大切なあなたと

+ 2013.06.13 +

 

 

 とある赤い屋根の小さな家に、おばあさんと、おじいさん。そして真っ白い猫の、ララが住んでいました。

 おばあさんと、おじいさんはとても仲良しで、ララは2人が大好です。

 にこにこ笑う2人の傍は、春の陽気よりもぽかぽか。

 夏の青い空に浮かぶ、雲のように気持ちがいい。

 秋の物寂しさも感じなくて、凍える冬は暖炉の傍よりも、2人の傍にいることが何よりも暖かで、心がやすまると、ララは思っていました。

 

 ある春の日の、午後。おじいさんとおばあさんが街まで出かけて行き、ララは一人、お留守番。

 大好きな2人の帰りを、ララは玄関に続く道がよく見える出窓に座って、2人の帰りを待っていました。

 外では、ぽかぽかと暖かい光。お日様が青い空でキラキラと輝いています。

 お部屋の中まで暖かさを届けるのそ光は、次第にララの眠気を誘い、いつのまにかララは気持ちよさそうに眠ってしまいました。

 そんなララの様子を、窓の外から黒い猫が覗いていました。

 黒猫は野良猫で、ララのように一緒に暮らすおじいさもん、おばあさんもいなくて、一人ぼっちな男の子です。

 いつものように一人でお散歩をしていたら、出窓で気持ちよさそうに眠る真っ白なララに一目で恋に落ちました。

 黒猫は眠るララの傍に行きたいけれど、冷たいガラスが邪魔をして傍にはいけません。

 「こんにちは」

 黒猫がそう挨拶しても、窓越しに眠るララの耳には届きませんでした。

 そんな黒猫の姿を、ちょうど帰ってきたおじいさんと、おばあさんが見つけました。

 「あら、あら。迷子かしら?」

 優しい声が降ってきて、黒猫はおばあさんを見上げます。

 「お家はないのかい?」

 おじいさんが続けて、おばあさんも更に黒猫に問いかけました。

 「どうかしら、一緒にここで暮らしましょうか?」

 ここで、僕も暮らせるの?? と、黒猫は嬉しくなって、問いかけるおばあさんにスリスリと甘えます。

 「決まりね。ね? おじいさん」

 ふふっと、笑うおばあさんに、おじいさんも笑顔。

 おじいさんはニッコリ笑って、黒猫を抱き上げると、言いました。

 「よし。今日から、お前はウチの子だよ。名前は……ランにしよう!」

 ラン? それ、僕の名前??

 黒猫は突然の名前のプレゼントに、驚きます。

 「おじいさん。それじゃぁ、女の子みたいですよ」

 「いいんだよ。白猫のララ。黒猫のラン。2匹そろったら、ララ、ラン♪ 歌みたいだ」

 ロマンチストなおじいさんに、おばあさんはニッコリ笑い、ランも「にゃ〜」と一声。

 ランの嬉しそうな声に、おじいさんも、おばあさんも笑顔になりました。

 ランは思いました。素敵な2人に出会えて幸せ。

 白猫のララとも、仲良くなれたらいいなぁ。

 僕も、ララと2匹。おじいさんとおばあさんみたいに仲良しになりたい!

 

 ガチャリとドアの開く音に、白い耳がピクリと動きます。

 顔を上げて、フワリとジャンプ。

 軽やかに床に降り立つと、ララは2人を嬉しそうに出迎えました。

 お帰りなさい、おじいさん。

 お帰りなさい、おばあさん。

 私、いい子に留守番していたのよ。

 帰りをずっと、待ってたの。寂しかったわ。

 いい子いい子と、なでて。私を抱き上げて、おひざの上に、のせてちょうだい。

 ララは大好きな2人を見上げました。

 すると、いつもと違う匂いが2人からして、ララはビックリ。

 ようく見たら、大好きなおじいさんの腕の中には、黒猫のランがいました。

 おじいさんと、おばあさんは優しい笑顔でララに言いました。

 「ララ。今日からこの子と一緒に暮らすんだよ」

 と、おじいさん。

 「ランって名前よ。仲良くしようね」

 と、おばあさん。

 ランはララを見ると、ニッコリとご挨拶。

 『こ、こんにちは。よろしくね』

 大好きなおじいさんに抱きしめられているラン。

 大好きな2人が、連れてきて仲良くしろと自分に言う。

 それはララにとって、とても悲しいことでした。

 『嫌よ! 仲良くなんかしないわ!!』

 ララはキッと、ランを見上げると、大きくジャンプ。引っかこうと、手を伸ばしました。

 『うわぁ!?』

 ランは驚いて、おじいさんの腕の中から離れます。

 フーッと、毛を逆立てて威嚇するララに、おじいさんとおばあさんは顔を見合わせました。

 「あら、あら。どうしましょう、おじいさん」

 困った顔するおばあさんに、おじいさんはニッコリと笑います。

 「大丈夫、大丈夫」

 そうおじいさんは言うと、ララに手を差し伸べて、抱き上げました。

 ララはここは私の場所なの。と、いう顔でおじいさんにスリスリと甘えます。

 その姿を、ランは切なそうに見つめました。

 僕は、君と仲良しになりたかったのに、嫌われちゃったんだね……。

 ランはとても、悲しい気持ちになりました。

 「なぁ? ララ」

 おじいさんは、ララに話しかけます。

 ララが顔を上げると、おじいさんはニッコリと続けました。

 「一度、ランとお話ししてごらん?」

 お話し? 嫌よ!! と、ララはフイッと、顔を背けておじいさんの腕の中から逃げ出しました。

 すると今度は、おばあさんの足元でスリスリと甘えます。

 おばあさんは、そんな事を言わないわよね?

 ララが甘えると、おばあさんは優しく抱き上げて、口を開きます。

 「ねぇ、ララ」

 なぁに? おばあさん。と、ララは顔を上げました。

 「私はね、ララが傍にいてくれて、もちろん幸せよ。だけど、私の幸せの条件には、大切な事がもう一つあるの。それは、おじいさんが傍にいてくれること」

 え? と、ララはおばあさんを見つめます。

 「昔のように素早くなんか動けないし、ずいぶんと年をとって、しわくちゃになっちゃったけど、おじいさんが大好きな気持ちは変わらないの。大好きな人と寄り添えることは幸せなのよ」

 おばあさんがニッコリと、おじいさんを見ると、照れたように、おじいさんは笑い返しました。

 その瞬間、目には見えない幸せな空気。

 ララは、ふんわりと、あたたかなものに包まれた気がしました。

 それを一匹で、ポツンと、寂しそうに見上げているランを、おじいさんは抱き上げて、おばあさんの前に立ちます。

 ララとランの目がバチッと合いますが、フィッと、ララは目を逸らしてしまいました。

 おじいさんは、優しい声で続けます。

 「僕とおばあさんは、いつまでも助け合い。寄り添いあう。喧嘩もするけれど、お互い相手が大好きなんだ。ララにも、僕らのような存在がいればいいと、そう思ったんだよ」

 え? と、ララはおじいさんを見上げました。

 大好きなおじいさんと、おばあさん。

 ララは、仲良しで、幸せそうな2人が大好き。

 幸せそうな2人を見ているだけで幸せになれる。

 傍にいるだけで、幸せでした。

 だからララは、おじいさんとおばあさんのように、寄り添う誰かを想像したことなど、無かったのです。

 2人で楽しそうに、同じものを食べて、おそろいのパジャマを着て、2人で仲良くお喋りをして、お出かけをする。

 そんなことを、私も??

 ララはランに興味をもち、チラリと見つめます。

 ランは初めてララが、見つめてくれたので、嬉しく思います。

 胸がドキドキとして、思わずにっこりと、笑いました。

 『あなた……。ランは、私と仲良くしたいの?』

 ツンッとして問いかけるララに、ランは頷きます。

 『仲良くしたいよ。ララの傍にいたい!』

 ララとランがちゃんと、互いの顔を見るようになったので、おじいさんとおばあさんは2匹をそっと、床に下しました。

 ララとランが仲良さげに見えたおじいさんと、おばあさんは、嬉しくなります。

 おじいさんとおばあさんは、ソッとその場を離れると、仲良く2人で椅子に腰かけて、思い出話に花を咲かせます。

 大好きな人と共有できる、溢れるほどの幸せな時を思い返す、幸せな時間でした。

 そして、今の幸せにも感謝するのです。

 そんな2人の傍で、ララとランは窓辺に座って、お話をし始めました。

 けれど、2匹の間には微妙な距離。まだ、仲良しには程遠いものでした。

 何故ならランは、ララと仲良くなりたいけれど、ララはまだ、ランを受け入れられなかったからです。

 長い間、おじいさんとおばあさんを見つめてきて、2人の絆の深さを、ララは知っています。

 だからこそ、2人のような、仲の良い存在に、なれるとは思えなかったのです。

 『僕ね、ララと一緒に過ごせることが嬉しいよ』

 ランはにこにこと、笑いました。

 けれど、ララは冷たく返します。

 『私は別に』

 ララの言葉に、ランは悲しくなりました。

 そして、どうすれば、ララは嬉しい気持ちになるんだろう? と、思ったのです。

 『ララの嬉しいことはなに?』 

 突然のランの問いかけに、ララは不思議そうな顔をして首を傾げます。

 ランはニッコリと笑いました。

 『ララが好きなものはなに? 一緒にお出かけしよう! 僕がいいところに、たくさん連れて行ってあげる!!』

 ランは野良猫だったので、外の素敵な世界をたくさん知っていました。

 丘の上の、風がよく吹く野原は、風の通り道で、気持ちがいいこと。

 たくさんの猫じゃらしがそよそよと、風で踊る、とても楽しい場所があること。

 季節が変わると、その傍にはタンポポの咲き乱れる野原。

 綿帽子の季節には、その野を駆けると、青い空にふわふわと、飛び立つ綿帽子。

 それを見上げるのも、とても楽しいということ。

 秋になると、落ち葉がたくさん落ちる、とっておきの場所もある。

 その上を走ると、カシャカシャと、楽しい音がなる。そこも僕のお気に入りなのだと、ランはララに一生懸命、説明しました。

 ララは楽しそうな場所に、興味をもちます。

 けれど、素直じゃないララは、そんな事には興味は無いという顔で、ツンッと、返します。

 『私はランの傍にいて、幸せになれるのかしら』

 え? と、ランは目をパチクリとさせると、笑いました。

 『僕は、ララと一緒ならどこでも幸せだよ。だから、僕はララにも幸せになって欲しい。幸せになれる場所を見つけてあげるよ。さっき言った楽しい場所に、僕なら案内出来る! きっと、気に入るよ』

 ララはドキリとしました。そうか。と、思ったのです。

 2人が言いたかったことが、分かった気がしました。

 家の中でも、外でもない。おじいさんと、おばあさんの幸せの場所は、互いの傍。

 大切な存在がいるからこそ、日々が楽しい。

 それは、人間と猫との間に生まれる愛の関係ではなく、同族同士から生まれる愛なのだと。

 黙り込んだララに、ランは続けます。

 『それにね、僕はララの傍にずっといるから、ララはきっと、寂しくないよ』

 野良猫だったランは、一人ぼっちの寂しさを知っていました。

 おじいさんと、おばあさんを出迎えたときのララの嬉しそうな姿。

 僕が一緒にいれば、二人の帰りを一人ぼっちで、ララが待つことはないんだと、そう思ったのです。

 ずっと? ララはチラリと寄り添うおじいさんと、おばさんを見ます。

 あんな風に?? 私もランと??

 ララはだんだん、くすぐったい気分になってきました。

 いいなぁ。と、思えてきたのです。

 でも、急に不安になってきました。生きるものには全て、命がある。

 そのことを、ララは知っていたのです。

 もしもランと寄り添い、生きて、ある日突然、いなくなってしまったら??

 私は寂しくて、涙が出て、おじいさんとおばあさんだけでは、幸せになれなくなるんじゃないの??

 ララは、とっても不安になってきました。

 『ずっとなんて、無理よ。ランが私よりも先に、空にとけてしまったらどうするの?』

 ララは、思わず問いかけます。すると、ランは優しく笑いました。

 『もしも先に僕がいなくなったら、僕はお日様になって、ララにぬくもりを届ける。見つめ続けるよ。そばにいるから安心して。だから、この出窓でお昼寝をしてね』

 『あら。お日様は夜にはいなくなっちゃうじゃない。ずっとは無理ね』

 ララはランの言葉を、突っぱねます。けれど、ランはまた優しく笑って、続けました。

 『大丈夫だよ。夜になれば僕は月になって、ララを優しく見守るから。真っ暗な闇を照らす光になるから、安心して。寂しくなったら空を見上げて。月明かりを感じてほしいんだ』

 微笑むランの言葉に、ララはドキンと心がトキめきます。

 けれど、まだまだ安心なんて、出来ませんでした。

 ララは寂しそうに、続けます。

 『だったら、お月様は雲でかくれちゃうわ。お日様だってそうでしょう?』

 やっぱり、私にはランを受け入れるのは無理よ……。

 突っぱねながらも、どこか寂しそうなララに、ランは変わらない笑顔で言いました。

 『大丈夫だよ! そしたら僕は風になって、ララを優しく包むから。だから、安心して。外に出て、風を感じてよ。窓辺から見る草木の揺れで、僕を見つけてね。そこに僕は、必ずいる。傍にいるよ』

 ララはランの言葉が、とても嬉しく思いました。

 『でも、ラン。もしも、雨が降ったらどうするの? 雨の日に外に出られないわ。お日様も、お月様も。隠れてたら、あなたを見つけられない。風だって強くて、とっても怖い。それもラン、あなたなの?』

 ララはジッと、ランを見つめました。

 心配性のララの言葉に、ランは目をパチクリとさせると、ニッコリと笑います。

 『そしたら僕は雨になる』

 『え?』

 『耳を澄ませてみて。僕はララが一人でさびしくない様に、ララにだけ伝わる、歌を歌ってるから』

 ララはランの言葉に、目をパチクリとさせました。

 雨だって、大雨になれば怖いのに。でも、その時にはきっと、ランは何かに変身しているのかもしれないわ。

 ララはクスリと笑いました。

 胸がふわりと、あたたかくなって、陽だまりの様なそんな心地よさを感じます。

 これが、おじいさんとおばあさんの間にある、幸せな気持ちなのだと、思いました。

 『ランは、何にでも変身できるのね』

 ニッコリと笑うララを見て、ランも、ふわりあたたかな。幸せな気持ちになりました。

 2匹はいつのまにか寄り添っていて、その姿を寄り添うおじいさんと、おばあさんがニコニコと、見つめています。

 

 大切な日々をあなたと。

 大切なあなたと、同じ時を。

 それは優しくて、あたたかな、そんな幸せな時。

 変わることの無い愛はより深まり、永遠になる。

 それは、大切なあなたと出会えたから、知ったこと……。

 大切なあなた。それは、かけがえのない、大好きな唯一の存在。

 ずっと、傍に……。いてね?

 

 

   END 

 

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