第43話 解雇だぁっ!
その逆……詰まり、小学生の明日香だからこその発想だ。
人の羞恥心は年齢を重ねる度に、大きく強く成長して行くものだ。だからこの場合、低学年の明日香には、全裸で居ても、尚且つ他人からその姿を見られても、羞恥に対する認識度がまだ低いから『恥ずかしい』と思えないのじゃないのか?
そうだと判ってしまったものの、明日香には些細なコトだと思われたって、俺にとっては大問題なんだよっつ!
「明日香のお父様やお母様は、お前の様に見苦しく取り乱したりはしないぞ?」
明日香は左右に高く結い上げて、細くて真っ赤なリボンでゴムの所を結んで貰ったツインテールを、片手でサラリと肩から払った。その気取った仕草が妙に小生意気だ。
純白の大きなセーラーカラーは、細いグレーのリボンで丁寧なラインアクセントが施されていて、襟元には上品なエンジ色の大判スカーフ。袖口はチョウチン袖のパフスリーブに、淡いブルーグレーで背中バッテンのタスキ掛けプリーツスカート。足元はフリフリのゴージャスレース付き靴下で、スカーフと同色のストラップタイプのエナメル靴と言う、何処から見ても小学校低学年にしか見えない格好になった明日香が、ナマイキそうに腕を組んで俺を軽蔑するような視線で以って見詰めて来た。
「見苦しくて結構だ。悪かったな」
着替えすら自分で遣らないのか?
児童だけの特権じゃなくて、親までソレかよ?
俺は山路家のすっ飛んだ慣習もだが、実は使用人の多さにも退いていた。たかが着替えぐらいでこの人数。どこまでセレブを気取れば気が済むのやら……
つか、俺の両親は、極力人の手を借りる事を嫌っていたタイプの人間だった。
人の助けに頼る者は、上に立って他人を指導するべき者には成り得ない……と言う常盤の家訓があったせいもあるのだが、この山路家は常盤と逆の方針なんだな。
俺をベッドごと取囲んでくれている彼女達だって『おかしい』とかって思わないのかよっつ?
で、俺は毛布に包まったまま、若干まだ退いてはいるものの、勇気を出してメイド達を見回した。女の子を見詰めるのに、どれだけヘタレなんだよと自分に突っ込む俺。
「……」
う〜〜〜ん、女の子を観察するってコトにまだ馴染めない俺は、視線をせわしく動かせてキョドってしまい、後から遣って来た彼女達を見ても、最初は美弥にしか見えなかったのだが……
落ち着いてよくよく観察して見れば……当たり前だけど、三人とも美弥じゃなかったし。
彼女達は、それぞれが俺と視線を一旦合わせると、顔を伏せながら長いメイドスカートの裾を両手で左右に摘み、膝をちょこんと屈めてお辞儀をする。
「おはようございます、正宗様。これから正宗様のお世話をさせて頂きます、優花と申します」
「初めまして。麻紀です」
俺の真正面に居た優花は、挨拶をすると、小首を傾げてニッコリと微笑んだ。茶髪をポニーテールに結った、活発そうな子だ。
続けてその隣のメイドが名乗って俺に微笑んだ。麻紀は肩に掛かる長めのワンレンが中々似合っている。少し『おでこ』が広いせいか、童顔っぽい印象が強い。
「は……はぁ……」
「……怜です」
最期に、麻紀の隣に居で名乗った怜は、他の子達よりも肌が白く、身体の『線』も華奢だし、少し大人しい感じの子だったが、彼女の髪は三人の中でも少し癖っ毛の外ハネヘアで、ヘアスタイルだけ見ると、見た目一番活発そうな髪型だった。
そして、さっきから明日香のお世話をしている、オサゲ髪のメイド長――真理奈さん。四人とも、多分俺よりも年下。
しかも、俺と同じかそれ以上……みんな……モデル並みにスラリと背が高かった。
「……」
ナニ喰ったらそんなに背が伸びるんだ???
俺的に、コンプレックスを煽られた気になって仕方無いんだけど。
唯一、怜だけが俺と同じくらいかな……? そう思っていたら怜と視線が合って、急にプイ! とソッポを向かれてしまった。
……? あ、あれれ? 彼女は他の彼女達とは少々毛並みが違うのか? 初っ端嫌われちゃったみたいだし。
カノジョ居ない歴をずっと更新し続けていた俺なのに、急に女の子達に恵まれると言うラッキーに回り逢ったのに、彼女達を前にして、勝手に落ち込んでしまう俺。
「これからお世話をさせて頂きます。なんなりと御用をお申し付けくださいな?」
優花が嬉しそうにそう言った。
「はぁ……じゃあ……取り敢えず……」俺はなんだか気まずくなって、彼女達から視線を逸らせて一頻り頭を掻くと、彼女達に負けないようニッコリと笑い掛けた。「ココからみんな出て行ってくれませんか?」
「……な? 正宗? お前、ナニを言っておるのだ?」
部屋に居合わせていた者達全員が、俺の言葉にフリーズしてしまったが、サスガは山路のお嬢様。すかさず切り替えて、自分のペースを取り戻した。
「ですから、着替えくらい自分で遣りますから、ココから出て行ってくださいね? モチロン、お嬢さんもですよ?」
「正宗? 駄々を捏ねるものではないぞ?」
「はぁあ?」
一体、コレの何処が『駄々を捏ねている状態』なんだよっつ???
「そう言って、この者達の仕事を奪うものでは無い」
「あ……明日香ちゃ……ん?」
いや、争点が……つか、根本的な部分が違っていないか?
「正宗、以後『明日香』と呼べ。お前には敬を略す事を許す」
って、ナニ偉そうに言ってんだ? まだ小二だろ?
俺は明日香の物言いに、少しばかり苛立ちを覚えてしまう。何処まで『何様』のツモリなんだよ?
「お嬢様? 此処は私達にお任せくださいませんか?」
優花と麻紀が口を揃えて明日香を見遣る。
「うむ。良かろう」
「正宗様、御免あそばせ?」
「えっつ? うっ、うわぁ☆ ……?」
明日香の声を合図に、彼女達は俺に向かって一斉に襲い掛かった。
フェミニストであるこの俺は、彼女達に抵抗して手を上げるなんて暴挙は出来やしないし、しかも彼女達……ウソみたいだが、俺よりも腕力あるんだなこれが……
……なんて暢気に状況を分析している場合じゃ無かった。
「わーっつ! 誰だ? ソコ触ってくんな!」
「うふふ……ふふっ……」
「あっつ☆ ち、チョッと止めて……」
彼女達のクスクス笑いに弄ばれるようにして、俺はアッという間に毛布を引き剥がされてしまい、唯一着ていたパジャマまで毟り取られてしまった。しかも、ドサクサに紛れて俺の相棒をイタズラタッチ☆ して来たヤツが、この中に居るっつ!!!
「なっ、ナニすんだよーっつ!!!」
朝っぱらから真ッ裸(パ)にされて、彼女達の前へと晒されてしまった。
身に着けているのは、もう眼鏡しか無い……つか、こんなの『身に着けている物』の内には入らないぞっ! 完璧にセクハラじゃないかよー!
泣きっ面には何とかで……背中を丸め、前を両手で隠して情ナイ格好で立たされてしまった俺を見て……「ちっちゃーい」とか、「かわいいー」とかって声が聞こえた。
うわぁ〜〜〜! 俺が一番気にしているフレーズを口にしやがってぇえええ〜〜〜!!!
そこのメイド達っ! 俺が雇い主なら即解雇だぁ!!!
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