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4 その後の事はあまり詳しく話したくない。しかし、語らねばなるまい。 急いで屋上に駆け上がり、どうしようもないやるせなさと苛立ちで思い切りいっくんに怒鳴り、叫び、明日階段から滑って落ちて余りの痛さに尻が四つに割れたかもしれないという心配をしろ等という呪詛の念を吐き、対するイックンはどうして私がここまで腹を立てているのかがわからず、とりあえず話し合おうとまずは私の興奮を鎮めるために昨日テレビで観たショック療法というものをやってみるかと軽い気持ちで私の頬を軽く叩いたところ、弟には殴られたことがあるけれどパパにも殴られたことの無い私はその瞬間に興奮が頂点に達してなんと屋上の真ん中で呪いの言葉を叫びながら号泣するという、脇差があったら切腹したいぐらいの痴態を披露したのだった。 いっくんは女の子を泣かせたのは初めてなのか、とりあえず「ごめん」ばかりを繰り返してオロオロとしていた。そのままグズグズと泣き続ける私を放っておくわけにもいかず、結局彼はその日一日中、教室には戻らずに私の隣にいてくれたのだった。 私は私で、無様な醜態を晒したことによってヒットポイントが0になり、放課後のチャイムが鳴った時にイックンがおずおずと、「・・・・・・帰る?」と優しく尋ねてきたのに対して頷いて返すのが精一杯だった。 次の日は死ぬほど学校に行きたくなかった。前日の比じゃないくらいの吐き気を催した。果と父さんに心配をかけたくなくて無理やり学校に行ったが、途中でゴジラが来てくれないかとか担任がゴリラになって学校を半壊にしてくれないかとかいった現実逃避をしてしまうぐらい本当に嫌だった。 教室に入ると、途端に静かになった。他の教室は廊下まで響くぐらいの騒がしさだったのに対して、私たちの教室は、瞑想でもしていますかと思わず尋ねたくなるほど静かだった。気まずいまま私はすごすごと席に着き、クラスメート達もまるで入学したての一年生のようなぎこちなさで友人と語り合ったりし始めた。 ごめんなさい、皆さん。空気を重くして。 ぷち懺悔をしながらも、昨日はあれほど来てほしくなかったイックンに早く来てほしくて堪らなかった。これで今日イックンが休んだならばどうしてやろう、とりあえずチップスターを口に挟ませて近所の川に立たせ『河を汚すな!』と言わせてやる。100人に注意するまで帰らせてやらない。 「おはよう華」 イックンがやって来て、多少残念には思ったがきちんと休まずに来た彼に感謝した。依然周囲の視線は感じたがそれが二分されたのでいくらかマシになり、私は振り向いてイックンの挨拶に応えた。 「おはよう」 「・・・・・・」 「何?」 「・・・・・・いや」 イックンは昨日私を泣かせたことに激しい罪悪感を抱いていたらしいのだが、そのことは私にとってはむしろ忘れてほしいことだった。まあ、その時の私はイックンがそんなことを考えていたなんて知る由もなかったのだが。 「・・・華」 「何ですか?」 「・・・・・・いや」 彼は謝りたかったらしいのだが、当然私はエスパーでもなんでもないただの凡人であったので彼の言いたいことは何にも理解できずにひたすら首をひねっていた。 結局その「華」「なに」「なんでもない」をあと5回ほど繰り返すのだが、それが傍から見たら「ハニー」「何ダーリン」「呼んでみただけ☆」というただのアホ・・・もといバのつくカップルの台詞であることを、極限の精神状態だった私と謝ることで頭がいっぱいだったイックンは気付かなかった。 私とイックンが教室にいたら、空気清浄機を買っても清浄できないくらいの負の空気が教室に垂れ流しになってしまう。そのことに気づいたのは、2限目の現国の授業中だった。このままでは皆が病んで集団登校拒否が発生してしまう。その事実を知った(というかただの思い込み)私は、休み時間のチャイムが鳴ると同時にイックンの制服の首の部分を引っ掴んで屋上へと駆け上がった。 「イックン。これは非常にまずい」 「何が?」 「私たちは汚染物質だ」 私のこの言葉にイックンは非常に驚き、目を見開いた。 「・・・・・・華」 「このまま私たちが教室に居座ったらその他30人に甚大な被害が出るよ」 「・・・・・・」 「でも教室にいなきゃ授業を受けられない」 「・・・・・・そうだね」 「だから、せめて休み時間になったらこの屋上で過ごすことにしよう」 「・・・・・・うん」 「そうしよう」 「・・・うん、そうしよう」 力強く語る私の横で、イックンが先ほどの「汚染物質」発言を気にしていたことを全然気づかず、自分の提案したアイディアに酔いしれていた。もうダメダメな人たちである。 まあ、こうして、屋上は私たちの秘密基地になったのである。 その日、佐藤さんは学校に来なかった。 ***** さて時間を現在へ戻そう。これが私とクラスメートとの心の距離ができるまでの経緯だ。 そんなこんなで、私とイックンの仲は暗黙の了解的な感じになってしまった。 佐藤さんはしばらくフラフラしていたが、最近では私の後ろの席である山田というオスのことをじっと見つめている。惚れたのだろうか、切り替えが早いなぁ。と思ったのはつい昨日のことだ。 その佐藤さんの行動についての謎が解けたのは、玉子焼き争奪戦に五連敗した日の帰りのことだった。 top novel top back next |