●初鉱山

 

 

 

 

 私が鉱物に興味を持つようになったのは2007年後半からだった。

 それまでも旅行に行ったおり、海辺や川辺で色合いや形が面白い石を拾ってくることはあったが、鉱物学的興味からの行動ではない。過去に一度、外出した際に鉱物フェアというものをやっていたから暇つぶしに入ったことはある。でもそんな程度の興味でしかなかった。鉱物学に興味を持たなくても興味を持っていることは他に多々あったから。

 しかし、2007年後半に全ての趣味にマンネリ化を感じ、何か新しい趣味を開拓しようと心に決めた。その時、脳裏に浮かんだのは鉱物学だ。それからは鉱物学の本を読んだりネットで調べたりと熱心に勉強。この熱心さが高校時代に勉強に生かせていたら、もっといい大学に行けたろうなぁ。と、後悔するほどだ。

 勉強すれば勉強するほど鉱物採取というものを実際にしたくなってきた。

 比較的近くて、交通費がかからなくって、素人でも確実に鉱物を採取できる場所はないかな……本やネットで調べた結果、隣県の神奈川県に手頃な鉱山跡があることが分かった。

 それは秦野市にある渋沢鉱山だ。誰にでも黄鉄鉱(パイライト)が採れるそうだ。

 この日のために買い揃えたハンマー、タガネ、小型シャベル、篩を持ってさっそく出陣。

 

 

 私のアパートから秦野市までは東急電鉄、小田急電鉄を乗り継いでおよそ2時間半。ひたすら電車に乗って、やっと秦野市の渋川駅に到着。

 渋川駅から渋沢鉱山がある峠という集落までは一応バスが走っているのだが、バスは1〜2時間に1本しかないのだ。私が渋川駅に着いた時はバスは1時間以上待たなければならない状態だった。幸い峠の集落まではタクシーに乗っても800円程。時間がもったいなかったのでタクシーで峠に向かうことにする。

 

 

 峠の集落は……何もなかった。店も自動販売機もない。人もいない。ほんとにここは神奈川県なのかと思ってしまうほどだ。こんな寂れた集落だが、江戸時代までは矢倉沢往還の枝街道がありそれなりの賑わいがあったようだ。その証拠に江戸時代の石仏が安置されていた。

 

 小さな集落を南下し、人家が完全に絶えたところから市見川の流れに沿って鬱蒼とした林が続く。獣道のような道が林の中に続いている。竹林と広葉樹が入り混じった里山のような場所だ。音はほとんど無く、自分が踏み分ける枯葉の音しかしない。清々しい反面、少々不気味さもある。

 

 市見川に沿って林の道をしばらく歩くと、川を渡る丸木橋が現れる。朝露で濡れていて非常に滑りやすい。ま、落ちたところで川は浅いから濡れるだけで問題はない。

 

 橋を渡り道なき道を歩くと市見川の斜面に第一の坑道跡が現れる。

 この渋沢鉱山は昭和10年から戦後まで石膏を採取するために稼働していた。最盛期は20人の鉱夫が働き、立坑は70メートルに及ぶという。ぼっかい空いた坑口は意外と狭いが奥行きはあるようだ。が、1人で来ているのに落盤事故にあってもシャレにならないので入り口から眺めるだけにとどめる。ハッキリ言えば真っ暗な穴になんか入りたくないよ。

 

 第一の坑道跡を後に急な斜面をさらに歩くと目的の第二の坑道跡が現れる。

 この第二の坑道跡の下にある粘土層に黄鉄鉱や高温水晶(普通の水晶と違い透明ではなく、褐色やオレンジ色の色つきの結晶だ)が含まれているのだ。

 

 粘土を小型シャベルですくい篩に入れ横を流れる市見川でパンニング。粘土が水に溶け、キラキラ光る結晶が現れる。これが黄鉄鉱だ。しかしこの渋沢鉱山で採れる黄鉄鉱は数ミリ程度の小ぶりなものしかない。けれど小さいけれどしっかりと正8面体や正12面体の結晶で可愛いぜ。

 

 さらには凝灰岩をタガネで割って大きな結晶を探してみたが見あたらず。

 無駄な労力ではあったが、石を割るというのはストレス解消にいいことが分かった。綺麗に割れるとスカッとする。

 しばし自然破壊を堪能してしまった。

 

 

 適当なところで腰を上げ、帰宅することにした。

 帰りは峠のバス停からミニバスに乗って渋川駅に。バスはローカル路線らしくフリー乗降車だし、車内にお菓子販売コーナーがあって色々なお菓子が売っていた。なんとも渋いバスだぜ。

 

 

 

 

 実は今回採取した黄鉄鉱というものは何の価値もない鉱石なのだ。

 金色に光から金と間違われることも多く「愚者の金」というあだ名があるほどだ。成分的には鉄の硫化物である。しかし硫黄分が多いため鉄として利用されることはない。せいぜい酸化させて硫酸を造るぐらいだ。

 しかし形は面白い。まるで機械加工したような形状をしている。これが天然にできることはちょっとした驚きだ。だから鉱物マニアがその形状を楽しむために存在していると言ってもいいぐらいだろう。

 現在も私の目の前には数粒の黄鉄鉱が転がっている。どれもこれもキラキラ輝いて眺めるぶんには飽きがこない鉱物だ。