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5 教訓。 人との約束を三十分も破ってはいけない。 ◇◆◇◆ 二時間目の休み時間だったそうだ。 山岡君が廊下をフラフラと歩いていると、急に背後から名前を呼ばれたらしい。 誰だと思って振り返るとそこにはいつかの笹井先生がいた。 『山岡、お前、昼休みの一時に俺の所に来てくれないか?』 と聞かれ、山岡君は正直に、一部脚色を加えながら、行きたいのは山々だがとても忙しい(昼寝とか昼寝とか昼寝とか)から無理だと答えた。 『そうか。・・・じゃあこの間俺の授業で寝たのは誰だったかな。ほら、あの、お前の後ろの席の―・・・』 山城華さんですか、と言うと『そいつだ!』と先生は言った。 『そいつに昼休みの一時に急いで職員室の俺の所に来るように伝えてくれ』 わかりました、と彼は素直に頷き、行けなくて申し訳ありませんともう一度丁寧に謝った。 『気にすんな』 先生は爽やかに笑い、 『すっごい面倒な仕事を手伝わせようと思ってたんだが・・・まあいい。お前はまた今度だな』 「・・・という訳なんだ」 そうですか。 「ごめんね、忘れてた」 他人事のように謝る山岡君に私は更にプチ殺意を湧かせた。ごめんで済んだら水戸黄門も遠山の金さんも存在意義を失くすよ、と、私は自分の罪を棚に上げて憤慨した。 「・・・」 無言のままガタンと席から立ち上がる私を見て、山岡君が「どこに行くの?」と尋ねてきた。 「職員室だけど・・・?」 「無理だよ」 その瞬間だった。 昼休み終了を知らせるチャイムが響き渡った。 ◇◆◇◆ 五限目が終わると同時に、私は教室を飛び出した。 ダッシュで階段を駆け降り、二階に設置されている職員室へと無我夢中で走る。例えるなら、そう、ドーベルマンに追いかけられている泥棒なみに必死に走った。すれ違う生徒が珍獣を見るような目で見てくるが、そんなものにかまっている暇はない。 四月に実施した体力測定のときぐらい、運動能力の限界まで自分を追い詰める。 山岡樹、覚えてろよ!いつか鼻にピーナッツ詰めてやる! 物騒な事を考えながら、私は職員室へと向かった。 ・・・で。 職員室で笹井先生は爽やかにキレていた。 つまりは私が行ったときには既に手遅れだったのだ。 「・・・山城」 足を組み、腕も組み、先生は戦闘体制に入っていた。 「はい」 「人との約束を破っちゃいかんだろ」 アンタが勝手に決めたんだろ。 「・・・すみません」 耐えろ自分。今度ヘマしたらペナルティ百枚は軽くいくぞ。ただでさえ英語はできないんだから、今は耐えるんだ。 「・・・なるべく簡単な仕事をやらせてやろうと思ったのになぁ」 大きな溜息。嫌味か。そうか嫌味か。嫌味より早く用件を言え。こっちは七時間目まで授業はパンパンに入ってんだ。次に授業が入ってなくて暇なお前とは違うんだよ。 「簡単な仕事はもう終わっちゃったんだよなぁ」 「・・・」 「山城ぉ」 「はい」 「お前、今日残れよ」 命令ですか。 「わかったか?」 「・・・先生」 「あ?」 やーさんか貴様。 その言葉を飲み込み、私は代わりに違う台詞を吐いた。 「山岡君も放課後は暇だと言ってました」 目には目を、歯には歯を 一蓮託生だ山岡君。 私はその場の勢いで再び山岡君を売った。 back top novel top next |