眩暈の先

 

 

 

 

  イゼルローンには空室が数多くある。

  執務室から程よく離れた真っ暗な部屋が軽い音を立て開かれ、すぐに閉じられた。

  「…ん…ぅ…」

  視界が真っ暗に閉ざされると同時に、唇も塞がれる。強い力で背中を壁に押し付けられ、布越しにも判る猛る欲望も押し付けられる。

  それだけで、ヤンは下肢から力が抜け、アッテンボローの支えがなくてはまともに立っていられなくなっていた。

  「…ヤン…先輩…」

  口付けの合間に漏れる吐息に混じりの熱い囁き。それは湿った水音と共にヤンを痺れさせた。ズルズルと壁を滑るヤンの躰に任せ、アッ

  テンボローは繋げた唇を解かずにヤンに覆い被さった。そしてアッテンボローが軍服のジッパーを下げるとヤンも同じようにアッテン

  ボローの軍服を脱がしていく。

  積極的なヤンにアッテンボローは逸り、半ば力任せにヤンのパイロットシャツの釦を外していく。

  「…ふ…っ…んぁ…」

  胸を愛撫するように大きな掌が肌を滑り、ヤンは身を捩った。それはアッテンボローの掌から逃げることではなく、服を脱がせ易くする

  為だった。

  床が硬くて背中が痛み、ヤンは暗い部屋に視線を彷徨わせる。ベッドまでの距離は近くて遠かった。二人もどかしく、その場で腕を脚を

  躰を、吐息までも絡ませる。

  下着とスラックスを膝まで下げ、性急な男の掌は僅かな愛撫に反応しているヤンを更に追い上げた。

  「…ぁっ…あ、んっ!」

  アッテンボローの唾液で湿った舌はヤンの首筋から鎖骨までを何度も往復した。暗い部屋にその軌跡が仄かに光っている。象牙色の滑ら

  かな肌の光沢も合わさり、その光にアッテンボローは咽頭を鳴らした。

  …もっと―――

  この躰、魂まで光らせたい。

  「あぁ…っ!」

  胸の突起に吸い付き、甘く噛めば、それは淡く色付いた。反対のそれも指先で捏ねると、ぷくっと凝り固まり、乾いているのが可哀想で

  アッテンボローは舌を伸ばす。

  ぞくぞく…と快楽に背筋が震え、戦慄く唇からは絶え間なくか細い嬌声が漏れる。

  てらてら光る銀の軌跡は胸から腹部へ。道筋には所々、情欲の淡い花が咲いている。そして遂にヤンへと辿り着いた。

  「…もう…こんな…」

  そこは、トロトロと溢れる快楽の蜜で鵐に濡れて、アッテンボローの掌をも湿らせていた。

  「…ゃ…ぁ…」

  ヤンは両腕で顔を覆っているが、絡み付く視線を感じていた。今まで体感したことがないくらい、全身の神経という神経が過敏になって

  いるのが自分でも判る。その羞恥が、より感覚を敏感にさせた。

  「あ……アッテン…ッ!」

  喘ぐのも肺が軋む性急さにヤンは、もう少しゆっくりと言葉を続けようとしたが、襲い来る快楽に息を飲み、仰け反った。快楽の悲鳴は

  音にならず、室内の空気を震わせる。ねったり…と這う舌の表面まで感じ、駆け巡る快楽に神経を灼かれ、ヤンの躰は何度も小さく跳ね

  た。堪え切れずヤンは甲高く熟れた声を上げるが、そんなことをしても渦巻く熱は少しも散らすことができない。

  何故こんなにも感じるのか、考えられないくらい狂っていく。浅ましい、と思う余裕もない。

  部屋に響くヤンの声にアッテンボローは聴覚から侵されていった。舌を這わせるだけでは物足りなく、口腔に含む。ヤンは可愛らしく、

  苦はない。そしてヤンのスラックスを膝で押えると、片手でヤンの太腿と持ち上げる。自然と片脚が引き抜かれた。ブーツは脱がせられ

  なかったが、どうでもいいことだ。浮いた双丘に濡れた掌を滑らせ、指先で蕾に触れた。そこは快楽にヒクつき、強請られている気がし

  た。

  「ン―――ッ!」

  ゆっくりと埋め込まれる指。人差し指と判る。それは根元まで埋められると、内壁を弄り出した。

  「あぁ…ッ」

  内部の指が動く度に掲げられた爪先が幾度となく痙攣を繰り返し、そしてピンと強張ると同時に声にならない悲鳴。

  アッテンボローは吐き出された精を嚥下し、一旦上半身を起こした。部屋は暗く、ヤンの顔はよく見えないが、恍惚と濡れた黒い瞳はよ

  く見える。

  「…先輩…」

  薄く開いた唇は快楽の余韻を繰り返している。啄むような口付けを繰り返し、それは次第に深い口付けとなる。そして内部を開く指を増

  やし、喘ぎと舌を貪る。ヤンの腕は無意識にアッテンボローの背に回り、彼のジャケットを握り締めていた。

  密着する躰に僅かな隙間を作り、アッテンボローは痛いほど昂った自身を片手で取り出した。指を引き抜き、ヤンの両脚を抱える。

  「……アッテンボロー…」

  掠れた声はアッテンボローの情欲を煽る媚薬の音だ。

  一気に貫かれ、苦痛と快楽にヤンは仰け反った。熱い楔は肺を萎縮させ、ヒュッと咽頭を震わせた。

  「…すみません…っ!」

  だけど、抑えられない。ヤンの媚態に充てられ、限界だったのだ。

  「あっああ―――っ!!」

  箍が外れたかのように激しい律動。乱暴とも取れる行為だったが、ヤンは何故がそれに胸の奥まで揺さぶられた。躰の内側から沸き上が

  る快楽に嬌声を漏らすことしかできない。繋がったそこから漏れる卑猥な水音と乱れた吐息が暗い部屋に満ちている。熱に浮かされた思

  考の中で遠く認識した。時折、雫が落された。アッテンボローの汗だ。

  「―――くっ!」

  噛み締めた歯から漏れた苦しげな声。アッテンボローは力の限り最奥の奥まで穿ち、そして解放した。

  「…………ぁ」

  内部はアッテンボローの精で濡れ、そして表面は汗で濡れた。それはヤンを言い様のない気分にさせた。

  ヤンはぼんやりと暗い部屋の天井を見つめ、自分の胸に額を着き、息を整える灰褐色の髪に掌を差し込んだ。

 

  「……アッテンボロー………お前が好きだよ……」

 

  それは夢に微睡んでいるかのような、どこか遠くへ囁く声だった。

  「―――ッ!!」

  感無量、とはこのことだろう。歓びは言葉を奪い、ただ強く抱き締めることしか出来ない。

  息苦しい抱擁にヤンの呼吸は少し乱れた。それは安堵の溜息のようだ。

  …あぁ――

  温かい。

  快楽の余韻と混ざり、ヤンの意識はうつらうつらしていく。

  「…まだ、寝かせませんよ」

  「……?」

  なにか聞こえ、ヤンは閉じようとしていた瞼を上げた。霞んだ視界の中で、灰褐色の瞳が歓びと情欲に熱い灯火を宿していた。それはアッ

  テンボローの愛嬌のある顔を精悍な雄に変貌させる。

  「…ん…っ」

  ズル…と陰茎を引き抜かれると共に内部の精も零れた。その感覚にヤンの意識は覚醒し、躰を震わせた。

  アッテンボローはヤンを抱き上げ、ベッドに近付く。センサーが作動しフットライトが灯され、暗い部屋はほんのり明るくなった。

  ヤンをそっとベッドに降ろし、アッテンボローは無言で服を脱いでいく。

  「……………」

  曝される鍛えた裸体をヤンはぼんやりと眺めた。こんな風にアッテンボローの肉体を見るのは久しぶりのことだった。士官学校の時代か

  ら知っていたが、彼の肉体はいつの間にか『男』になっていた。幾度となく躰を重ねてきたのに、何故気付かなかったのだろう。

  …あぁ、そうか――

  見たくなかったのだ。彼の想いも、自分の想いも。

  「…ヤン先輩…」

  触れ合う素肌の温かさに、どちらからも吐息が漏れた。

  「…温かいっすね」

  「そうだね…」

  静かな笑みを浮かべ、静かに重なる唇。

  …あぁ―――

  本当に温かい。

  その温もりにクラクラと眩暈を覚える。

  …まるで―――

  夢物語のようで、錯覚してしまいそうだ。

 

 

  錯覚ではないと、解け合い重なる鼓動が告げ、刻まれていく。

 

 

 

  気付くと、眩暈はどこか遠くへ―――

 

 

 

終      

 

 

 

 

 

2010/03/28 

 

 

 

『アッテンを格好良く!』が自分的目標でした。玉砕!!