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2 いっくんが何時、何処で、どんな状況で私の名を呼ぶのかで全て決まってしまう。レディース総長かリンチ確定か。どれにしろいい結果は生まれない。そんなことになってみろ。私に未来はない。 不安になりながら教室に入ると、まだいっくんは来ていなかった。まあ、彼はいつも遅刻ギリギリに来るから、逆にこの場にいるほうがおかしいのだが。 私は心の中で『私は空気。CO2』と、何度も繰り返しながら席へと向かった。この時点で、クラスメートの目が非常に気になった。バレていないだろうか。昨日閉じ込められていたのは本当に私たちだけだろうか。実は暗闇で見えていなかっただけで一人くらいカーテンの裏で隠れて覗き見なんかしていたんではなかろうか。しかもそれが新聞部だったりして。明日くらいに掲示板に『新事実!あの山城華、暗黒街の支配者!?』なんて見出しで貼られていたりして。いや、もしかしたらこの教室は隠しカメラを仕掛けられているかもしれない。放課後にイジメや不純異性交遊等が起こらないために、一つの教室に一台くらい置かれているのではないのか。いや、それならば何故、警備員の千崎さん(56歳 男性)は私達が閉じ込められてすぐに助けに来てくれなかったのだろうか。本当は私達の存在に気づいていたのに、その怯える様を酒の肴にして楽しんでいたのか?なんという鬼畜野郎だ。千崎め。いつか覚えてろ。そんなことをブツブツと考えていた。 今振り返ってみて思うが、私は相当追い詰められていたらしい。考えていること一つ一つが痛々しい。大体なんなんだ、暗黒街の支配者とは。マフィアか私は。 とりあえず、そんなミラクルワールドを頭の中で繰り広げながら、私は誰の目にも止まらないように、慎重に、非常に慎重に行動していた。 「あ、おはよう山城さん」 「!?」 不意にかわいらしい声が私を呼び、私の硝子のハートは粉々になりそうなほど跳ね上がった。 「あ、おはよう・・・」 小さい頭に、クリクリとした瞳。ゆるゆるパーマをかけた髪に、スタイルのいい体型。 振り返れば、我がクラスのマドンナ・佐藤さんがそこにいた。彼女はにっこりと私に微笑んでいた。 「あ、そういえば球技大会のプログラム、山城さんが作ってくれたの?」 佐藤さんは美人だ。美人を前にすると女でも緊張する。そのとき私は学習した。そんな美人に話しかけられたときの私の緊張の度合いを、わかってほしい。例えるならばアレである。有名人に、「君、可愛いね」とナンパされたぐらい緊張する。ちょっと違うか。 話をもとに戻そう。 「え、う、うん」 何故私が残って冊子を作ったのを知っているのか、と私は疑問に思った。そして瞬時に悟った。警備員の先崎だ。あの野郎、もしかして監視カメラを売りさばいてんのか!? しかもよりによって佐藤さんか!?あの鬼畜中年期め! そんなことを考えていたら、新たなミサイルが投下された。 「笹井先生が言ってたからさ」 笹井ー!!! 畜生!!あの似非アメリカンめ!!あいつ実はカツラなの皆に秘密にしてるくせに!!私今までそのこと黙っててやったのに!!自分の秘密は隠し通したままで他人の秘密はバラすのかこんちくしょう!! その後の笹井(もはや呼び捨て)への報復の方法を考えながら、もう駄目だ、この後校舎裏か女子トイレでリンチだ、と私は覚悟した。 しかし、佐藤さんは申し訳なさそうに、 「一人じゃ大変だったよね?ごめん手伝ってあげれなくて。ありがとうね」 と、こんな事を言った。 その後の会話はあまり覚えていない。ただ、私の中で、笹井を許そうと思ったことと、佐藤さんの株が急上昇したことは覚えている。笹井がどう説明したのかは不明だが、佐藤さんは私といっくんが共同作業したことは知らないし、学校が停電して仲良くなったことももちろん知らないのだ。しかも佐藤さんは、私たちが居眠りしたせいですることになった、いわゆる自業自得な作業に対して「手伝えなくてごめん、ありがとう」とまで言ったのだ。聖母マリアもびっくりないい子だ。貶しているつもりは決してない。心の底からほめているつもりだ。まあ、とりあえずその時に思ったのは、助かったということだ。 そして、佐藤さんと他愛もない話をし、佐藤さんファンクラブに本気で入会しようかと思っていたとき。 事件が起こった。 今まで楽しげに笑っていた佐藤さんが急に驚いた表情をし、そして顔を赤らめたのだ。なんだ、と思っていた瞬間、ふと、背後に気配を感じた。 「おはよう、山岡君」 佐藤さんの恋する乙女全開な声がし、そして、私が状況を理解し振り向くよりも速く、 「おはよう、華」 KYK(空気 読む 気すらない)な彼が、佐藤さんを無視して私に挨拶した。 top novel top back next |