幸せな世界

※2013年04月12日 モバイルHPに作成完結したものです。(恋愛要素なし)

 

 小さな少女は、フワッと身体が浮いた気がして、静けさを感じた。

 目の前が眩しい光で真っ白になって、目を閉じる。

 ソッと目を開けると、一人の若い兵士がすわっていた。

 少女の国は、隣国と戦争中で、その、兵士だった。

 幼い少女は怯える様に、兵士を見たけれど、兵士の目には殺気などみじんも感じられず、少女はゆっくりと近づいた。

 「どうしたの?」

 少女が問いかけると、兵士は答えた。

 「どうしたんだろう」

 少女は首を傾げる。

 「あなたは、戦わないの?」

 「戦っていたんだ。守るために

 兵士は小さく、呟くように返し、少女はまた、首を傾げた。

 「守るために、戦うの??」

 不思議そうに、兵士を見つめて問いかける少女に、兵士は困った顔をすると、続ける。

 自分とは肌の色が違う少女を見て、今、戦っている隣国の人間だと、兵士は分かっていた。

 「僕の国の王様は、君の国が欲しくて、君の国は自分の国を守りたくて戦っている。僕らは、守ろうとする君の国と戦いながら、自分の国にいる家族を守っているんだ」

 「おかしいわ。貴方たちが攻めてこなければ、平穏なのに。貴方たちが攻めてこなければ、私たちも防衛するために攻撃をしかけないのに。そうすれば、あなたは家族をこんな戦争に巻き込むことなく、こんな戦争から守る必要もないのよ」

 「そうだね。でも、仕方ないんだ。王様が決めたことだからね」

 兵士は、苦笑した。

 少女は、納得のいかない顔で返す。

 「攻められた私の国は、国と国民を守るために、戦う決意をして、あなたの国に攻撃をしている。でも、攻めてきたあなたの国の兵士たちも、家族を守る為、そして、自分の国を守るために戦っているのね。不思議だわ」

 「え?」

 「互いに、国と人を守りたい。だったら、初めから戦争なんてしなければいいのに」

 少女の素直で簡単な言葉に、兵士は頷く。

 「そうだね」

 少女はコクリと頷き、返した。

 「そうよ。私の国は花の美しい国。あなたの国は、緑の美しい国。互いに美しい国を燃やしあって、守りたい場所を焼け野原にして、それで守るというの? 奪いたい国をボロボロにする。それも、違うと思う。本当にこの国がほしいのかしら? なんの為にほしいの??」

 少女は切なそうに、俯く。そして、続けた。

 「自分の国だけじゃ、不満なのかしら。自分の国に誇りをもち、自分の国を発展させようとは思わないの? 一番大事なのは広く、広大な土地じゃないハズなのに……」

 「え?」

 「だって、広大な土地よりも、大事なもの。国にとっての財産は、人でしょう? 人がいると、栄える。アイデアが生まれ、発展してゆく。そうでしょう? なのに、その人を失う戦争は、悲しいわ」

 少女は兵士を見つめる。

 兵士は、コクリと頷いた。

 「そうだね。人の誕生ほど、喜ばしいことはないしね。僕にもね、小さな息子がいるんだ。まだ生まれたばかりで、小さな手で、青い空をつかむように、力強く手を高く上げて、僕に笑いかけてた。あの手がやがて大きくなり、この国を守る一人の人間になるんだって、思っていたよ」

 「そう。私にもね、妹がいるの。少し前までは、いつも小さい手で私の手を握ってて、絶対にはなさなくて、寂しがり屋で。泣きぼくろがあるんだけど、本当に泣き虫で。なのに、いつのまにか大きくなっていって、手をつながずに自分で自由に走り回る様になって……」

 少女は妹の話を嬉しそうにすると、やがて俯くように、小さく笑った。

 兵士は少女の顔を覗き込むように、問いかける。

 「どうしたの?」

 え? と、少女は顔を上げると、自分の両手に目を落とし、静かに続けた。

 「手をつないでいればよかったのに、走るあの子と、離ればなれ。生きているかな?」

 少女は、『生きているかな?』と、兵士に問いかける。

 兵士は少女の、行き場のない、寂しそうな手を握ると、続けた。

 「大丈夫。きっと。生きてる」

 少女は兵士の手を握り返すと、顔を上げる。

 「ありがとう」

 人と、人。同じ人間で、同じ血がかよっていて、同じ心を持っている。

 言葉を話すことが出来て、互いに歩み寄れる。

 それが分かる少女は、敵である隣国の兵士に、微笑む様に笑った。

 兵士も、穏やかな少女に、自然と微笑む様に笑う。

 少女は続けた。

 「空に国境がないように、大地にも国境がなければいいのにね。そうしたら、私のものだ! これが欲しい! と、ケンカにならないのに」

 「そうだね。でも、国境があるから平和でもあるんだよ」

 兵士の言葉に、少女は困った顔をする。

 「難しいわ」

 「難しいね」

 「でもね、私は思うの。この星はたった一つで、それをみんなで国として、分け合って。なのに、この星を傷つけることを、ずっと、ずっと、続けていたら……。いつかきっと、この星が怒っちゃうんじゃないかしら。そしたらこの美しい国々が栄えるこの星は、消えて無くなるかもしれない」

 ムゥッと、眉間にシワを寄せる様に、少女は困り顔。

 未来を心配する少女を見て、兵士はクスリと笑った。

 「そうだね。そうかもしれない」

 「そうよ」

 コクリと少女は頷く。

 ふわふわと、やわらかい風が、二人を優しく包むように、なでるように吹く。

 こんなに穏やかな気持ちになれたのは、久しぶりだと、兵士は思う。

 気持ちのいい風をうけて、新鮮な空気を吸うように、兵士はフッと、空を見上げた。

 キラキラ輝く光が、眩しいようで、心地よい。

 あぁ。そうか……。と、兵士は思う。

 同時に、少女も同じように理解した。

 「どうしてここにいるのか、分かったよ……。僕はそろそろ、行かなきゃ……」

 小さく呟く兵士に、少女も頷く。

 「そうね。私も、行かなきゃ」

 2人は手をつないだまま、顔を見合わせる。

 「そんなに小さい君も?」

 「守りたい家族がある、あなたもでしょう?」

互いに問いかける言葉に苦笑した。

「仕方ないわね」

 「そうだね。残念だけど……」

 「未来が平和だといいわね。今、この時も、一秒でも早く、平穏で穏やかな世界になるといいな」

 少女は振り返り、願うように呟く。

 兵士は頷いた。

「そうだね。未来はきっと、燃えた大地が、花と緑であふれ、笑顔であふれる世界になっているに違いないよ」

 2人はシッカリと手をつなぎ、歩き始める。

 暖かい光につつまれて、やがてその光にとけるように、2人が消えた。

 

 『幸せな世界に、なりますように。』

 

 そんな思いが残る様に、荒れた大地に、愛らしい2輪の花が咲いて、風に揺れる。

 小さな可愛い花は、やがて、国と国の国境を超えて、広がり続ける。

 そしてその、美しい花畑は、人々の心を豊かにした。

 それはまだ、少し先の話。

 

 戦争を経験し、生き残った少年は、残された母と共に、亡き父の為に、花を摘む。

 そして、泣きぼくろのある少女は、花を摘み、窓辺に飾る。

 それは、デイジーの花。

 花言葉は『平和』と『希望』。

『あなたと同じ気持ちです』。

 世界中の人と一緒に、平和を祈り、少年は亡き父を。

 少女は亡き姉を、思った。

 今日もココは平和です。ずっと、その平和が続きますように……。

 そんな祈りを込めて、人々はその花を慈しみ、愛し、守っている。

 それは、花と緑。そして、笑顔があふれる、美しい、幸せの世界だった。

 

 

  + END +

※デイジーの花言葉には『乙女の無邪気』という意味もあります。

 

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