第63話 正宗のxxx?




    「ああ、これぇ? 土岐さんバスローブだけじゃ駄目かと思って、服を借りて来たの」

    「うぇえええ?」

    お、俺のっつ???

    主任は表情一つ変えずに、腕に掛けていた衣服の両肩口を持って、俺に見せた。

    ふーん、これは水色濃淡のグラデーションで、レースをふんだんに使ったキャミソールタイプ、背中部大開き全開のパーティドレス……て?

    ち、ちょっと待てぇえええ―――ッ!!!

    俺は電光石火。思わず主任にくるりと背中を向けて蒼褪めてしまう。

    何だ? 何が主任に起こったんだ??? 服をレンタルするにしたって、選択肢を思いっ切りコースアウトしてないか?

    いや、しているし。

    俺はへらへら笑う主任に奇妙な違和感を覚えて退いてしまった。

    ……心当たりはただ一つ!

    海棠から貰ったクスリ……だ。あの時の海棠の妙な薄ら笑いを思い出し、俺は妙に引っ掛かって気にはなっていたんだし。

    お、落ち着け正宗。主任の症状はまだ軽い。

    いや、今のは見なかった……と言う事で……

    コインランドリーに入っている、俺の会社用スラックスとシャツがシワシワになって戻って来るまでの辛抱だ。幸い、今は夜。闇に紛れて帰宅すれば取り敢えずはモンダイ無い。

    俺は大きく深呼吸をすると、主任の方へと向き直った。

    「っあ……れ……っ???」

    振り返ると、そこに居た筈の主任の姿は忽然と消えていた。

    慌てて主任の姿を捜し、宙を彷徨っていた俺の視界が、シャワールームの中に居る主任の姿を捉える。

    「……」

    なんて強引……なんだ。

    これもあのクスリのせいなのだろうか? まさかコレが主任の『素』だったら、ちょっとコワイ。

    長い髪をシャワーキャップに収め、湯煙り越しに曇って見えそうで見えない主任の後ろ姿は、とても……そ、そのぅ……キレイだった。



      *  *



    『坊っちゃま、宜しいですかな?』

    言うなり、ケントは連れて来た女性のガウンを一気に剥ぎ取った。

    彼女は眼を伏せて軽く俯き、両手で自分の胸を隠すように掻き抱く。

    俺がまだ常盤財閥の跡取りだった時、執事のケントが性教育だと言って見知らぬ綺麗な女の子を連れて来た事を思い出してしまった。

    親の趣味なのかケントの趣味なのかは判らないが、屋敷内のメイド達はみんな高学歴の美女ばかり。だけどケントが連れて来た女性は、屋敷内のメイド達とは美しさも品格もケタ違いだった。

    絹糸のように艶やかで柔らく波打つ長い髪に、殆ど色の無い肌理(きめ)細やかな白い肌。黒目がちな大きな瞳に長い睫毛。少し緊張して強張り、薄く紅を差した頬。そしてコーラルピンクの唇はとても柔らかそうだった。

    完全に成熟してはいない胸の隆起や淡い茂みから、歳は大学生になったばかりの俺よりも少し下だと判断出来る。

    彼女は湧き上がる羞恥心に抗いながら一糸纏わぬ姿で、ベッドの脇に座っているガウン姿の俺の眼の前にしずしずと歩み寄り、静かに足元に跪いた。

    『ま、正宗様……お眼通り頂けて、綾は光栄です』

    そして彼女は深く頭を下げた。

    透き通った鈴を転がす声と言うのは、こんな声なのだろうか?

    俺は彼女の甘い声に、少しだけ浮足立つ。

    『それでは坊っちゃま、ケントは失礼させて頂きます。ごゆるりと。何かございましたらお呼びくだされば参りますゆえ』

    ケントはそう言って深く一礼をすると、先に席を外した。


    『綾さん……』

    『も、勿体のうございます。綾と御呼びくださいませ』

    俺は彼女の微妙に震えている声を聞いて我に返った。

    眼の前で跪いている彼女が震えている。これから俺に何をされるのか、彼女は承知でここに来たのだろうか?

    何日か前からこうなるであろう事を聞かされていた俺は、それまではなんの感情も湧いてはいなかった。単に女の人と『セックス』をするだけなのだと、事務的にしか捉えてはいなかったんだ。

    今更だが、彼女が有る意味金に依って取引されただろう事に気が付いた。そこには彼女の意思なり同意などと言うものは在り得ない。

    彼女の楚々とした美しさに気圧されてしまい、俺は自分が何の感情も持たずに無残に摘み取ろうとしていた『花』に対して罪悪感を覚え、俺自身に嫌悪した。

    代々続く常盤家が、こんな事を遣っていただなんて……大奥じゃあるまいし。一体、いつの時代に取り残されて居るんだよ?

    俺は黙って自分が羽織っていたガウンの紐を解く。

    微かな衣擦れの音を聞き、俯いている綾は小さな身体をびくりと大きく震わせた。多分、俺がその気になったとでも思ったのだろう。

    でも、俺はケントの指示には従わず、こっそりとガウンの下に短パンを履いていたんだ。

    俺は脱いだガウンを彼女の身体に掛けて遣る。

    綾は驚き、そして問い掛けるような眼で俺を見上げた。

    『綾さん、もう良いです。ここで少し時間を潰してから帰ってください』

    『え?』

    『綾さんには申し訳ないけれど、どうもこう言うのは苦手です。速やかに終わった事にして、このまま御引き取り願えませんか?』

    そう言った途端、彼女は俺の腰に腕を廻して縋り付き、突然泣き崩れてしまった。





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