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Wish【 6 -B-B 】

 

 手術中の赤いランプがついて、その先に入ることが許されない私とヒカルは、冷たいドアを挟んで、澪の無事を祈ることしかできなかった……。

 どうして、こんなことに?

 さっきまで、元気そうだったのに………。

 私、どうして澪に付いててあげなかったんだろう―――……。

 私が傍にいれば、直ぐに看護師さんを呼んで、こんなにも手術が長引くことは無かったかもしれないのに……。

 私は、嫌な予感がしてならなかった。

  ソッと、ヒカルを見ると、青い顔。きっと、私と同じ嫌な予感を感じているんだ……。

 私は、思った。

 澪の無事を祈ってる。願ってる。だけど………。

 きっと、澪は助からない………。

 半分だけまだ残る、天使の私が教えてる。

 澪は、助からないんだと……。

 ヒカルはふらりと、立ち上がる。

 え?

 「ヒカル?」

 虚ろな目にドキリとして、無言のままのヒカルの名を呼んだ。

 だけど、ヒカルは答えない。私を、見てくれない。

  ヒカルはふらりと、そのまま、澪の病室の方へと歩いてく。私は嫌な予感がして、後について歩いた……。

 

 

 ヒカルは、思った通り澪の病室に入る。私も続いて入ると、眉間にシワがよった。

 ガラリとした部屋はシーツが乱れたまま、澪の苦しみの跡が残されたままで、私はジュースを買に行くなんて言わずに、ずっとココにいてあげれば……。そう思わずには、いられなかった……。

 床に落ちていた便箋をヒカルは拾い上げる。

 「原因は、これ、か………」

 え?

 私はヒカルの手からその便箋をとると、その手紙の文面に絶句した。

 短い言葉で、書かれた手紙はたった、三行だった。

――――――――――――――――――

 澪へ  

 

 

  手紙も電話も迷惑です。

  やめて下さい。

  さようなら。

 

 

 

             歩

 

――――――――――――――――――

 彼氏からやっと届いた手紙だと、嬉しそうな顔していた澪……。

 どれだけ、待ち焦がれた手紙だったんだろう。

 どれだけ期待して、この手紙を受け取って、封を開けたことだろう……。

 突きつけられた冷たい文字は、澪にとっては心臓への、鋭い攻撃となってしまったんだ……。

 私は、思い出す……。

 『そのラブレターまだ未開封でしょ? はやく読んじゃいなさいよ。帰ってきたら、のろけ話くらい聞いてあげるからさ』

 私が読むことをすすめて、中身を期待させた??

 も、しかして……。私のせい??

 あ、や……

 「ヒカル、私――」

 「天音は悪くないぞ」

 え――――……。

 私は、無言のままの、ヒカルの背中に謝ろうと口を開いた。

 それが予測出来たヒカルは、ゆっくりと振り返り、言葉を遮る。

 「バカだな、天音。お前、悪くないから」

 「でも、私が付いていれば……。あの手紙を読むことをすすめなければ……。そしたら!! そしたら澪は―――」

 「手紙はすすめなくても読んでたと思うし、たら、れば、なんて言うな。天音のせいじゃない。俺は天音の傷つく顔は見たくないから、やめろよ」

 ヒカル……。どうして、そんなに優しいの?

 私、私を思ってくれるその優しさが、苦しいよ。

 私だって、ヒカルのそんな顔、見たくないんだよ――……。

 「心配すんな。俺が、澪を助けるから」

 助け、る??

 フッと、笑ったヒカルの笑顔がキレイ過ぎて、怖くなった。

 なにを言ってるの? 私たちに決められた命の終わりを、どうにかなんて出来ないんだよ?

 ううん。出来る、出来ないで言えば、出来る。

 でも、仮にそんなコトをしてしまったとすれば、禁を犯す行為に、罰が与えられる―――……。

 ま、まさか………

 「俺、天音が一緒で良かった」

 「ヒカル?」

 嘘でしょ??

 「俺さ、この100年間生きてきて、天音が一番の友達で、もう、半身みたいな感じっていうか。俺のある意味、体の一部みたいってゆうか……」

 「な、なによ急に……」

 ヒカルは優しい顔して、笑う。

 やめてよ。そんな顔、するの……。

 私、分かっちゃったよ。ヒカルが今から何をするのか……。

 なに、考えてんのよ? バカじゃない? そんな事をしたら……。

 自分は消えて、なくなっちゃうのよ?

 「俺、天音には絶対、幸せになってほしいって思ってるし、応援してるから」

 ヒカルの私への応援メッセージはサヨナラの言葉なんだと、私は理解する。

 やめてよ。冗談じゃないわよ。私は、ヒカルに幸せになって欲しいのよ。

 私、あなたが100年もの間、大好きなんだから!!

 「―――せない……」

 私はボソリと小さく、返す。

 「え?」と、声を上げるヒカルは私を見て、私はヒカルの先手を打った。

 ヒカルのしようとしてることなんか、お見通しよ。

 絶対に、させないわ!!

 私は素早く契約の指輪を薬指から外した。

 「な――――………」と、ヒカルが目を見開き、私を見ている。

 私の指から離れた銀の指輪は、美しい羽となり宙に舞う。

 舞い上がる羽は、私の背へと集まり、やがて大きな、白い翼となった。

 完全な天使に戻った私を前に、ヒカルは慌てて、自分の指輪も外そうとする。

 そんなこと、させないわ!

 私は軽く右手をヒカルにかざす。ただ、それだけで、ヒカルの指輪を外そうとする手は、嘘のように動かない。

 そんなバカなこと、私が許す筈がないでしょう?

 ヒカルは眉間にシワをよせて、口を開く。

 「天音! 俺に力を使うのかよ!!」

 「当たり前じゃない。いくら頑張っても無理よ。互いに天使のままなら力量はヒカルが上だけど、半天使のヒカルの力なら、私は負けることなんてない」

 「ふざけんなよ! お前、なに考えてんだよ!! やめろよ!!」

 ヒカルは、私が何をしようとしているのか察して、必死に訴える。

 ばぁ〜か。嫌に、決まってんでしょ?

 「ヒカルには、させないわ」

 フッと、私は笑った。ヒカルは動かすことのできない腕に一生懸命力を入れて、首をふる。

 「嫌だ! 俺、言っただろ? 天音に幸せになって欲しいって!!」

 「私はずっと、ヒカルが好きだったの」

 「え―――……」

 私の突然の告白に、ヒカルは息に近い声を漏らす。

 あぁ、ほんっと、ビックリしすぎだっちゅーの。バカね。

 自分を責める? 100年も気が付かなくてゴメンって。

 でも、最後だから……どうせ、忘れちゃうんだから言わせて―――……。

 「私ね、100年、ヒカルを想い続けてきたの。大好きだったわ。今も同じくらい、誰にも負けないくらい大、大、大好き」

 照れて笑う私に、思った通り、ヒカルは自分を責めるような顔をした。

 そんな顔、させてごめんね……。

 私はクスリと笑い、続けた。

 「私の幸せはヒカルの傍にいること。それなのに、ヒカルが自分の命をかけて、澪を救ったら、私はどうなるの?」

 私の問いかけに、ヒカルは反論する。

 「心配しなくても、澪を救って、俺が消えてしまったら、俺の存在自体が無かったことになるんだ。誰の記憶にも残らない! 天音の幸せの定義は変わるだろ!? だから―――」

 「やめてよ……」

 「え?」

 ヒカルが命をかけて、澪を救う。そして、消える……。消えてしまう…………。

 そんなの、嫌よ……。

 「バカじゃない? そんなことされて、私の中からヒカルが消えるなんて、許せないわ! 私のこの長い想いを無いものにしないで!!」

 「俺だって許さない! こんなこと、許さないからな!! やめろよ!! なぁ! 俺、天音のこと大事に思ってるんだ。俺の犠牲になるなよ!!」

 泣きそうになって叫ぶヒカルが、愛おしい。

 ありがとうね、ヒカル……。

 「ばぁ〜か。犠牲じゃないわ。私の望みよ。願いよ。好きな人が幸せになるって、最高の幸せじゃない?」

 「天音!!」

 「失恋しちゃった澪を支えてあげなさいよ。ヒカル、澪が大好きでしょう?」

 「や、やめてくれよ。頼むから……俺の記憶からも天音が消えるんだぞ!? そんなこと―――」

 「それを私にする気? 冗談じゃないわよ」

 私は泣きそうになるのをグッと堪えて、笑った。

 「大丈夫。ヒカルは澪を幸せに出来る。ヒカルは、幸せになれる。これは私の強い願いだから、きっと、ヒカルが私のことを忘れても、私が消えてしまっても、想いがココに残ると信じてる……」

 ヒカル、幸せになって。大丈夫。私が澪を、連れ戻してあげるから―――……。

 「さよなら。ヒカル……。大好き……」

 「ま、待てよ!! 天音! あま――――」

 私を何度も呼ぶヒカル。ありがとう。

 最後の最後に、どさくさに紛れてキスしちゃった……。

 でも、どうせ忘れちゃうもの。これくらいいいわよね?

 ヒカルのこと、大好きだった。

 ほんとに、ほんとに、大好きだったよ。

 私の幸せの場所は、ヒカルの傍で、私の幸せは、ヒカルの笑顔だったの。

 片思いは苦しかったけど、だけどやっぱり、好きが勝っちゃった。

 ヒカルは運命を口にしたけど、私の運命はキューピットだったのかもしれない。

 

 

 そうね。

 あなたが幸せだと、私も幸せ……。そんな願いが、届くといいな……。

 

 

 

   END

 

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