第6話 バレちゃった?…1
はぁ、驚いた。
全く……人が風呂に入ってるのに、待てなかったのかな?
俺はシャワーの途中で、トイレ目的だったが突然乱入して来た彼女のコトを思い出していた。
長い睫毛に半開きのトロンとした眼が、妙に色っぽく見えたなぁー。
しかもコスプレ……だろうとは思うけど、猫耳にメイド服。
アレってイワユル『萌え』スタイル……なんだよな?
残念だけど、俺はメイド服を見慣れていて免疫があるから、巷で言う『萌え』にはなんないけど、ソレを差し引いたとしてもあれだけカワイイ彼女なんだから、きっとカレシは居るんだろうな?
「メイド服……かぁ」
俺は『メイド服』と言うキーワードで昔を思い出し、なんだか切なくなって遠い眼をしてしまった。
『坊ちゃん、必ずやこのケント、一旗挙げて参ります!』……なんて言って、ケントはラスベガスに里帰りしちゃって、早や三年余りも音信不通。
まあ、此処の連絡先さえ知らせていないから、連絡のしようが無いけれど、みんなどうしているのやら……
俺が不甲斐無かったばっかりに、破産でみんなを解雇してしまったんだものな。
俺はバスタブの栓を引き抜き、上がり湯を掛けた。
タオルハンガーから白いバスタオルを手にすると、濡れた身体を拭き取って、再びバスタオルを元に戻してドアに手を掛ける。
「ん?」
……待てよ?
出て行こうとした時、そこで初めて『ある事実』に気付いて後悔した。
独りらしが長かった俺は、自分の部屋に他人や……ましてや女の子なんか呼び込んだコトが無い。
誰も居なければ、エンリョや羞恥心なんか必要無いから、風呂あがりは常にオープン。下着や着替えなんか風呂場に持ち込む習慣が無かったんだ。
ひやぁ―――どうしよう?
って思ったけど、よくよく思い出してみれば、彼女は思いっ切り寝惚けていたし、きっと、いや絶対にもう眠っているハズだ。
なぁーんだ。気にするコトなんて無かったし。
俺は全くの無防備で風呂場のドアを全開した。
「お疲れ様ですぅ〜、ご主人さまぁうわぁあああ―――???」
「へっつ? ……うぉあ?」
彼女はトックに寝ているのだと思っていた俺は、油断していつも通りの全開特出し状態で風呂場から出てしまった。
ところが、彼女は何故だかシッカリと起きていて、モロ出しの俺の真正面で、三つ指着いて座っていたんだ。
「きゃあああ―――!!!」
「えっつ、えっ、う、うわわわ、た、たんま!」
もの凄い形相で悲鳴を上げた彼女を黙らせようと、俺は慌てて駆け寄り、片手で彼女の口を素早く塞いだ。
「んー、ンんん―――!(ナニすんのよー)」
口を塞がれた彼女が涙眼で必死になって暴れた。
「痛ッツ!」
彼女の伸ばした爪が、何度も俺の腕を引っ掻く。
ったく……マジで猫みたいだ。
立ち上がろうと膝立ちになって伸び上がった彼女の利き手を捕らえると、彼女の手首を内側にねじり上げながら、円弧を描くように彼女の懐に廻り込む。
梃子(テコ)の原理で、手首を捕られた彼女の肩がぐっと下がった。そのままバランスを崩した彼女をうつ伏せにすとんと倒す。
少し可哀相だとは思ったけれど、ココは落ち着いて貰う為に左膝で彼女の背中を抑え付けた。
「くううぅっつ……」
器官を抑え込まれて苦しくなり、彼女はこれでマトモに喋れなくなったハズだ。
ケントに教わった逮捕術が役に立ったよ。
「おっ、落ち着いてください! 俺、何もしませんから」
って言ったものの……このカッコじゃあなぁ……
「……?」
「き、着替え取って来ますから。俺のコト、見ないでくださいよ?」
彼女は涙眼になって、コクコクと小さく頭を縦に振る。
手加減はしているが、彼女にとっては苦しいハズだ。
「い、いいですか? 放しますから、絶対に騒がないでくださいね?」
俺はそうっと彼女から手を放した――
「ホントーに、ゴメンねー?」
「い、いえ……大丈夫……ですよ? イテテ……」
俺はあの後、彼女の猛反撃を喰らい……ボッコボコに殴られていた。
鼻血を止める為に、左右両方にティッシュを紙撚(こよ)って突っ込んだ俺の顔は、きっともの凄くブサイクに見えているハズだ。
ソレが証拠に彼女は今、必死になって笑うのガマンしているし。
抵抗しないと見せ掛けて涙まで流していたのに、このギャップはなんなんだ???
しかも顔面強打のパンチだなんて、こんなのって……在り?
聴けば、彼女は護身術も兼ねてボクササイズを遣っているのだそうだ。
最近の女の子って……怖いかも。
「俺、土岐(とき)正宗(まさむね)。『マサ』って言います。君は?」
俺は学生時代から使用していた偽名を言った。
ガタッツ☆
簡易テーブルに両腕を着いて、頬杖をしていた彼女がずるっと滑った。
そしたら彼女、偉く驚いてオタオタと落ち着きが無い。
「あ、そーだ!」
俺は彼女と一緒に拾っていた、ピンク色のフレーム眼鏡を思い出した。
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