第51話 失言…?
山路家でメイド達に無理矢理パジャマをひん剥かれてしまった俺は、先にパンツを失くしていたから、文字通の『真っ裸(パ)状態』になってしまった。
明日香に俺の元気な健康状態の『朝立ち君』まで観察されてしまい、それだけで気が動転してしまっていたのに、イキナリなこの仕打ち。しかも、ドサクサに紛れて誰かは特定出来なかったが、俺の身体に触って来たメイド達に対して、俺が警戒するのは当たり前じゃないか。
――使用人を傍に置いている以上、その使用人の務めを果させるべし。主は威厳を以ってその務めに手を貸すものではない――
幾らそれが山路家の家訓なのだからと言われても、着替えまで彼女達に任せるだなんて、そんな恥ずかしいコトなんか出来るかっつ!
……もうトックに遣られちゃったけど。
恥ずかしさを通り越して憤りさえ覚えてしまう。こんな大昔のどこかの国の皇族みたいな生活の、一体ドコが良いんだよ?
明日香達がそれを行使するのは勝手だが、俺にまで押し付けないでくれっ! 俺は断固拒否するぞっつ!!!
初っ端から恥ずかしい思いをさせられて、膨れっ面で朝食を摂っている俺の様子を窺っていた明日香は、軽く手を上げて自分の口にスープを運んでいたメイドの真理奈の手を止めさせた。
『正宗? お前はどうしてそう……供の者を『モノ』として扱い、軽んじているのだ?』
はぁあ? なにその質問。
お前に言われたかねーよ。
つーか、ドッチが『モノ』扱いしているのだか……判ってンのか?
『人をモノ扱いにだなんてしていません』
聞き捨てならない明日香のナマイキな暴言に、俺はムスッとして言い返した。
俺に言わせれば、食事すら自分で摂らずメイドに食べさせて貰っている明日香の方こそ、彼女を『モノ』扱いしていないかと尋ねたい心境だ。
赤ん坊じゃないんだし。
『なら問うが、お前は何故未だに優花達メイドの区別がつかんのだ?』
『そ、それ……は』
痛い所を突かれて、俺は即答出来ずに口篭ってしまった。
メイド達の簡単な自己紹介を聞いておきながら、俺はあれからずっと彼女達の名前を取り違えると言う失態を、何度も繰り返していたからだ。そして、遂にそのうちの一人…… 一番無口で大人しそうに見えるレイを泣かせてしまったんだ。
俺がたった三人しか居ないメイドの名前と顔すら覚えてくれないのは、自分達に魅力が無く、俺が彼女達に興味や関心を全く抱いてくれないからなのだと言い、それが無視されたように思えてもの凄く辛くて悲しいのだとも言われてしまった。
別に彼女達に興味が無かったワケじゃない。本当はその逆だ。
俺だって男だし、女の子との『恋愛』に興味くらい持っているさ。
常盤が破産宣告を受けてから、俺は借金の返済に追われて時間を惜しみ、バイトのハシゴに明け暮れていた。自分の生活そっちのけで働き続け、女の子と関る余裕さえもう一生与えられ無いものなのだと諦めていた。
だから、女の子に興味を持たないように、女性と視線を合わせたり、関る事が無いよう極力避けてスルー出来るよう、自分から努力していたんだ。で、これが単にそうすることが習慣になってしまい、癖になってしまったその延長状態なだけで、レイ達と視線を合わせるのが、少しだけ苦手になってしまっていただけなんだ。
視覚的に相手を認識して判断すると言う事に慣れていないだけ……詰まりはその人がどんな容貌をいるのかを観察出来ないでいたから、こうなってしまっただけなんだよ。
『どうした? 答えられんのか?』
『いえ』
『ならばさっさと答えてみろ?』
明日香は偉そうにテーブルに両肘を着いて指を絡めると、気持ち小首を傾げて俺のコトをじっと見詰めた。
今までの有りの儘の現状を正直に話しても、俺と常識の基礎がズレている明日香には判って貰えそうになかった。せっかちな明日香に急(せ)かされてしまい、少しだけ戸惑ってしまう。
答えに困っていた俺の頭の中に、ぽん☆ と美弥の猫耳メイド姿のイメージが浮かんだ。
美
弥との出会いは俺にとって衝撃的であり、尚且つ俺に転機を与えてくれた招き猫。今俺の後ろで控えているメイドの彼女達でさえ、最初はみんな美弥だと勘違いしていたくらいだし、外出すれば、女の子達が美弥にしか見えなかった。それほど彼女の存在は俺にとって重要だ。
だから俺は、一番手っ取り早く納得して貰えそうなありきたりの理由を口にした。
『実は、好きな人が居るんです』
『!』
その俺の言葉に、後ろで控えていたメイド達が一斉に、息を飲んで退いてしまった。
彼女達の様子を覚り、ハッと我に返った俺だったが、もう時既に遅し……
明日香との婚約が条件で山路家に呼び寄せられていた事を、俺はスッカリ忘れてしまっていたんだ。
女の子との関りを何年も断っていた俺は、いつの間にか場の空気さえ読めなくなってしまったのかも知れない。
『そ……そう……か……』
何気ない俺の一言が、結構効いてしまったみたいだ。明日香は両肩を怒らせてワナワナと戦慄かせ、ぐっと深く頭を垂れて俯いてしまった。
『……』
明日香の周りだけ、流れている空気が若干違っているように思えたのは、単なる俺の気のせいか?
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