第44話 妄想?(彼女サイト)
くうぅううう―――っ! 憎ったらしいあのオヤジぃいいい〜〜〜!!!
せぇーっかくトッキーを自宅にお持ち帰り出来たってゆーのに、あンのぉ白髪アタマのおジャマ虫がぁあああ―――っつ!!!
あと一息でトッキーを墜とせる自信があったのに!
くっ、悔しいぃいいい〜〜〜!!!
トッキーが連れ攫われてしまった後、あたしは独りで抑え切れなくなった悔しさに身悶えて、ソファに寝転がってじたばたする。
ああん、迂闊だったわ。まさかあのダンディなケントさんが、あたしの恋路の障害になってしまうだなんて予想外なんだもん。
しかも、あたしがマジでトッキーに想いを寄せているってコトを、トッキー本人よりも逸早く先に勘付いていたし……トッキーのおじいちゃんだなんて言っていたけれど、それもなんだか怪しいわ。 隙の無いってゆーか、洗練されている身のこなしってゆーか……
まったくもぉ。
ケントさんって、一体何者なの?
あたしは羽毛クッションを力任せに引き裂いて、中身の羽毛を部屋中に撒き散かしてしまった。ぎゅうぎゅうに詰め込まれていたあたしの心が萎まないように……っておまじないみたいなモノだけど、遣ってみるとコレって結構ストレスが発散出来ちゃうんだよねー。
……ただ、後片付けが別の意味でストレスになっちゃうけれども……ね。
でもって、そんな怪しげなケントさんの傍にトッキーが立つ度に、急にキリッ☆ としちゃうって事に、あたしは気付いてしまったの。いつも社内で見掛けるぼけぼけしたトッキーには見えなくなっているんだもん。
まるで青年実業家と執事みたいな品格すら感じたりしたのは、あたしがトッキーの事を良いように思って欲目で見てしまっているからなのかしら?
……あたしは細いグレーの縦縞が入った濃紺のブレザースーツを小粋に着こなして、社長の席に座って頬杖を着き、物憂げに顎を引いて気持ち斜めから正面を見上げてポーズを決めているトッキーの姿を思い描いた。で、彼のすぐ傍には黒い執事礼服に身を固めたケントさんが、休憩用にと※)ジノリのティーセットを手にして立っていると言う、絶対に在り得ない情景を妄想して感激してしまった。
「ふふっ……」
思わず浮かれて声が出る。
あたしってば、暴走し過ぎ?
あの『赤貧ビンボー社員』トッキーの、何処をどうすれば『お金持ちの実業家』になれるとでも言うのかしらね? 執事姿のケントさんは嵌り役ではあるけれど……とても実現不可能なのに、なんでこんな事を想い浮べてしまったのかしらん?
……あーあ、妄想だなんてダメダメだし。あたしは『絵に描いた餅』ヨロシク、『妄想で描いた凛々しいトッキー』を胸の奥深くに封印してしまうことにした。
明日……じゃないわ、今日も会社があるのだし。いつまでも妄想にどっぷりと浸っては居られない。早く頭を切り替えなくっちゃ。
あたしはトッキーに興奮してしまい、汗でしっとりと湿り気を帯びてしまったエプロンの裾をぴらん☆ と捲った。
さー、もう一度シャワー浴びよ〜っと。ブラとパンツはドコかいな〜♪
* *
「おはよーございまーす」
「うぃーっす美弥子ちゃん。今日も一段と美人だねぇー、今度、俺とデートしない?」
げ! 狩野だ。朝っぱらからナニすっ飛んだ事を言ってるのよ?
あたしは部内フロアへの総ガラス張りドアを引いたけれど、狩野がヘラヘラ笑いながらコッチに向って来るのを眼にしてしまい、事務所フロアに入るのを躊躇った。
「ははは……遣んなーい。じゃぁーねー?」
「ちえーっ、またスルーかよぉー?」
無意識に身体が事務所フロアへ向うのを拒否して二、三歩後退し、勝手に腕がドアを閉めていた。
同期の狩野が、隣の部署である国際物流事業部に梱包部品を届けに来ていたらしい。
朝から呆れるくらいのノー天気。公衆の面前で平然とンな事が言えるのは、アンタくらいだわ。
狩野はキライじゃないのだけど、いつも何処か抜けていそうに見えるのに、その実、全く抜け目の無い『探り』を入れて来るヤーラシイ奴。こんなのと付き合ってお泊りを許してしまおうものなら、翌日には本人と自分の通帳・印鑑一式が消えているわよ。
「だってー、狩野フリーじゃないもん」
そう言って、取り敢えずのお断り。
「アレ? 知らなかったなぁー、そうなの? いや、俺はいつもフリーだぜ? 美弥子ちゃんの為に俺の助手席はいつも空けているんだって」
「ざーとらしいわね。『いつも空けている』じゃなくって『いつも空いている』の間違いじゃないの? この前の茶髪ワンレンはどうしたのよ?」
「あー? ダレそれ?」
惚けた顔をしちゃっているけど、額に汗が噴いていているわよ? 全く……地味で冴えない同期が身近に居てくれちゃっているから、参考になって光栄だわ。と、あたしは心にも無いお世辞文句を頭の中で並べ立てた。
「え? ……じ、じゃあ、その前の女子大生は?」
「んー? なんの事?」
……コレだもの。
「……さてはまた振ったな?」
「美弥子ちゃーん、他人が聞いたら俺が女の子と日替わり定食ヨロシク遣ってンだと思われてしまうじゃないのよー」
またしてもの白々しい狩野の反応に、思わず溜息を吐いてしまった。しかも、微妙に場をごまかそうとしてオネエ言葉を使いまわすし。この調子なら、本当に『日替わり』遣っていそうだわ。
※)ジノリ : リチャードジノリ。
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