ジルの苦手なもの

「ジルって嫌いなものありましたっけ?」

 他家で開かれたガーデンパーティー。それでも隣にはなぜかジルがいる。
 他の友だちのとこに行けばいいのに、と言えばどうせ口説き文句が返ってくるとわかっていたから、素朴な疑問をぶつけてみた。

「あるよ。クルミとか」

 ジルの答えに、ん? とわたしは首をかしげる。

「クルミ? わたしの記憶が正しければ、ジルはアーモンドクッキーが好きだったような気がするんですが」

 なんで覚えているかというと、もちろん覚えたくて覚えたわけじゃなく、母さまのせい。
 お料理好きな母さまは、人の好みをすごく細かく覚えている。
 そんな母さまがジルの誕生日プレゼントにアーモンドクッキーを贈っていたことがあったから、記憶に残っていただけだ。

「そうだよ。アーモンドクッキーが好きで、クルミは嫌い。変かな?」
「変じゃないですか? だって、似たようなものでしょう」

 どっちも、同じナッツだ。
 わたしがそう言うと、ジルは不愉快そうに顔をゆがめる。めずらしい表情だ。

「全然違う。アーモンドはカリッと香ばしいけど、クルミは油っこくて奇妙な癖がある。間違えて食べちゃったときなんて最悪だよ」

 その時を思い出しているのか、声が鋭い。
 嫌いなくせに気づかずに間違えるジルもジルだと思う。
 たしかにクッキーに入れるときはどっちも細かく砕かれてることが多いけど。
 ちゃんと見ればけっこう違うよね?

「ジルがそこまで言うのもめずらしいですね」
「好き嫌いっていうのは誰にでもあるものだからね」

 たしかにそれはそうだけれど。
 あんまり見ないジルの不機嫌そうな顔に、思わず込み上げてくるのは、いたずら心。
 実は、今日のお菓子にはあるものが入っていることを、わたしは知っていた。
 何しろこの家の三女、わたしの友だちの大好物なんだから。
 わたしはお皿からつまんだクッキーをジルに向けて、にっこりと笑みを浮かべた。

「ジル、はいあ〜ん」

 語尾にハートマークでもつきそうなノリ。
 瞳を真ん丸にしたジルは、すぐに問うような視線をわたしに投げかけてくる。

「……エステル、それ」
「ジルの好きなアーモンドクッキーですよ?」
「嘘だ……」

 もちろん、嘘ですよ。
 このタイミングですすめるなんて、怪しんでくださいって言っているようなものだよね。
 それでも、あんな顔するくらい嫌いなものだなんて、ぜひ食べて見せてもらいたい。
 だから苦肉の策で、『はいあ〜ん』なのです。


 それから少しののち、『はいあ〜ん』の魅力に負けたらしいジルが、口を手でふさいでぷるぷるとする姿が見れるんだけど。
 悪女なんかじゃないですよ? ……たぶん。
ブラウザバックでどうぞ