Wish【 5 -B-B 】

 

 馬鹿みたいな二択問題。

 ひどい事を考えちゃうんだ、私って……。

 「天音ちゃん?」

 え? あ――……

 「ごめん。なんでもないよ」

 私は取り繕うように、笑った。

 ヒカルに言うなんて、そんなことできるわけない。

 悲しむ顔、見たくなんかないもの……。

 なんか、心臓、痛いな……。

 「ごめん、澪。私、のどかわいちゃった」

 「え?」

 「ジュースでも買ってくる。そのラブレターまだ未開封でしょ? はやく読んじゃいなさいよ。帰ってきたら、のろけ話くらい聞いてあげるからさ」

 私は、にっこりと笑顔を見せる。だけど、心中穏やかではなかった。

 本当は、ちっとも喉なんか乾いてない。ただ、頭の中を整理をしたくて、1人になりたかっただけだった……。

 頷き、テレながら私を見送る澪の姿。そんな澪、ヒカルになんか絶対に見せられない……。

 私は、ヒカルには秘密にしなきゃって、絶対に悟られないようにしようって、思った。

 なのに……。どうして?

 そう、思って、私は病室を出たのに。

 ドアを開けて直ぐ感じた人の気配に、心臓が跳ねた。

 うそ、でしょ……。いったい、いつから??

 「ヒカ――」

 思わず名を呼びかけた私の口を、ヒカルは手の平で止めた。

 「―――――っ!」

 ドアをパタンと閉めて、私の唇から離れる、ヒカルの手の平。

 なんて言えばいいのか分からず見上げる私に、ヒカルは苦笑して小さく続けた。

 「天音が気にすること、ない」

 ツキンと、痛む心臓。

 そんな顔して、言う台詞でもないよ?

 その様子じゃ、私がヒカルを好きだって話は聞いてないみたいだね……。

 私は一つ、安心しつつ、失恋したヒカルを見上げる。

 そんな顔……しないでよ……。

 私も苦しくなっちゃうでしょ?

 顔がゆがむ私に、ヒカルはポンッと頭を叩くと、口を開く。

 「ジュース、買いに行くんだろ? 俺も一緒に行く」

 え? あ、

 「うん」

 頷き返す私は、何を言ったらいいのか分からず、黙り込む。

 シンッと沈黙。その静けさは私の胸を締め付ける。

 そんな空気を壊すように、静かに歩く私に、ヒカルは苦笑して、頭にチョップした。

 「ったい!?」

 ビックリして、声が出た。

 突然の攻撃に私は頭を押さえて、ヒカルを見上げる。

 見上げたヒカルは、呆れたように続けた。

 「天音が落ち込むなよなぁ〜」

 だって……

 「あのなぁ? 俺、可愛そうじゃないぞ」

 え??

 私はヒカルの言葉にビックリして、見つめる。

 どういう意味なの??

 「ヒカル? 澪が、好きなんだよね??」

 「好きだよ」

 だったら……

 「どうして?」

 「どうしてって……。俺は一目ぼれして、好きになったけど、会えると思って、人間になったわけじゃないから」

 心配する私を見て、ヒカルは笑って続けた。

 「そりゃ、ショックはショックだけど、こうして出会えて、友達になれた奇跡って、俺は凄いと思うわけ」

 それは、そうだろうけど! でも!!

 「好きだったら、その人の一番になりたくなるじゃない!!」

 私は、自分の想いを重ねて、反論する。

 どうしてそんなに寛大になれるの?

 どうして、そんなふうに考えることが出来るのよ

 私は、そんなに綺麗なことなんて、言えない――……。

 自分が汚く思えて、泣きそうになった。

 必死になる私に、ヒカルは目をパチクリ。私の頭をぐしゃ、ぐしゃとして、笑う。

 「ほら、そんな顔すんなって〜」

 や! もう!!

 「やめて! ふざけないで!!」

 「天音って、超いいやつだな」

 や、めてよ。そんな顔して笑わないでよ………。

 いいやつじゃないよ! 

 私は、ヒカルみたいになれないの。

 傍にいるだけでいいなんて、ヒカルに好きな人がいなかったから、だから言えたキレイごとだった。それを私は、こんなにも実感しているのよ……。

 苦しいんだよ……。

 私は想いを言葉に出来なくて、誤魔化すように乱れた髪を、手ぐしで整える。

 一つ息を吸い、気持ちも整えてから、呆れえたように返した。

 「なに言ってんの? ばっかみたい」

 「ホントだって」

 「あっそ」

 「それにな? ほんっと、心配しなくて大丈夫だから。俺、前向きだし」

 はぃ??

 「なに、それ」

 「ん〜、俺が思うに、人との出会いは運命って、考えが、この世界にはあるだろ? だから澪は、俺を人間にする運命の人だったのかもしれない。運命の人に出会うための、そんなきっかけになる人物なのかも??」

 運命の人……。

 なによ、それ。ムカつく。

 結局は、この世界にヒカルの運命の人がいるってことじゃない……。

 私は、それを見守らなきゃいけない運命なわけ?

 私は一生片思いの運命なの??

 「ほんっと、前向き過ぎ」

 私にも分けてよ、その、前向きさを………。

 そう、思えてならない私は、切なくなる。思わずヒカルを見上げると、そんな瞬間。急に騒がしくなった。

 え? なに??

 ばたばたと看護師さんたちが、私とヒカルが来た廊下を走ってく。

 え………? なにか、あったの??

 ドクンと、嫌な音を心臓が立てる。

 私とヒカルは同じことを思ったみたいで、顔を見合わせた。

 まさか? まさか、だよね……。

 「あなたたち!」

 え?

 走ってく看護師さんの一人が足を止めて、私とヒカルに声をかける。

「澪ちゃんが急変したの! ナースコールも鳴らせなかったみたいで、今さっき、手術室にはこばれたわ!!」

 えーー………。み、澪が??

 私とヒカルは顔を見合わせると、走り去る看護師さんの後を追った。

 ウソでしょ!? どうしてこんなことに――……。

 澪、お願い! 無事でいて!!

 

 

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