Wish【 5 -A-A 】

 

 今日こそは一番乗りだと思って、早めに家を出てきた私だったけど、小さな澪が、木にもたれかかって座っていたので私は驚いた。

 まぁ〜た、澪が一番? 負けたぁ〜。

 「今日はけっこう早く来たんだけどな」

 ボソリ呟き、私は澪に近づいて、笑う。

 「早いねぇ〜。澪」

 私の声に、澪は顔を上げると、嬉しそうに笑った。

 私もつられて笑うと、隣にストンと腰かける。

 「いつも一番乗り。けっこう待ってるんじゃない?」

 「え? んーけっこうズットいる、かも?」

 「何よそれ〜」

 私は、何だか可笑しくて思わず笑った。

 フッと、空を見上げる。

 「いい天気だね〜」と、私は笑う。

 澪も、「ホントだぁ」と、続けて空を見上げた。

 青空に、ゆっくりと流れる白い雲。

 浮かぶ雲は風に任せて、気持ちよさそうに流れてゆく……。

 なんだか、私みたいだ。

 自分じゃ身動きとれなくて、現状に流されたままの私にソックリ。

 私の場合、別に気持ちよくなんかないけどさ。

 私は、ヒカルは素直なヤツだから、直ぐに告白しちゃうんじゃないかと思っていた。

 だけど、ヒカルは想いを告げようと考えず、傍にいたいと願い、ちょうどいい関係を保っている。

 でもね? いつまで黙っているのか、私には、ヒカルじゃないから分からない。

 もしもこの先、なにかこの三人の関係に変化があった時、私はどうするんだろう……。

 今でも、ヒカルの想いが見て取れて、辛いのに、もしも2人が両想いになってしまったら、私の居場所はどこ??

 私に対して、友達だからと、きっとヒカルの態度は、変わらないだろう。

 だけど、友達だと思えていない私は、普通に今のままのポジションに、収まる事が出来るんだろうか??

  *  

  *

  *

  *

「――ね!」

 え?

 「天音っ!!」

 「え?」

 ひか……

 「ヒカル? なんで、いるの?? いつのまに、来たの??」

 え? なんで…

 私は目をパチクリとさせて、ヒカルの姿をとらえるなり、目をこすった。

 えっと……。え??

 呆れ顔のヒカルを前に私は、首をかしげた。

 もしかして……

 「天音ちゃん、寝ちゃったの」と、澪が苦笑する。

  げげっ。やっぱり!?

 「ごっめぇーん! 澪! 空眺めてたら、なんか気持ちよく、なっちゃったんだと思う。しかも最近、体がダルいんだよぅ〜」

 私は両手を合わせて、隣に座る澪に向き直り、謝った。

 「いいよ、いいよ」と、澪が笑う。

 私は再度「ごめんね」と、続けながら、抜けきらない体のダルさを感じていた。

 いつのまに、寝ちゃったんだろう。

 最近、考える事が多くて、眠れなかったから……。

 だから体の調子も、おかしいのかもしれない。まずいなぁ……。

 人間の体って、けっこう管理が大変なんだ。

 「ほんっと、ゴメンね? 1人で退屈させたね」

 私が謝っていると、「はぁ……」と、ヒカルの溜息が漏れる。

 「ばっかじゃねぇのぉ? 何処でも寝てるんじゃねぇよ。疲れてるなら、帰れよ」

 滅多に見せないような顔するヒカルは、呆れてるのか、怒ってるのか分からない。

 けど、きっと私がこんな風に寝ちゃって、大事な時間潰しちゃったから、怒ってるんだ!

 なによその、言い方。そんな言い方しなくてもいいじゃない!!

 そんなに2人っきりに、なりたいわけ!?

 「うっさいわねぇ!! 帰るわよ! 帰ればいいんでしょ!! もう知らな――」

  あ、れ――――……??

 勢い良く立ち上がった、私の視界が揺れる。

 おかしい、何? コレ………。

 足に力が入らなくて、体全身の力が抜けるようだった。

 フッと、地面に吸い付くように倒れる私は、遠のく意識の中、私の名前を呼ぶ声を聞いていた。

 ヒカルと澪が、叫ぶように呼ぶ声を―――………。

 

 

    *  *  

 

 

 目を覚ました私は、人間界で、自分の家となった場所にいた。

 私は、部屋のベットで、ユックリとまだ重い瞳を開る

 抜けきれない疲労感が体に残っていて、起き上がることが苦痛だ。

 寝不足な事が原因?

 色々考え過ぎていたのが良くなかったのかな? 人間って、なんて繊細なの??

 「大丈夫かよ?」

 傍で聞こえる、聞きなれた声に、私は驚いて目線を向けた。

 ヒ、ヒカル……

 「どうして、いるの?」

 「んだ? それ、意味分かんねぇ」

 意味、分からないのは私だよ。

 「だって、せっかく澪と2人っきりになれるチャンスだったのに……」

 私が力ない声でそう言うと、ヒカルは眉間にシワを寄せた。

 そっか、そうだよね。

 「ごめん。私が倒れちゃったから、だね。邪魔者だぁ私……」

 「怒るぞ?」

 ……なんでよ。

 フイッと、私は言葉を返さず、目線をそらすように、寝返りをうつ。

 背中越しに、ヒカルの声が聞こえた。

 「天音、お前どうしたんだよ? 今日、天音の姿を見た時、顔色悪くてビックリした」

 「………」

 「心配、させるなよ。俺、天音が心配だよ。何かあるなら、言えよ。な?」

 「―――っ……」

 なによ、なによ、なによっ。

 なんで、そんなに心配してくれちゃうの? やめてよ……。

 友達だからって、そんな簡単な理由でも、私は悔しいくらいに嬉しくなる。惚れ直しちゃうの。

 私、やっぱりヒカルが好きで、仕方ないよ。

 隣にいたいよ。ヒカルの傍に、いたい。ヒカルの一番に、なりたいよ。

 100年もの間、好きな人の傍にいられたのに、それ以上を願うなんて、私は贅沢なのかな?

 それだけの長い年月かけても変わらない関係は、きっとこの先、変わらないのに……。

 それが、悲しい現実でしょう??

 ヒカルの優しい言葉に、涙が出そうになる。

 ソレを私はグッと、奥歯に力を入れて我慢して、口角を上げると、ユックリ体を起こして、笑った。

 「ばぁ〜か。大丈夫だよ」

 窓から、太陽の光が差し込んでいた。

 ヒカルの髪が、キラキラと、光る。

 安心したように笑うヒカルを見て、単純だなって思えて、可笑しくなる。

 ホッとして、『やっぱり鈍感だ、コイツ』って、思えて、『ばぁ〜かっ』って、色んな気持ちを込めて心の中で呟いた。

 

 「大丈夫じゃないぞ」

 

 え?

 突然の声。

 それは聞きなれた、だけど、もう懐かしく感じる声だった。

 ヒカルも、私もよく知っている人物の声。

 ソッと、私もヒカルも顔を上げて、その人物を目でとらえる。

 人物って、言うより………彼は、天使なんだけども。

 「「アオ!?」」

 基本仏頂面のアオは、私とヒカルの先輩天使。

 男のくせに髪が長い長髪で、それはムカつくくらいサラサラだったりする。

 アオは人間になりたいと願い、人間に幻滅して天使に戻ったヤツだ。今は以前の私とヒカルのように、天使のお仕事していて、私やヒカルに用なんかないハズなのに……。

 そんなアオが、どうしてここに??

 私とヒカルが同時に名を呼ぶと、天使のアオは呆れたように溜息を付いた。

 「はぁ〜……」

 久しぶりに会ってってか、急に現れてなに??

 私が首をかしげ、疑問に思った事をヒカルが、口にする。

 「アオ、何でココにいるんだ?」

 うんうんと、私は頷きながらアオをジッと、見つめて答えを待った。

 「あのさ? お前ら、馬鹿??」

 はぃ!? いきなり何なの!?

 「「ここまで喧嘩売りに来たの(かよ)!?」」

 アオの言葉に、私もヒカルも言葉をハモらせる。

 「っ――……」

 あ――……や、ば………。

 体調が良くなかった私は、急に声を上げたせいでクラッとした。

 起こした体を支える事が出来なくて、私は布団に吸い付くように倒れこむ。

 な、に? コレ……。ほんとに寝不足とか、考えすぎていたせいなの?

 「天音!?」

 私の様子に気が付いたヒカルは声を上げ、私に駆け寄った。

 そんな私たちを見て、アオはまた「はぁ〜……」と、溜息を吐いて続ける。

 「だから、大丈夫じゃないって言ったろ? 馬鹿」

 「……お前、アオ。何がいいたいのかハッキリしろよ」

 私の手を握り締めるヒカルの力が、ギュッと強まるのを感じた。

 私もアオを問い詰めたいのに、ソレは体が辛くて、出来なかった。

 だけど、何かがおかしい事くらいは理解できる。

 いったい、なに? 私、どうしちゃったの??

 「だから、大丈夫じゃないんだって。天音はさ」

 「ハッキリ言えよ」

 「蒼井 澪が原因だ」

 え?

 「え?」

 アオは短く、原因となる名を上げる。

 それは、どういう意味なのか……。

 聞き返したいのに、私は口から言葉を発する力がない。

 私の変わりにヒカルが会話を静かに続ける。

 「意味が分からねぇよ」

 「どうして気付かない?」

 「何が!?」

 なかなか確信に触れないアオに、ヒカルはイラッとしながら口を開く。

 「だから、蒼井澪が、普通の人間だと思うのか?」

 「それ、どういう意味なんだ?」

 私もヒカルと同じように、アオの言葉が理解できない。

 澪が、なんなの??

 「ア、オ。そ、れ……ど、ゆ――…」

 ……事?

 私は、力を振り絞って、体を起こす。

 「天音!!」

 心配そうに、支えるヒカルに力を借りながらアオを見つめた。

 聞かずには、いられない。

 嫌な、予感がする…。

 アオはユックリと、口を開いた。

 

 「蒼井澪は、死んでるよ」

 

 え―――……??

 アオの口から出た言葉。

 それは、直ぐに理解出来ないくらい、衝撃的な言葉だった。

 澪が、死んでる?

 それって、どうゆう事??

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