第61話 取られちゃった?




    俺は毛脚の長い、ピンクのふかふかカーペットを踏み締めて、明るい室内をぐるりと見回した。

    こんな所を見るのも初めてなら、来たのも初めてだ。

    中央にはデカイベッドがで〜ん! と据えられていて、枕元にはえっちの必需品が『それ』と判らないように、さりげなく置かれている。

    言われてシャワールームらしき場所を、室内の片隅で見付けたが……

    「主任?」

    「なに?」

    「シャワールームって、もしかして……あ、あの『総ガラス張りの個室』ですか?」

    「そうよ?」

    「いいい〜〜〜?」

    事も無げに言った主任に、退く俺。

    「あ、ああああんな所で……って、外から、まっつ、丸見えじゃないですかぁ〜」

    「だから?」

    「……」

    ナニ落ち着いているんだよっつ? こっ、これが落ち着いて居られるかっつ!

    俺は妙な身の危険を感じて、背筋に冷たいモノが奔ったような気がするし。

    「ほらあ、急いでランドリーに出すから、脱いで?」

    「って、今ここで?」

    「当たり前でしょう? 土岐さんはそのままシャワーに行けばいいのよ」

    主任が今にも噴き出しそうな顔で、必死に笑いを噛み殺しているのが判る。

    俺がこんな所に来たのが初めてで、そのリアクションが面白いとウケたのか、それともこれから起こりそうなハプニングを期待して笑っているのだろうか……?

    ……怖ぇえ……マジで主任怖いんですけど。

    「ほらぁ、早くぅ」

    「え? ち、ちょっと……うわ?」

    モタモタしている俺に痺れを切らせてしまったのか、主任は大胆に俺のベルトを外して、するりとズボンから抜き取った。

    「ねーえ? ベルトって『革』製品なのよねー?」

    主任は何を思ったのか、俺から抜き取ったベルトを二つに折って両端を握ると、一旦大きく撓(たわ)めると、左右に強く引いた。

    パシーン! と鋭い音がして、ベルトの向こうでウットリとした表情を浮かべる主任。

    「ひぃい〜〜〜」

    主任からの流し眼と視線が合ってしまい、俺は情けない声を出して思いっ切り退いた。

    まっ、まさかさっさと脱がないと、次は俺がベルトの餌食になるって言いたいのか?

    過激な主任のパフォーマンスに怯えてしまう。

    「は、はいはいはいっつ! わ、判りました。判りましたから、暴力は止めてくださいよ?」

    俺はソッチ系に免疫無いんですから……つか、免疫欲しく無いし。

    慌ててズボンのチャックを下し、パンツ姿になる。

    壁に填め込まれている大きな姿見に映った自分の格好を見てしまい、情けなくなった。シャツの裾が長い目で良かったのだか、悪かったのだか……?

    さっきのチンピラとの対戦とは違い、主任に逃げ腰になっちゃって我ながら何だかな。

    つーか、主任、キャラが変わってないか?

    「あー、土岐さんって黒のボクサーパンツなんだぁ。もっと可愛い色の……ベビーピンクとか無かったの?」

    「えええっつ? み、見ないでくださいよっ」

    勘弁してっ!

    二枚お買い得のパンツなんか見るなっつ! しかも誰がそんなピンクなんか履くんだよ?

    それにしても……やっぱり主任の様子がなんだか違う。さてはまだ酔いが抜け切っていないのだろうか?

    俺はズボンから解放されて外気に触れてしまい、急速に冷えて来た自分の尻が、妙に気持ち悪くなって来た。

    ソファに置かれていた淡いブルーのバスローブをシャツの上から羽織ると、子供の頃に水泳の授業で着替えた要領で、手早くパンツを脱ぐ。

    「はい♪」

    俺のズボンを四つに折り畳んで左手に持った主任は、ニコニコしながら空いた右手で俺のパンツを遣せとばかり差し出して催促する。

    「……ヘンな事しないですよね?」

    「? なに言ってるのかなぁ〜?」

    主任は凄く嬉しそう。言葉の終わりに『この期に及んで今更ぁ〜♪』と言われたような気がしたし。

    なんか……このまま俺の脱ぎたての生パンツを主任に悪戯されそうで、素直に渡すのを躊躇ってしまう。

    「ホラ、さっさと出すの」

    「は、ハイっ」

    自分がカツアゲされているような気分になってしまった。尤も、実際に何度か脅された事は在っても、払った事なんか無いけどね。

    もじもじする俺に痺れを切らせてしまったのか、主任は急に表情を曇らせて、再び強く右手を差し出した。

    俺は主任の迫力に気圧されてしまい、観念して片手で握り締めていたパンツをサッと機敏に主任の掌へ載せる。

    「はい、もぉ〜らいっ♪」

    「うわぁああ〜、悪戯しないでくださいよー!」

    一瞬で機嫌を直した主任の態度に、もの凄く不安を覚えて、思わず叫んでしまった。

    「悪戯って? なにが?」

    「……」

    そんな具体的で恐ろしい、あ〜んなコトやこお〜んなコトを、俺に言えと言うのかよ?

    俺は言葉に詰まってしまい、黙って主任を見上げた。主任に逆らえないのを知っていて……これじゃあセクハラ&パワハラのダブルハラスメントじゃないか。

    「大丈夫よ? 土岐さんの出方によってはおフザケも有りかしら……なんて思っちゃったけど、そこまで卑怯じゃないから安心して」

    「はぁ……」

    俺は思わず安堵の息を吐いた。


    「じゃあ、出して来るから」

    「ゆ、ゆっくり行ってください」

    俺のズボンとパンツを取り上げた主任は、もう俺が絶対にココから逃げ出せないと思ったのか、ニコニコして俺に背を向けた。

    行くのなら、今のうちだ!

    俺は主任を見送らずに、くるりと踵を返し、ダッシュでシャワールームに飛び込んだ。

    温水のコックを全開にしておいて熱湯で蒸気を出せば、ガラス張りのシャワールームも見えたりなんかしないだろうし……

    後は上とビジネスソックスを脱げば良いだけだ……主任が帰って来るまでにシャワーを完了させておかないと。

    ネクタイを解きながら、何気に下を見下ろした。

    流石に今の状態じゃあ、俺の相棒だって元気なんか無いや。

    ☆って……下半身丸出しの俺って……ドウヨ?

    「……ん?」

    俺は自分の背後から、ねっとりと絡みつくような視線を感じて我に返った。






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