どこまでも鈍色の、地面のない不思議な空間。
その空間果てなどなく、まるで宇宙のように広がっているように見えた。
所々に浮かんでいる鏡から白い光が差し込むも、その無数の鏡はどうやら出口ではないようだ。
鏡が浮遊する空間の一角に、一際大きな金色の額をした姿見鏡があり、その前に2人の少年がいた。
空間にこだまする、甲高い奇怪な声。

「ハーッハハハ!ブワァカだねぇ君は。これで捕まるの何度目だい?
 まぁこのイルツォーネ様が、うまく逃げきれるように知恵を貸してあげてもいいんだけれdkdっ!!」
飛んできた鉄拳を頬に受け、長い髪を後ろで一つに束ねた少年が背後に数メートル飛んだ。
「うるさいよ。黙れ。」
冷たい視線で無様に倒れた長髪の少年を見下しながら、
金髪の小柄な少年がむくれたように口を尖らせる。
「ひどい…ひどいよミラー、こんな美しいボクを殴るなんてっ、
 ボクの美貌がほんの少しでも失われてしまったらどう責任取ってくれるんだぃ?!」
「ウザ…。そんな騒ぐほどの面かよ。そこらじゅうに鏡あるんだから、ちゃんと自分の顔見ろ。」
「全く、君の性格は少々歪んでいるようだねぇ。ボクがここに連れて来られるまで、
 随分一人きりだったようだから、仕方ないのだろうけど。」
「けっ、」
あぐらをかいて座りながらそのうるさい長髪ナル男・イルツォーネに背を向けて、
ミラーと呼ばれた少年はため息をついた。
「退屈なのはわかるさ。でもボク達はあっちの世界には居ちゃいけないのさ。」
「わかってるよ。何度も言うな。」
すっかり拗ねてしまった様子のミラーにやれやれとため息をついて、イルツォーネは顎に手を添えた。

「実を言うと、ボクもね、あっちの[女の子]ってやつに興味シンシンなのさ。」
「女?」
「そう!!いい匂いで、やわらかくて、小さくて、なによりキュート!!
 いつも鏡から覗いているだけの存在である女の子!!!あぁ!!触ってみたい!!!」
「キモい。こっちこないでよ変態。」
ミラーは少しイルツォーネとの間に距離を置いたが、避けられていると分からず、
イルツォーネはミラーの肩を引き寄せた。
「どうだい?ボク達の目的はシンクロした。なぁミラー。本気で、外に出てみないかぃ?」
「……、んな事できるわけねぇじゃん。」
「できるさ。ボクの高度な頭脳をフル回転させて、ひとつアイディアを思いついたのさ。」
ミラーはイルツォーネを睨みつけながらも、興味ありそうに耳を澄ませた。
「な、何だよ。」
にぃっと笑顔で、イルツォーネは人差し指を立てて言った。
「噂を流すんだ。」
「は?」
「たとえば、魔法実習棟にある金の布のかかった鏡に姿を映した者は、成績があがる!!とか。」
「はぁ?!だれがそんなチンケな噂を聞いてノコノコ実習棟まで来るんだよ!!」
「大丈夫さ。成績を上げたいと心から願う、単純バカなら引っかかる!!」 「…お前こそ単純バカだ。」
「バカじゃないよ!!こんな美形になんて事言うんだい?!」
口を尖らせてイルツォーネはぷりぷりと怒った。
ミラーは「期待して損した」と言わんばかりの顔でため息をつく。
「まぁいいや。勝手に流せば?それで出られればオレ別にいいし。」
「んふぅ☆うれしいく・せ・に!」
「ほっぺつつくんじゃねぇよ!!きもっ!!」
「ハァハハハハッ!!では豪華客船にでも乗ったつもりで待っていてくれたまえ!!」

奇抜な考えを持ったその少年の高笑いは、果てのない空間にこだました。