Wish【 4 -B 】

 

 天使だった頃の仕事が幸いして、私たちは澪を病院へ急いで運ぶことが出来た。

 ここら辺の地理には、きっと私もヒカルも、やたらと詳しい。

 一番近くの病院に運ぶと、どうやら澪はこの病院の患者だったようで、すぐに主治医が飛んできた。

 心配そうになかなか病院を離れようとしないヒカルの傍に、私は黙って傍についてる。

 好きな子に出会えて、直ぐに倒れられてしまえば、心配して当たり前よね?

 私は、ヒカルの手を励ますように、ギュッと握り締めていた………。

 

 

 どれくらい、時間がたっただろう。

 病院の椅子で動けずに座っていた私たちに、声がかけられた。

 「すみません」との、声。私とヒカルは顔を上げた。

 記憶に新しい、澪の主治医の先生がソコにいて、ペコリと頭を私たちに下げる。

「澪を救ってくれて有難う」

 え?

 不思議そうな顔をする私たちに、先生は続ける。

 「私は蒼井 宏(アオイ ヒロシ)と、言います。澪の主治医で――」

 「蒼井?」

 思わず私は、言葉を遮った。蒼井先生は軽く笑って頷き、続ける。

 「私は、澪の父親です」

 あぁ、やっぱり。と、私が納得している横で、ヒカルは心配そうにお父さんに問いかける。

 「あの! 澪さんは大丈夫ですか?」

 「え? あぁ。君たちのおかげだよ。ありがとう」

 良かったというように、ヒカルはホッした顔。

 私はその顔を崩したいわけではないけれど、気になっていたことを聞いた。

 「あの、澪さん、どこか悪いんですか?」

 あの顔色は、普通じゃなかった。苦しみ方も、いまにも死んでしまいそうに、私は思えたの。

 触れた澪の手や肩は、見た以上に華奢で、壊れてしまいそうだった……。

 私の問いかけに、ヒカルはピクリと反応し、お父さんはフッと切なそうな顔をして続けた。

 「澪は心臓が悪いんだ。最近は外出禁止にするくらいだったのに、今日も勝手に抜け出して……。君たちがいなければどうなっていた事か……。ありがとう」

 「いえ、そんな……。ね、ヒカル?」

 私がヒカルに同意を求めると、ヒカルは澪の病気でショックなのか、コクリと頷くだけだった。

 私たちを蒼井先生は、優しい笑顔で見つめると、申し訳なさそうに、続けた。

 「よければ……。君たちさえよければで、いいんだ。その、澪と仲良くしてやってくれないだろうか? あの子は、小さい頃から入院ばかりで、友達が少ない子なんだよ」

 苦笑しながら、お願いする蒼井先生に、私もヒカルも目をパチクリさせて笑った。

 「「もう、友達ですよ」」

 え?

 2人して言葉がハモったので、思わず私とヒカルは顔を見合わせる。

 そんな私たちに、蒼井先生は「ありがとう」と、嬉しそうに笑った。

 

    *   *    

 

 個室である澪の病室は、「いつもシーンと、静かだった」と、澪は自分でそう言って笑った。

 「だから、2人が来てくれて、ココは花が咲いたみたいに、明るくなったんだよ」

 そう、嬉しそうに笑顔を浮かべる澪。

 私とヒカルは、毎日のように2人で病室に足を運び、澪の可愛いところ、いいところ。たくさん知って、ヒカルはきっと惚れ直していると思うし、私にとっても、澪はかけがえのない友達になっていった……。

 今日も、そう。私は澪に会いに病室へと向かう。

 ただ一つ、いつもと違うのは、今日は私一人で、澪の病室に向かっているということ。

 人間ってのも大変なもので、家族との付き合いってのがあるみたい。

 ヒカルは今日、母親と父親との家族旅行に出かけるそうで、私は1人、澪の病室に向かっていた。

 正直に、言えば……少し、戸惑ってるの。

 だって、いつも3人でいて、澪と2人きりなんて一度もないのよ?

 私は、隠していたヤキモチとか、ヒカルへの気持ちとか、ボロが出ないか少し心配になっていた。

 澪の事は、嫌いじゃない。と、いうよりもけっこう好き。

 一緒にいると、澪のいい所がいっぱい見えてきて、ヒカルって見る目あるなぁって、感心しちゃったり。

 だけどツキツキ心臓は痛かったりもするもんで、上手くはいかないものだと、苦笑する事が多々あった。

 今のバランスを崩したくないし、私は、どうする事も出来ないのよね。身動きなんて、とれない……。

 元から告白する気なんて無かったし、どうするも何もないんだけど、どうにも矛盾だらけで困ってしまう。

 私は、澪の病室の前に立つと、息を整えた。

 「よしっ」と、気合を入れる為に私は小さく呟く。と……

 「天音ちゃんっ!」

 えぇ!?

突然、名を呼ばれて私はビックリ。

 思わず体を強張らせて振り返る。

 み、

 「澪!?」

 振り返ると、ソコには笑顔の澪が立っていた。

 「あれ? ヒカル君は??」

 え? あ、

 「うんっと、家族旅行だって」

「そうなんだぁ。じゃ、今日は2人っきりだぁ〜。へへっ」

 嬉しそうな澪。どうしてそんなに、嬉しそうなの??

 え? と、首をかしげる私に、澪はニッコリ笑った。

 「じゃ、今日は女の子同士の話しよう」

 へ? 女の子同士の、話??

 「何の話するの?」

 キョトンと返す私に、澪は両手を合わせ、照れくさそうに続けた。

 「決まってるでしょぅ? こ・い・バ・ナ」

 はぃ??

 「恋話だよ」

 笑顔で繰り返す澪に、私は硬直。

 えっと、恋話って、恋っ!?!?

 そ、それはちょっと、ありえないでしょう!?

  展開に付いていけない私の手を、澪は引っ張り病室に招きいれると、ベットに腰かけて笑った。

 そして、思いもよらない問いかけをする。

 「ふふっ。天音ちゃんさぁ、ヒカル君の事が、好きでしょう?」

 え?

 笑顔の澪から、突然の問いかけ。

 言い当てられた気持ちに、私の心臓が跳ねあがる。

 誤魔化そうと笑うも、上手く笑えない。

 私はうつむくように、パイプ椅子に腰かけながら、続けた。

 「や、やだなぁ。何言ってるの?」

 嫌な感じがグルグル回って、心臓が変な感じ。

 上手く笑えないから、声だけは大げさに大きく、明るめにトーンを上げた。

 そんな無理した私に、明るいテンションで澪は続けた。

 「うっそだぁ〜。私、見てて分かるもん」

 無邪気な笑顔を向ける澪に、私はだんだん嫌な感情があふれてくる。

嫌だ……。澪、お願い、やめて……。

 「女の感ってヤツかな? けっこう当たると思うし、自信だってあるよ」

 やめて、澪。それ以上、喋らないで……。

 どうしてよ……。どうして、そのカンを、もっと働かせることは出来ないの?

 ヒカルの気持ちにどうして、気付けないのよ。

 「あたり、でしょ?」

 澪……。

 「だって、天音ちゃんのヒカル君を見つめる目は、絶対、恋する目だと思うもん」

 澪! 澪、澪、澪!!

 「ふふっ。私さ、2人はお似合いだと思うのよ」

 な、に――…言って……るの?

 澪――……

 澪の明るく、無邪気な声が、私の胸に突き刺さり、心が無くなっちゃいそう。

 どうにもならない気持ちを握り締めるように、私の手に力がこもっていた。

 お願いだから、澪……。もう、やめてよ……。

 「そうだ! 私、協力するよ! ね?」

 ――――っ!!

 澪の言葉に、喉の奥がキュウって、しまるような、息苦しくなるような感覚を思えた。

 ひんやりしてゆく、体……。

 協力? 澪が?? なに、言ってるのよ……。

 手に力を入れすぎて、爪が食い込んでいる。

 嫌な汚い感情がフツフツと沸いてきて、イライラしだす私は、ソレを誤魔化すように、奥歯に力を込めていた。

 そんな私に、澪は追い討ちをかける言葉を発する。

 「ヒカル君もさぁ、きっと天音ちゃんが好きだよ」

 プツンッ ――……

 澪の言葉に、私の中の何かが切れた。

 それを? それを、澪が言うの??

 何も知らないで、よくそんなことが言えるわよね?

 何も知らないくせに、分かったように、どうして言えるの?

 そんな事を一番、言っちゃいけない澪が、一番言っちゃダメな私に、言うの??

 いい加減にして。

 「え?」

 震えるような声で、小さく言葉にする。

 聞き返す澪に、私はもう1度、繰り返した。

 今度はもっと、たくさんの言葉が口から出て、ナイフのように鋭く、澪を攻撃する。

 「いい加減にしてって言ったのよ! もうやめてよ!! 私の心に土足で、踏み込まないで!!」

 私の声は大きく、澪は驚き、身を固くしていた。

 そんな澪見て、直ぐに我に返った私は、すばやく両手で自分の口を覆う。

 あ――……。や、私、なんて事―――……。

 「澪、ごめ――……」

 「ごめんなさい」

 え?

 慌てて謝ろうとする私の言葉を遮り、澪がペコリと頭を下げた。

 そ、んな……。私が、私が悪いのに。

 ただの八つ当たりで、ヤキモチで、自分勝手な感情で………。

 言葉に言い表せられない私は、首を振った。

 澪はマクラの下に手を伸ばすと、一通の封筒を両手に持って、私に見せながら苦笑すると続ける。

 「これ」

 「え?」

 「私が飛ばした手紙を、天音ちゃんと、ヒカル君は拾ってくれたでしょう?」

 え?

 「それ、って……」

 「うん。その手紙の相手からの返事なの」

 あ、確か……

 「歩(アユミ)ちゃん、だっけ? って、あ! ごめん。ちょっと手紙読んじゃってて、その――……」

 いやだ、最低。私!!

 慌てて謝る私に、澪は笑う。

 「いいよ。そんなの」

 「でも!」

 「い〜の。それにね? 歩(アユム)君、なんだよ」

 え?? 歩、君?? え?

 「男の子? え、それって――……」

 私が問いかけたかったその先を、澪は察して、続けた。

 「彼氏」

 か、彼氏!?

 「澪の、彼氏なの!?」

 思わずそう問いかけ、確認する私に、澪は目をパチクリさせると、笑った。

 「そう。だけどね、なかなか会えなくて、だから手紙を出していたの。最近は電話も出てもらえないし、手紙の返事もない。私からの一方通行が多くて、苦しくて……。や、歩も忙しいからね。でも、やっと返事が来て!! 私、それが嬉しくて…で、恋話とか、調子乗っちゃった。ごめんなさい……」

 想像もしていなかった、澪の彼氏の存在。

 それを知った、私の心は複雑だった。

 ヒカルは澪が好き。だけど、その澪には彼氏がいる……。

 その事に、ホッとする嫌な私がいて、だけど、それ以上に、ヒカルがこの事を知ったら、傷つくんじゃないかって、そう考えたら、私の心臓が冷たくなってゆくように痛んだ。

 だって、あの、ヒカルの笑顔が消えてしまうの?

 私に向けられることはない笑顔。だけど、大好きな笑顔……。

 ヒカルが悲しむ姿なんて、私は見たく無い。

 私、どうすればいいの?

 このまま、この事を黙っていようか?

 でも、そんな嘘は、結局ヒカルを傷つけるんじゃないの?

 それなら、もう、言ってしまおうか?

 澪には好きな人が、想いあっている人がいるって事を………。

 ヒカルは傷つき、あの笑顔は見れなくなるカモしれない。

 だけど―――…。

 

 

 

A . ヒカルに言う。

B . ヒカルに言わない。

 

 

| TOP| |A.ヒカルに言う。|B.ヒカルに言わない。|