華と樹



9

「・・・」
独特の電子音が聞こえる。
私は持っていた携帯を耳から離した。
「どうだった?」
「・・・『破廉恥だ』って言った後、魚を焦がしたって言って電話切られた」
「・・・」
「・・・」

「あのクソガキー!!」
「落ち着いて山城さん」

落ち着いてられません!!我が弟ながら、あそこまで人の話を聞かないとは思いませんでした!アイツ絶対『ミカンとリンゴ、どっちがいい?』って質問に『すき焼き』って答えるタイプだ!!ああ恥ずかしい!

「・・・ねえねえ」
「はい?」
「手、痛い」
「あ、すみません」
熱くなりすぎて山岡君の手を思い切り握りしめてしまったよ。いや、暗闇ってすごいね。普段なら絶対にしない事を堂々とやってしまうのだから。
「・・・山城さんてさ」
あ、ちょっと調子に乗りすぎたか?怒られるか?
「はい?」
「面白いよね」
「は?」
面白い!?
「・・・顔がですか?」
「こんな暗闇でどうして人の顔をけなさなくちゃいけないんですか?」
そりゃそうだ。
「性格ですよ」
性格!?
「生まれてきて早十七年経ちますが、そんなこといわれたのは初めてですね」
「あ、もう誕生日来たんだ」
「あ、うん四月生まれ」
「何日?」
「十二。シーツの日」
「・・・ほら」
「ん?」
「変なこと言ったりしてる」
・・・今初めて知りました。この語呂合わせは変だったようです。
「・・・そういう山岡は誕生日いつなの?」
「俺?十二月の十日」
「あ、私より年下なんだ」
私のその一言に、山岡君は少しむっとしたように抗議した。
「たかが八ヶ月じゃん」
「八ヶ月も違えば充分ですよ」
「・・・」
あ、黙った。怒ったか?

「・・・じゃあ今日から華姉さんって呼ぶ」

何でだよ。

「・・・いや、いいです。遠慮しておきます」
「遠慮しなくていいよ華姉さん」
「いやいや遠慮しますよ樹さん」
何ですかこの押し問答?山岡君の方が変な事を言ってる率高いぞ。
「そ、そんなだったら普通に呼び捨てでいいよ!」
クラスで「華姉さん」なんか言われてるの聞いてみろ。しかも言ってるのはあの山岡樹だぞ。佐藤グループにでも知られたらリンチだぞリンチ。説明したってたぶん判ってもらえてない。どうしよう、噂にオヒレがくっついて最終的に私がレディースの頭領ってことになるんだ。今まで真面目に生きてきたのに。なんか自分って幸薄。

「華って呼んでいいの?」
華は遠慮するのに華姉さんはいいのか。どうやら彼の中では呼び捨ては特殊階級らしい。
「いーよいーよ。じゃんじゃん呼んで」
「じゃあ俺も樹でいいよ」

遠慮します。

撲殺される。(佐藤グループに)

「・・・あー・・・」
どうする山城華?ここで拒否は許されないぞ。拒否したら絶対に「姉さん称号」の刑だぞ。レディースにはされたくないだろ?されたくないね。だが山岡君を呼び捨てにしてみろ。たぶんクラスで初の快挙だぞ。リンチ確定だぞ。
考えろ。考えるんだ華!大丈夫!お前ならできる!二年前の職員室事件を思い出せ!自信持て!

「・・・じゃあさ、いっくんて呼んでいい?」

・・・言ってることが「華姉さん」とあまり大差ないような気がします。ダメだろぴょん。

半ばレディース頭領を覚悟した瞬間だった。

「いいよ」
「へ?」
私は見えない暗闇に目を向けた。暗闇に目はだいぶ慣れたのか、はっきりとではないが物が見えるようにはなっている。心なしか山岡君の声は嬉しそうだった気がした。
「山岡とか山城とか、堅苦しいじゃん」
山岡君はやはり嬉しそうに笑っていて、私の方を向いて、


こっちの方が友達っぽいじゃん


山岡君―いっくんの笑顔と、その爽やかさ百二十%の一言で、なんか急に恥ずかしくなった。
「華ってさ」
「・・・」
「いい名前だよね」
「・・・どうも」
「何照れてんの?」

アンタの笑顔に照れたんだよ。
悔しいからその言葉は心の中にしまっておいた。


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