Wish【 3 -B 】

 

 ヒラリと、小さな紙が飛んできた。

 な、に?

 それに気付いた私が顔を上げると、私につられてヒカルも顔を上げる。

 青い空に溶けそうなブルーの紙。

 思わずヒカルはそれをキャッチすると、私とヒカルはそれに目を落した。

 これって……。

 「便箋?」

 私は小さく呟く。

 青い、青い便箋はまるで夏の空の色。

 今見上げた空と同じブルー。

 そんなブルーの便箋には、白い羽。天使の羽が、描かれていた。

 まだ書きかけの手紙のようで、可愛い字が並んでいる。

 私もヒカルも思わず、その便箋に書かれた文字を読んだ。

―――――――――――――――――――――――――――――

   歩へ

 

  元気にしていますか? 私はとても元気です。

  体調は、最近とても良くて、今日はこの手紙を散歩途中に見つけた

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 書きかけの手紙。

 風に飛ばされたせいか、便箋に少しシワがよっていた。

 「なぁ、天音。これ……」

 突然ヒカルが口を開くので、私は顔を上げた。

 「うん。この公園で書かれたヤツみたいだね」

 フッと、顔を上げて私とヒカルは、辺りを見渡す。

 私は、何人かの人が視界にはいる中、明らかに何かを探している女の子を1人見つけた。

 その女の子は、もの凄く目立っている。

 何かを探している事が、見て取れるからだとか、そんなんじゃなくって、

 上下淡い黄色の服装が、夏に咲くヒマワリの様に、緑の多い公園に映えていた。

 「もしかしてあの子の、手紙かな??」

 私はヒカルに問いかけるも、ヒカルは黙ったまま。

 シンッと、沈黙。これじゃ私は独り言を言ったことになる。

 私は女の子からヒカルへと目線を向け、再度、問いかけようと、口を開いた。

だけど、その言葉は続かない。

 「ね、ヒカ――」

 ル……??

 私が見つけた女の子を、ヒカルも同じように視界にとらえたようで、その子をジッと、見つめていた。

 だけど、様子がおかしい……。嫌な予感。な、に??

 「みつ、けた―――……」

 ボソリと、ヒカルが呟き、私の心臓がドクンと嫌な音をたてた。

 え? 見つけたって……まさか……

 それは、ヒカルにとっての、奇跡。そう、私は直感する。

 背筋が凍るような感じだった。

 姿をとらえるのが怖くて、だけど見られずにはいられなくて、私はユックリと顔を上げて、女の子に目線を向けた。

 女の子は、私とヒカルの視線に気がつくと、ヒカルが、目立つブルーの便箋を手にしている事に気がつき、大きな声を上げた。

 「あ――――――っ!! 私のぉっ!!」

 ヒカルはビックリしたように、体を硬直させ、駆け寄る女の子に素早く、便箋を渡す。

 女の子はホッとしたように受け取ると、ニッコリ笑った。

 「拾ってくれて、ありがとう!」

 「ど、どう、いたしまし、て」

 シドロモドロに返すヒカルに、胸が痛む。

 そんなヒカルを前に、女の子はヒマワリみたいな笑顔を咲かせた。

 私はというと、2人を横目に、嫌な気分になっていた。

 単純、馬鹿正直。ヒカルはなんて、分かりやすいヤツなんだろう……。

 やっぱり、間違いないね。

 この子がヒカルの、好きな子だ―――……。

どうして、こんな簡単に再会しちゃうかな?

 さっきは、本当に協力しようって、思っていた……。

 ヒカルに、笑っていてほしいから。

 ヒカルが好きで、大好きで、だから幸せになってもらえたらと、思ったから。

 だけど、いざ現実が目の前に突きつけられると、なんてモロイものなんだろう。

 私の意志なんて、その場限りなんだね……。なんて汚い心。

 自己嫌悪が、私の心に拍車をかけるように、傷つけていく。

 

 

 「―――…の?」

 え??

 ボーッと、鮮やかに見える2人を見つめていた私に、女の子は問いかける。

 だけど、聞き取れなかった。

 「え?」と、聞き返す私と同時に、聞こえていたヒカルは大きく「違う!!」と声を上げた。

 は? なにが違うの??

 目をパチクリさせる私に、女の子は笑って、もういちど繰り返した。

 「ホントに? 2人は、恋人同士じゃないの?」

 はぃ?

 「「違う(わ)よっ!!」」

 思わず即答。

 しかも、ヒカルとハモってるし!!

 なによ。そうゆう事ぉ!?

 っとに、もう! ヒカルの正直者!!

 しかも、私とヒカルがピッタリと言葉をハモらすもんだから、女の子は目をパチクリさせて、「っぷは!」と、ふきだすと、「あはははっ」と、笑った。

 今度は私とヒカルが目をパチクリと、させていた。

 女の子は1人気がすむまで笑い、笑い泣きで出た涙をふく。

 私たちを見上げ、女の子は笑顔で続けた。

 「私、蒼井 澪(アオイ ミオ)」

 え?

 突然の自己紹介に、私とヒカルは顔を見合わせた。

 戸惑う私より先に、ヒカルが現状に順応し、口を開く。

 「えっと、月山 ヒカル (ツキヤマ ヒカル)です」

 「ヒカル、君」

 澪はヒカルの名前を復唱すると、ニッコリ笑い、私に視線を向けた。

 え? あ……。

 「わた、私は、空知 天音(ソラチ アマネ)、で、す」

 シドロモドロになった私の自己紹介に、澪はクスッと笑い、ヒカルの時と同じように、復唱する。

 「天音、ちゃん」

 「うん」と、私は思わず頷き返す。

「あのね、二人とも。これも、何かの縁だと思うの。私と、仲良くしてくれる?」

 澪は「してくれる?」と、首をかしげて、私たちを見つめ問いかける。

 私の隣にいるヒカルが「喜んで!」と、即答したのは、言うまでもない。

 しかも、とびきりの笑顔。その澪に向けられた眩しい笑顔が、羨ましくて、私の心臓をキュッと握り締めるように、痛めた。

 澪だけに、向けられた笑顔。

 その笑顔は、私に向けられる笑顔とはまた違う。

 あ〜ぁ。ヒカルってば、なんて、しまりの無い顔。

 嬉しそうに、愛おしそうに見つめる眼差し。

 全て、私に向けられるものとは、異なるもの。

 おかしいね? だって、私の願いは何だった?

 ヒカルの傍にいられるだけで、幸せだったんじゃないの??

 私は今も変わらずヒカルの傍にいるのに、どうしてこんなにも切ないんだろう。

 私はココにいるのに、ココに、いないみたいだ……。

「ホントに違うのぉ?」

 っえ!?

 ハッと我に返ると、私とヒカルを覗き込むように、澪は笑っている。

 澪の質問に、複雑な気持ちになりながらも、本当に違うから、私はヒカルと同じように頷いた。

 澪は笑いながら続ける。

 「だって、2人とも薬指に指輪してるんだもん。おそろいだしさ〜」

 「だ、だから! 違うんだって! な? 天音!!」

 あ〜ぁ。鈍い男ってのは、どうしてこうも、残酷なのかなぁ。

 ヒカルのば〜か。ばか、ばか、ばか。

 なんて顔してるの? なにを焦ってるの??

 ばぁ〜か……。ほんっと、しょうがないなぁ……。

 「うん。ヒカルの言うとおりよ。コイツとはただの、腐れ縁なの」

 「だって、指輪は?」

 笑顔で返す私に、澪は納得いかない顔して、首を傾げた。それにヒカルは慌てて続ける。

 「それは、別に深い意味はないんだって! おまじないみたいなもんなんだ! な? 天音!」

 必死だな、おい。と、苦笑交じりに心でツッコミ。私は頷き答えた。

 「そうそう。願掛けとか、そんな感じ。たまたま一緒にソレをしてるだけ」

 「ふぅ〜ん。そーなんだぁ〜…」

 私とヒカルの言葉に、澪はニヘッと笑いながら続けた。

 「澪、信じてないだろ? ほんっとに、天音とは友達なんだってば!!」

 「そっか、そっかぁ〜。もちろん、信じてるよぉ〜」

 「だか、だからっ! っあー、もーっ!! 澪!!」

 焦るヒカルを見ながら、バカだなコイツと、呆れつつ。私はどんどん、複雑な気分になってゆく。

 そうよ、その通り。間違いなく、私たちは友達なのよ。

でもさ? なんかヒカルの言い方って、あんまりよね………。

  鈍感だし、私がどう想っているのか知らないから、そんなこと言えるんだろうけどさ……。

 一生懸命に、弁明するヒカル。その態度に私は傷つき、そしてだんだん、イライラしてきた。

 「あのね? 澪。ほんっとに腐れ縁なだけなのよ」

「そうだ! 言ってやれ、天音!」

 ……ばっかじゃない? ヒカル。

って、馬鹿は私か……。

 実行できもしないことを、簡単に口に出して、嘘をつけるんだもんね……。

 私はヒカルの応援にニッコリ笑い、澪にスペシャルスマイルで口を開いた。

 「そ。もうね、腐ってるから、切り離してもいいくらいなのよ」

 「へ?」と、私の言葉に、澪は目をパチクリとさせた。

 さすがのヒカルも、眉間にシワを寄せている。少しそれが嬉しく思った。

 「おま、天音……ちと、ヒドクねぇか? その言い方」

 ヒドイのはヒカルだっつーの。

 でも、やっぱりその反応は、少しどころか、かなり嬉しかったりして……。

 「ぜんっぜん、ひどくないし〜ぃ」と、私は笑って返す。

 その笑顔は作り笑顔でも何でもなくって、素直に口角が上がった。

 単純かな?

 ねぇ、ヒカル。その反応だとさ?

 ヒカルはちゃんと、私を大事に思ってくれているって、事かな??

 ま、友達だろうケド、いいや。

 ちゃんと、私の居場所があって、私の事を要らないって、思われていないのであれば……。

 私がちゃんとココにいると、ヒカルが感じてくれているのであれば、それでいい。

 思わず口元を緩めた私に、ヒカルの不機嫌な声が投げかけられる。

 「なに笑ってるんだよ! しかもなにが『ぜんっぜん』だ! 力込めて言いやがって! 何年の付き合いだと思ってんだ? 今更切り離せるわけないだろ!?」

 あ、なに? そんな嬉しい言葉まで、かけてくれちゃうの??

 でも、ざぁ〜んねん。私、素直じゃないんだわ。

 「どうだかねぇ? 切り離すのなんか案外、簡単かもよ〜」と、私は意地悪く笑った。

 「なっ!!」と、ヒカルが反論しようとした瞬間。

 突然黙って、私とヒカルのやり取りを見ていた澪が、「っぷは!」と、ふきだして、「あははは」と、大声で笑い出す。

 え? ちょ……

 「「なに!?」」

 思わず私とヒカルは、言葉をハモらせて、澪に目線を向ける。澪はニッコリ笑顔で続けた。

 「仲良しだねっ! 息ピッタリ。恋人同士じゃないとしても、実は好きなんじゃないのぉぅ〜??」

 なっ!?

 「「澪!!」」

 思わず澪の名を呼ぶ、私とヒカル。

 私は、自分の秘めた気持ちを、見透かされたようで焦る。

 ヒカルはヒカルで、好きな子に、とんだ勘違いをされたもんだと、焦っているようだった。

 そんな、互いに心境は違う筈なのに、ピッタリ同じ言葉を発する私たちを、澪は目をパチクリさせると、また笑った。

 「ほらぁ〜。また!な・か・よ・しぃ〜。あははは」

 しつこいくらい笑い続けている澪は、テンションが上がってしまっているようだった。

 流石にどう突っ込むべきか、私もヒカルも困りながら、澪を見つめていると、急に、澪の様子が一変した。

 「はははっ――……は……っ、あ、れ??」と、澪は眉間にシワをよせ、胸元をギュウと掴む。

 淡い黄色のシャツが、胸元で握り締められて、シワがより、その手は力がこもっているのか、筋張っていた。

 うつむき、膝をつき、背中を丸める澪は息が荒いようで、肩が上下していて、明らかに様子がおかしい。

 ちょ……。えぇ?? な、に???

 み、

 「澪? どうしたの?」

 「大丈夫か!?」

 私とヒカルの呼びかけに、澪は顔をあげると無理に笑う。

 「ははっ。ヤバイ、かも…。無茶しすぎた――…みた、い……」

 顔色が悪い。これ、普通じゃないわよ?

 「み―――……」

 澪? と、名前を呼びかけた瞬間、澪は力なくその場に倒れこんだ。

 や、嘘っ!?

 「「澪!!」」

 私と、ヒカルの声が、公園中に聞こえるんじゃないかって言うくらい、響き渡っていた―――……。

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