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2 午後五時。放課後になり、クラスメート達が帰宅したり部活に行ったりしているその時間。 私と彼は教室に二人残って必死にプリントをやっていた。 居眠りペナルティ。先生が帰るまでに提出しなければ一週間もの間英語準備室に監禁されてしまう恐怖のプリントだ。先生はあまりに腹を立てていたらしく、赤チョークでプリントの右上に『山城!』と殴り書きしていた。 少しでも居眠りの罪を軽くするために彼を先生に売り渡し、結局あの後二人で先生にガッツリ怒られた。 そのときは必死だったのであまり深くは考えてなかったのだが、今、冷静になって思う。 バカだろ自分。 よりによって山岡君ですか。 リンチか?やはりリンチか?正門を抜けた所で待ち伏せされてあれですか。それともあれか?精神的攻撃か。次の日来たら私の席がなかったよ、みたいな。やってしまったよ山城華。こんなになるんだったらペナルティ二倍でも我慢するんだった。あ、でも二倍は無理かも。 そうやって馬鹿みたいに一人で悶々としていると、前から急にガタンと音がして、私の兎のような心臓とハムスターのような神経は一気に縮み上がった。 遂に殺られる。 本気で思った。 恐ろしくて顔も上げることができず、とりあえずプリントをやっている振りをした。震える指をなんとか動かし、紙に嘘を書きつらねる。 「・・・」 「・・・」 さっきの音と気配から察するに、彼は席を立ったはずだ。 そしてこのいたたまれなさから想像するに、私は今、彼に凝視されてる。 怖い。 正に蛇に睨まれた蛙。 時間が急にスピードを緩め、時計の秒針の音がリアルに耳に響く。外から聞こえてくる運動部の掛け声がたまらなく遠く感じた。 単刀直入に言うならば、ずばり気まずい。 何かリアクションしてくれ。暴力以外で。 その思いが通じたのかは知らないが、まあ、ただ単にタイミングが良かっただけなのだろうが。 「・・・や・・・ましろさん?」 何か詰まりぎみというか、疑問系で彼が私を呼んだ。 シャープペンの力の加減を間違え、芯がポキっと折れた。 「・・・」 指名されてしまった。もう逃げられない。 覚悟を決めろ山城華。 眼を閉じ、小さく深呼吸をする。 顔をゆっくりと上げる。 彼と目が合う。 彼は何かを考えるかのようにじっと私の顔を見つめ、私も同様に彼を見つめ返した。 「・・・なんですか?」 沈黙に耐えきれなくなった私が、震える声を叱咤して無理矢理その言葉を紡ぎ出す。 その言葉で彼はしばらく私を困ったように眺め始め、思案し、そして意を決したように、 「・・・飴持ってない?」 「は?」 外の野球部の掛け声がやけに大きく聞こえた。 back top novel top next |