると、オサゲのメイドさんが遂に痺れを切らせてしまったらしい。

    「お召し換えを拒まれるのでしたら、こちらから参りますわよ?」

    「いっつ? いやぁー、あの、ち、チョッとあの、そ、それは勘弁を……」

    俺は慌てて首を左右にぶんぶんと振って拒否する意志を示した。

    「正宗? お前が困っているのはコレのせいか?」

    「あ゛っ!」

    明日香はそう言って、片手を腰に当てて仁王立ちになると、もう片方の腕に俺の履いていたハズのパンツを手にして、高々と上げて大きく振って見せた。

    お、俺のぱんつ―――っ!

    少女みたいなメイド達四人の目の前で、明日香は平然として俺のパンツをひらひらと振っている。

    「お、お嬢さん? ナニするんですか。それ、早く俺に返してくださいよ」

    ああっつ! もお止めてくれぇえええ〜〜〜!

    恥ずかしくて消えてしまいたい〜〜〜。

    それでなくったって、女の子とは顔も合わせないようにしているし、近付かないようにしていたのに。なのにこんな女性慣れしていないオクテ君のこの俺が、女の子達に囲まれてノーパン変態姿で居るだなんて、俺的には絶対に在り得ないし!

    「のう、正宗? 己の姿を何故に恥じる?」

    「あ、ああ……当たり前でしょうっつ?」

    明日香は不思議そうな顔をして俺を見詰めた。

    つか、小学生がクソ真面目な顔をしてそんな事を議論して来ないで欲しい。

    そう思ったのだが、俺はその逆もアリなのだと言う事に気が付いた。





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