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4 『タダとは言わないよね?』 欲に負けたその時点で勝ち目はなかったのだ。 私が彼の使いっぱ(死語)になってから既に一週間が経過した。その一週間ずーっと私は、カッコウの雛に餌を与えるモズのようにせっせとお菓子を運んでいる。モズよ、お前もこんな気持ちなのかい、と、ちょっと鳥に親近感をわかしたりした。あ、言ってて切なくなった。 一週間で消費した飴はなんと五袋。そしてその五袋分の飴が私と彼の胃袋に入るまでの間に、彼に関して判った事がいくつかある。 まず彼は甘露飴が好きではない。 甘露飴の登場は三日目、確か水曜日だ。いつもなら毎時間ごとに後ろに手を出してくるのに、その日は二回しか手を伸ばしてこなかったのだ。 嫌いなの?と尋ねると、「別に」と返事が返ってきたが、あれは絶対嫌いだ。だって昨日から口に口内炎ができているらしいが、それでも袋を半分以上消費したじゃないか。っつーかそこまで我慢して食べるような物なのか? あと、彼は飴を噛むのも嫌いだ。なめている途中で何が起ころうとも、たとえ佐藤さんからクッキーを貰っても、先生に当てられても、絶対に飴を噛み砕こうとはしなかった。おかげで佐藤さんは彼はクッキーが嫌いなのだと勘違いしたし、先生には頭を本の角でチョップされていた。いい感じにデコにクリーンヒットして悶絶していたっけ。人の席の前でクネクネするのは止めて欲しい。黒板が見えないのだ。だからこっちも必死にビョンビョン体を動かして授業を受けた。あれは恥ずかしかった。 しかも彼は授業の途中で喉に飴が入り込んでデッドオアアライブしてみたりもしたのだ。いい迷惑だ。授業を放棄して後ろからアンタの背中を必死にさすらなくてはならなくなったこっちの身になってくれ。慰謝料請求するぞ! しかもそれを佐藤さんグループに見られたし。なんか変な視線を向けられたし。なんか変な勘違いされてそう。どうしよう目をつけられたら。このクラスで生きていけなくなるじゃん。まさかコイツ、実は私の罪を知ってて報復しにかかってるのではないか?彼は私と違って友達を作ろうと思えば作れるタイプだ。クラスの誰かから『実はアレ、根暗の山城がお前のことチクったからなんだぜ』って言われてたり!?『俺の安眠を妨げた罪だバカヤロー』って考えてるのではないか?卑怯な。裏からネチネチと攻撃してくるなんて女子中学生か貴様! 「ねぇってば」 ゴイン 「ぎゃ!?」 一人でそんなことを考えて憤慨していると、いきなり頭を小突かれ、私は純粋に驚いた。数値で表すならば六十三ビックリといったところだろうか。しかも踏み潰される直前の蛙の悲鳴みたいな声を出してしまったじゃないか。恥ずかしい。 「ビックリしたぁ・・・」 おでこをさすりながらそう言うと、彼は思い切り顔をしかめた。 「何回も呼んだ」 マジすか。 「ゴメン、考え事してた」 素直に謝る。偉い自分。あまり心がこもってなかったけど。 「別にいいよ」 彼もさほど気にしてなかったらしい。右手をヒラヒラと振って、その話題を終了させた。 「どしたの、ところで?」 「ん?」 私の質問で彼は用事を思い出したらしい。 「そうだった」 なかなか反応してくれないから危うく忘れるところだったよ。と、さりげなく嫌味を言われたが大人になってスルーしてあげた。今度手を伸ばしてきたら甘露飴とイチゴの飴を入れ替えといてやるなんて腹黒いことは全く考えてませんでした。我が同胞のモズに誓おう。 「先生に伝言頼まれてたの忘れてた」 彼はかるく頬を掻きながら、何でもないことのように、 「一時になったら急いで職員室に来るようにって伝言もらった」 ・・・。 ・・・ん? 「・・・今何時?」 「一時半」 その瞬間、彼は私の罪を知っていると確信した。 back top novel top next |