第2話 最悪なお嬢様?
☆ お願い
ご訪問、ありがとうございます。
ストーリー上、主人公が心の中で、ヒロインに対して大変失礼な呼び方をしております。
読者様にとりましては、不愉快になられる方がいらっしゃるかと思いますが、いずれこの呼び方が、主人公の心の変化によって変わって来ます。
暫らくの間、ご容赦ください。(作者)
「俺が独りで勝手に事故ったとでも言うのかよ?」
不愉快極まりない失礼な言い様に、俺はムッとなってしまった。
「あら、違った? そうでしょ?」
「……く……」
ンのヤロー……フザケンナ。ドコの誰に向って言ってンだぁあ? あの時俺が退かなけりゃ、お前が俺の代わりにこのベッドに居たかも知れないんだぞ?
涼しげな顔をしてシレッと喋る馬鹿女のクソ生意気な態度を眼にして、カッと頭に血が昇った。
凄味を利かせた俺の視線を、真っ向から受け止めているってーのに、この女……怯みさえしやしねぇ。しかも負けずに上から目線って……どんだけ根性が据わっていやがンだよ? 今まで俺が睨んで怯まなかった女は数えるくらいしか居ないってのに。
俺は怒りの余り、言い返す言葉さえ失ってしまった。
「恵理、もうそのくらいで止さないか」
「お父様は黙ってて!」
社長は俺達の遣り取りを黙って見守っていたが、見兼ねて遂に口を開いた。だけどこの馬鹿女、社長に向ってなんてぇ口の利き方だ……
大体、この女の上から目線ってーのも気に喰わねーが、さっきから社長の事を『お父様』だとかなんだか気安くタメグチで呼びやがって、うるせぇーて……ん?
……?
ん?
『お父……様』?
「おとうさま……??? ってえぇえええ〜〜〜!!!」
俺は頭の中に浮かんだその言葉に、改めてショックを受けてしまった。
「あ、アンタ……社長の娘なのか?」
つか、マジで?
俺の問い質したセリフを耳にした馬鹿女は、フンと鼻でせせら笑った。
「今頃何言ってるのよ? ワザと惚けているのかと思ったら、貴方本当に『天然』ね。言っておくけれど、あたしはお父様みたいに甘くはないわ。怪我人だろうとダレだろうと、このあたしに言い掛かりを付けて来るのなら、容赦しないから」
くっと顎を引き、俺を見詰める猫の瞳が凄味を増して攣り上がった。まるで獲物を狩るような肉食獣の鋭い眼光に、俺は射抜かれた気がしてドン退きする。
つか、『天然』ってナンだよ。『天然』って。
「え、恵理ッ!」
「もぉー、お父様は黙っておいて頂戴! 当事者はあたしなのよ? 在りもしない疑いを掛けられて、黙って引っこんでなんか居られるものですか!」
慌てた社長が押し留めようとしたが、馬鹿女は腕組をしたまま、社長に向かって噛み付いた。
「……」
うわぁー……スッゲー。身内でもソレかよ……
俺は容赦の無い馬鹿女のセリフに、またしてもドン退きする……つか、ケンカ売る相手が違うだろよ?
それに、勢いで興奮してヒスっちゃっているが、ダイジョウブなのか? 蒼白い肌から察する所、貧血持ちみたいが……?
黙って佇んでいれば、グラビアアイドルと間違えられそうな、美人でナイスなプロポーション。見た目はゼンゼンイケテルけれど、口を開けば毒吐いたりする性格ワルだな?
俺が峠でバトル遣ってた頃、ギャラリーに来ていたどの女ドモよりも、見た目も品位もケタ違いにイイけれど、向こう気が強くて、性格の悪そうなのもダントツのサイテーだぞ?
俺のドン退き観察モードの視線に、馬鹿女が気付いてアカラサマに顔を顰めると、鬱陶しそうな表情を浮べた。
「何よ? 文句があるなら言いなさいよ」
今にも口から泡を吹きそうな様子。キツイ言い方しやがって、それで見舞いに来ているツモリなのかよ? いや、そもそも『俺が事故ったのは自分とは関係無い』って言い張っているんだ。けど、見舞いに来たってワケじゃなさそうだし……?
――何しに来たんだ???
社長も馬鹿女の顔色がフツーじゃねーと気付いたみたいだ。興奮して今にも引っ繰り返りそうな馬鹿女を、必死に宥め賺せて撤収しようという空気が窺える。
「ま、また出直すとしよう。日高くん、十分養生してくれ給え」
「ハイ」
社長からの直々のコトバに少しだけテレながら、俺はヒョコリと会釈を返した。
社長直々に話し掛けられて……かっつ……感激だぁあああ〜〜〜!!!
俺はこの木村社長を誰よりも尊敬している。俺が社長を知ったのは、大学三回生の秋頃だった。
講義に出席しても、居眠りばっか。別に何かに夢中になれるコトなんて持ち合わせていなかった俺は、卒業後の事なんかソッチノケで、相変わらず夜中に車を転がしての連チャンバトルとバイトに明け暮れて『その日暮らし』的な学生生活を送っていた。
だがある日、こんな俺に『将来』ってゆー未来を予感させてくれたのが、この木村社長だったんだ。
勿論直に会ったワケじゃ無い。一方的な出会いだったけれど、その日俺はいつものように悪友達と昼メシを食っていた。広い学生食堂構内の片隅に、アンテナ仕様のポンコツ14型テレビに、偶然社長が映っていたんだ。
出演していたのは、木村社長を含めた大手有名企業の社長ばかりだった。そしてそれぞれの社長が自社の企業理念や方針。社員に期待している抱負なんかを雑談を交えて討論する番組だった。
最初は何の気も無くボンヤリと見ていた俺だったが、五人出演していた社長達の中で、社員に対して一際信頼を持って熱く語っていた、温厚な顔立ちの木村社長の姿に心を打たれ、いつの間にか真剣にその番組に見入っていたんだ。
就職難で新卒採用すらキビシイこのご時世。会社の意にそぐわない・役に立たない社員なら、切って棄てるのが当たり前。社員を『採用して遣った』……みたいな上から目線のスタンスが蔓延しているにも拘わらず、『社員として来てくれた』と捉え、『その気持ちを第一に大切に育てたい』と言った社長の言葉が、俺の胸に響いた。
木村工業はその名の通りの製造業。設計から製造まで一貫した自社製品を取り扱っているメーカーだ。取り扱っているボイラや医療機器なんかは、車(マシン)を弄っていた俺にとっては、応用の利く範疇の分野だった。
俺は社長の人柄に惚れ込んで、働く事への生き甲斐みたいなのを見付けた。そして、この社長の下で働きたい! って心に誓い、俺は教授から『無理です』と否定されていたのも聞かずに、その日からナリフリ構わずにガリ勉君になったんだよ。
だから、こうして憧れの社長に直に会って、個人的に話が出来ただけでも俺は天にも昇る気分だったんだ。
……ただ『状況』が、俺を手放しで喜ばせてはくれなかったけどよ。
「ちょっと! あたしは逃げたりなんかしないわよ? 放してよ! 放せぇえええ〜〜〜!」
社長は困った顔で、喚き散らす馬鹿女の腕を引き摺るようにして、病室を出て行った。
「……」
ナンナンダ?
出来の良い親だと、その子供はトンデモナイ奴が多いって聞いたりするが……今の親子は典型的だよな?
まあアレだ。俺も人様のコトは言えたギリじゃないんだが……
俺は『嵐』が去った個室で、一気に気抜けしてしまった。そして、同時に自分が置かれている状況をやっとこさ飲み込めて、蒼くなってしまった。
さあ、俺が事故ったコトを、親に伝えようかどうしようか……
因みに俺は、両親と出来のイイ二つ上の兄貴と俺。そして俺より二つ年下のクソ生意気な妹が居る五人家族だ。
俺は高一の時、面白半分で盗んだアメ車で事故ってしまった。その賠償として、俺はオヤジに先祖から代々受け継いで来た田畑の一部を売却させてしまい、オヤジからは事実上勘当されている。だからこの場合、時々様子見で連絡を遣してくれる母さんのコトだ。
社会人になっても、スネを齧っている俺だ。改造中古とは言え、俺の車の名義は親の名前になっている。
走り屋を遣っていた学生時、何台クラッシュで廃車にしたか覚えちゃいねーし、その度に心配して駆けつける母さんの姿を目にするのが、俺にとって何よりの苦痛だった。
ワケあって、走り屋を卒業したから、もう母さんを心配させたりしねーぞと安心していたんだが……ドウシヨウ?
そもそも、俺が後続のドライバーだったら、絶対に※濃厚キッスなんかしない。確実に回避出来た状況だったんだ。
今更済んでしまった事故のコトを、あーだこーだ言うのもムダだし虚しいよなー?
悩んでいたその時だった。ドアを開けっ放しにしている俺の個室に向かって、カツカツと足早にヒールの音が近付いて来る。
「ちょっとアンタ!」
「うあ?」
息を切らせて遣って来たのは、たった今退場して行ったばかりの馬鹿女だった。
「どうしたんだよ? 戻って来たりして。まだ俺にナンか用か?」
「大有りだわ!」
馬鹿女は肩で大きく息を整えながら、言い切った。
「ふーん、やっぱ俺ってイイオトコだから、もう一度見納めしなくっちゃーなんて……」
「じょ、冗談は顔だけにしてよね」
俺は余裕をコイて笑ったが、馬鹿女はそんな俺を見て不愉快極まりないって顔で俺を睨み付けると、ぴしゃりと斬り棄ててくれた。
「はぁあ?」
「アンタ、病院換えなさいよ」
「なんで?」
「だってここ……直腸専門院じゃないの」
「は? チョクチョウ? 肛門外科だろ?」
俺はこの時、直腸がその肛門のコトだと言うのをマジで知らなかった。
「同じ事だわ。もう、判んないの? あたしはもうこの病院に来たくは無いの。だってそうでしょ? このあたしが何でこんな病院に……」
意味深にそう言って語尾を濁すと、馬鹿女は自分の言わんとしているコトで恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして居た堪れないように身体をもじもじとさせた。
「……」
ははぁー、そーゆーコトかよ?
年頃の若い女が、オヤジばかりが通っていそうな肛門外科の病院に、用アリだとは言え来たくはねーだろーよ。
俺は馬鹿女が言いたいコトが判って、ニヤリと口端を吊り上げた。
「面倒臭いから厭だ」
パン!
咄嗟に馬鹿女の右手が素早く空を切った。
俺は左の耳元で大きな破裂音と頬に残ったヒリツクような痛みに、思わず頬に左手を宛がう。
「んな、ナニすんだよ?」
怪我人なのにっつ!
「アンタ、ワザと拒否したわね?」
「アタリ」
「く……!」
意地悪くフフンと鼻で笑って言い返す。
俺の即答に、馬鹿女は煽られてか、真っ赤になっていた顔を更に紅潮させて、ハナイキ荒く肩を怒らせた。
※ 濃厚キッス : 追突する事
Web拍手ですポチ☆してね?

BACK * NOVELS * NEXT