Wish【 7 -B-A 】

 

 青々とした、緑の多い公園。

 人が楽しそうに笑いあう公園のベンチで、消え入りそうな澪を見つけた。

 その姿に私は愕然とする。

 どうして、あんなに消えそうなの?

 もしかして、消えちゃいたいとか思ってるの?

 このままだと、さまようどころか、消滅しちゃう。

 そしたら、生まれ変わる事も出来なくなるわ。

 だめ、させない! 死なせないっ!!

 「澪っ!!」

 降り立つ私に、澪は目を丸めた。

 「あま、天音ちゃ――……え? なん――……」

 「ごめん。説明してる暇は無いの。早く帰ろう? 今ならまだ間に合うから」

 私が手を伸ばすと、澪は体を強張らせた。

 み、お――……? あ……そっか。もしかして…

「私が、怖い?」

 「え?」

 そりゃ、そうよ、ね……。

 白い翼をもつ生き物なんて、人からすれば、気持ち悪いにきまってる。

 「心配しないで? 別に悪魔とか、そんなんじゃないから。一緒に帰ろう? じゃなきゃ、澪? あなた本当に死んじゃうのよ……。大丈夫。心配しないで、私がいるから。ね?」

 私は安心させたくて、笑った。だけど澪は、そんな私に首を振ると、続ける。

 「天使だったんだ、天音ちゃん………」

 澪?

 「綺麗だし、優しいし、なんか納得しちゃうなぁ」

ちょ、澪??

 「ごめんね? 私、死ぬ前にちゃんと謝りたくって。よかったぁ〜。会えて」

 なに、言ってるの!?

 パチンッ!

 私は両手で、澪の頬を挟むようにして、叩いた。

 バカ澪!!

 目をパチクリとさせて、見上げる澪に、私は静かに続けた。

 「澪? 今の状況、理解してるの? 澪、このままじゃ、本当に死んじゃうのよ!?」

 「だって、私、死んじゃったんでしょ? 当然だと思うもん。もう、消えちゃいたいくらいだよ……」

 うつむく澪に、私は眉間にシワを寄せた。

 「当然!? バカ言わないでよっ!!」

 「あま――」

 「簡単に命を捨てる事は、絶対に許さないんだから!」

 私の目にジンワリと、涙が浮かんだ。

 「澪は、私が人間になって、初めて出来た大事な友達なのよ! 死なせないわ!!」

 「と、もだ……ち?」

 澪が小さく続ける。

 頷く私に、澪の目からは涙がどんどん零れ落ちて、ソレを両手で拭いながら澪は続けた。

 「わた、私……あんなに、無神経な事を言ったのに、友達だって言ってくれるの?」

 「バカ言わないで。あたりまえでしょ!!」

 さっきよりも、透明度がまして消えかけてゆく澪に、私は焦って続ける。

 「早く自分の体に戻らないと、澪! 手遅れになるっ!! 戻りたいって願って! じゃなきゃ、死んじゃうわ! 思いは強いの。澪の意思でココにいるなら、私がどんなに頑張っても、ここから離れさせる事は出来ない。澪が! 澪の意思で―――…」

 「うん」

 焦り、早口で説得する私の言葉を、澪は柔らかい表情で頷き遮った。

 澪の体は、フンワリと淡い光に包まれてゆく。

 それは、澪が生きる意志を持った証。

 自分の体へと、魂が飛ぶ前触れ。

 「天音ちゃん?」

 え?

 澪は笑顔で続ける。

 「私にとっても、天音ちゃんは大事な友達なの」

 私は微笑み、コクリと頷いた。

 「だからね、戻ったら、いっぱいお話しようね」

 え―――…

 「遊びにも、私、早く良くなるから! どんどん行こうね」

 「そ、だね」

 「歩にも紹介するから!」

 「うん……ありがとう」

 私はぎこちなく頷くと、スゥッと消えゆく澪を見送った。

 ごめんね、澪。

 それは出来ないのよ。私は天使に戻ってしまった。

 もう、人間には戻れない。

 天使に戻ってしまった私。

 人間の頃の存在など、無かった事に……いなかったって事に、なるのよ。

 だから、目覚めた澪は、私の事なんて覚えてないの。

 ツキンと痛む心臓。グッと、奥歯に力を込めて、空を見上げる。

 太陽が眩しいほどに輝いている。なんだか、ヒカルの笑顔を思い出した。

 これで、よかったんだよ。

 これで、ヒカルの笑顔は守られた。

 澪の命も、救う事が出来たのだから――……。

 

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