第52話 明日香の指摘?




    俺には意中の女の子がいるから、メイドの女の子達には悪いが、彼女達とは拘われなかった。だから彼女達それぞれの容姿認識が甘くなって、個々の区別が出来ずに名前を取り間違えて、いい加減な態度だと勘違いされてしまった。

    俺が彼女達からツレナイと思われたのにはそういった理由があるのだと、明日香の問い掛けに答えた心算だったが、明日香は良い意味で解釈してはくれなかったみたいだ。

    居心地の悪い空気に、俺はそそくさと朝食を済ませて席から立ち上がる。

    『ごちそうさま』

    『ま……待て、正宗!』

    『はい?』

    『お、お前はその相手を、あ……あ……』

    『?』

    相手を、あ……あ???

    明日香が何を言いたいのか読めずに、俺は軽く眉を寄せて首を傾げる。

    俺のその仕草を見るなり、明日香は頬を膨らませて機嫌を更に損ねた。

    『そのっ、そのう……あ、相手はお前の事をどっ、どう想っておるのだ?』

    『ど、どう想って……って』

    『お、お前はこ、告白してはおらんのか?』

    『告白……って?』

    まいったな。

    美弥とは行きずり……つか、俺がお持ち帰りしちゃった女の子だし。

    彼女は、ウソか本当かは判らないが、俺のコトを知っていると言っていた。

    だが俺は、美弥のコトを詳しくは知らない。一体何者で、何処で毎日出逢っているのかさえ、現時点で調査中。取り敢えずは彼女の住むマンションは判ったけれど、用も無いのに押掛けるワケにはいかないし、ましてや告白なんて出来やしないよ。


    俺は思わず黙り込んでしまった。

    明日香はナマイキにも、そんな俺の表情を読み取ってコドモの癖に口元を緩めて、薄ら笑いを浮べた。

    『ほう……その様子では、まだ何も進展してはおらぬと言う事か? 詰まりは正宗の片想いであろう?』

    『そ、それは……まぁ……そうなんだけど……』

    んな、なんだよ? 好きな女の子が居ちゃ悪いのか?

    ……そう言い返したかったけれど、諦めた。

    これ以上美弥のコトを明日香に喋ってしまえば、なんだか美弥に『明日香』と言う災難が降り懸かりそうでコワイ。

    言い難そうにしている俺の様子を窺って一呼吸おくと、明日香は真っ平らな胸をこれ見よがしに張って、フフンと鼻で笑い、余裕を取り戻して俺を見上げた。

    『その相手とこの明日香……最期にお前はどちらを選ぶであろうな?』

    『……』

    お子ちゃまがナニ言ってンだか……

    明日香は自信満々に言い切ったが、残念ながら俺は明日香に勝ち目はナイと思った。

    生憎俺はロリでも何でも無い。明日香との縁談だって、悪いがママゴトの延長線だと思っている。そもそもお姉さんの美弥と、コドモの明日香じゃあ、てんで話しにならないじゃないか。

    誰が比べたって、美弥と明日香じゃあ勝敗は着いたも同然だし。

    俺は見込みの無いこの勝負を持ち出す明日香に呆れてしまったが、当の本人は……まさかとは思うが、勝てる心算で居るみたいだった。

    マジ……かよ?

    何処をどうすれば、そんな自信が湧くんだよ?

    明日香の大胆発言に呆れ返っていると、このお子ちゃまは尚も続けた。

    『正宗?』

    『なんです?』

    『今お前は、明日香の言葉に呆れておるようだが、お前こそ舐められぬようにな』

    なんで俺が舐められたりするんだよ?

    ってか、いい加減、その上から目線を止さないか。


    初めての目通りに、明日香は俺にイキナリ鞭を振るって来た。

    他人から、俺は見た目眼鏡のチビヲタクに見られて見縊られてしまいがちだ。期待を裏切ってしまうようで悪いけど、俺の学生時――詰まり、常盤財閥で次期跡取りだった頃は、あらゆる成績で常にトップだったし、勿論体育も論外じゃない。

    だから明日香の振るった鞭を簡単に見切ってかわすことなんか、俺にとっては造作も無かった。

    明日香はあの後俺に難無く捕まえられてしまい、驚いて俺の頬を殴ったが、なんとか明日香の興奮を宥め賺(すか)して乱暴の訳を尋ねると、俺の思った通り。

    最初が肝心だと誰かに唆(そそのか)されたらしく、暴力で俺を抑え付けようとしていたのだそうだ。


    あの時、お仕置きに尻を数回引っ叩いて遣ったら、半ベソ掻いて『なんで?』って喚いていたけれど、誰もが力で屈服させられると思っていたら大間違いだ。

    特に俺には効果は期待しないほうがいい。


    『それ、どう言う意味です?』

    俺は一瞬だけ真顔を見せて明日香を睨み、次の瞬間には『なんちゃって状態』でニッコリと笑顔を浮べて遣った。無闇に子どもを怖がらせるのは良くないが、時と場合には必要だろう。

    俺が一筋縄では行かないのを身を以って知っている明日香は、サッと顔色を変えた。

    また尻を叩かれるのだと思ったのか、警戒してササッと両手を後ろ手にして自分の小さな尻をガードする。

    『ま、正宗は……特に女を見ていないからな』

    『は?』

    どゆこと?






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