その日、フェザーン帝都の皇居は新たな住人を迎えた。

  ヤン・ウェンリーだった。



 

 

 starlet (1)


 

 

  ヤンの私室と宛てがわれた部屋で二人だけの晩餐が行われた。

  晩餐というには遅い時間で、ラインハルトは上着だけ脱いでいた。

  寛いで居る様に見えるが会話は殆どない。

  会話がない事にヤンは緊張していた。咽頭を通す食事が無味に感じていた。

  ラインハルトも気が張り詰めていた。何度か食事の手を止め、淡々と食事を進めるヤンを窺っては、声を掛

  けるのを躊躇っていた。異様に喉が乾き、ワインで無理矢理潤す。

  「…ウェンリー」

  飲み干したグラスを置き、ラインハルトはやっと言いたくて言えなかったヤンの名前を呼んだ。

  「あっ!」

  急に呼ばれ、ヤンの手からナイフとフォークが落ちた。落下先は毛の長い絨毯で不快な金属音はしない。

  「大丈夫か?」

  「あ、は…ぁ」

  なんとか返事は返せたが、緊張と羞恥でヤンは上手く自分の体を動かせなかった。

  ラインハルトは立ち上がり、テーブルを回った。

  「着替えた方がいいな」

  ヤンのアイボリーのズボンは汚れていた。

  「…すみません」

  「?なんで謝るんだ?」

  「あ、と、食事の途中で…」

  「そんな事気にするな」

  ラインハルトは小さく笑い、ヤンの手を引いた。

  優しく引かれるまま立ち上がると、意外にラインハルトが近く、思わずヤンは体を引いた。椅子に膝裏が当

  たり、体勢が崩れた。

  「ぁ―――ッ!?」

  ヤンが驚いたのはラインハルトに強く抱き竦められたからだった。

  「カ、カイザー」

  「ラインハルト」

  肩口から訂正する声が聞こえ、ヤンは戸惑う。

  「……呼んで、くれないのか?」

  促す声は皇帝とは思えない程弱いものだった。

  何度言っても、いつまでたっても名前で呼ばれない。実際に逢う事は叶わなかったが何度もTVフォンで話

  し、想いを告げ続けた。半年以上の時間を掛け、ようやくエル・ファシルからここフェザーンに居を移す事

  を決心させる事が出来た。受け入れられたと喜んだのは束の間だった。

  ラインハルトはヤンの移住を個人的なものと考えていたが、宙港で待ち構えていたのはオーベルシュタイン

  だった。彼は丁寧にヤンを軍務省に連行した。政務後にホテルで落ち合う予定でいたラインハルトは一秒で

  も早く終わらせようと躍起になっていた頃だった。

  終わるのを見計らった様にオーベルシュタインは執務室の扉を叩いた。火急でないなら明日にしろと云うラ

  インハルトにオーベルシュタインは数枚の書類を呈示した。それはヤン・ウェンリーの移住に関するものだっ

  た。発言権は元より、市民権すらなく、指定の皇居の一角より出歩く事を禁じられた上、外部との接触はか

  なり狭い範囲で制限されている書類にはヤン・ウェンリーの署名が記されていた。

  アイスブルーとドライアイスの眼が交差する。流石に怒鳴る事はなかったが、問い質すラインハルトの声は

  怒りに震えていた。オーベルシュタインは臆する事なく『政局の地盤が固まっていない以上、適切な処置と

  思います』と答えた。そしてヤン自身も納得していると告げた。

  自嘲が漏れる。ヤンに比べれば自分の思慮が浅かった。その負い目がラインハルトを弱くしていた。腕の中

  の温もりが後悔しているのではないかと不安が付き纏う。

  「…呼んでは貰えんな…」

  人権と自由を尊重している彼から、それを奪ったのは紛れもなく自分の我が儘の結果だった。

  ラインハルトの腕から力が抜ける。

  「…ぁ…ラ、ラインハルト…」

  その腕が名残惜しく、ヤンは小さく呟いた。ただ恥ずかしいだけなのだ。もっと強く抱いて欲しい。でもま

  だ馴れず、名前を呼ぶだけでも羞恥が勝るのだ。そんな自分自身にヤンは戸惑っていた。

  「…もう一度、呼んでくれ…」

  泣いているかの様に、ラインハルトの声は震えていた。

  「…ラインハルト」

  「―――ッ!!」

  吐息に紛れた声に泣きたくなる程の愛しさが溢れ返る。同時に、自分の我が儘を赦されたような気がし、安

  堵に目眩さえした。

  肺が潰れるほど力強い抱擁に、そのまま自分の戸惑いを潰して欲しい。ヤンの腕がラインハルトの背中に回

  された。

  「…だめだ」

  苦し気に呟き、ラインハルトは少しヤンの体を離した。

  「今すぐお前が欲しい」

  常に冷静な蒼氷色の瞳はその奥で激しい焔を灯している。その焔に、胸がどうしようもない程疼く。体の奥

  から痺れていく。まともに立っていられなくなり、ヤンはラインハルトに縋り付いた。

  「…ウェンリー…」

  隠し切れない劣情を滲ませる声にヤンは息を飲んだ。そして言葉に、声に灼かれ、熱に浮かされたように呼

  吸が乱れていく。

  「…ラ…ライン…ハルト…」

  苦しい。何故こんなにも苦しいのか。

  困惑した声は懇願で、ラインハルトと同じ様に劣情が滲んでいる。

  「ッ!」

  初めて耳にする声色はラインハルトを駆り立てた。

  「んっ」

  唇を塞がれ、口付けを理解する前にラインハルトの舌が口腔を、ヤンの思考を奪う。

  「ぁ…ふ…ぅ…ん…」

  鼻梁から漏れる甘やかな吐息。ヤンの膝が折れ、支えるラインハルトの膝も折れた。何度も角度を変えなが

  ら、ラインハルトはそっと絨毯にヤンを横たえさせた。

  流れ込んで来る唾液はヤンの口腔を満たし、溢れている。満足に呼吸も出来ない激しい口付けはヤンの頭に

  水音を響かせ、自分が絨毯に横たわっている事実を認識していない。ないもかもが宙に浮いていた。胸に秘

  め続けた焦がれる者。遠く離れていさえすれば良識や理性が働くが、じかに見、声を聞き、触れ、求められ

  れば、なにも見えなくなる。彼以外のなにも聞こえなくなる。

  舌が絡み合い、唾液が混じり合う水音はヤンの戸惑いや羞恥を灼いていく。茫洋とした黒い瞳は虚ろに広が

  り、陶酔していた。自分がなにをしているのか、ヤンは分かっていない。ラインハルトの背中に回る指は柔

  らかい黄金の髪を愛おしく絡め、腰を浮かして下肢を擦り付けていた。

  早く、いますぐにでも――

  その誘惑は長い時間を押し止めていた若い雄の箍を呆気ない程簡単に外れした。

  「ぁっ…は…」

  痛みを覚える程強く舌を吸われ、口付けを解かれる。名残惜しさを表すヤンの舌は、もっと、と強請る様に

  力なく伸びていたがラインハルトはヤンのシャツに手を掛けボタンを外す手間が惜しいと白いシャツを引き

  裂いていた。

  引き千切られた小さなそれが2つ絨毯に転がる。

  「…ウェンリー…ッ…ウェンリー……好きだ…お前が好きだ…」

  露になった滑らかな肌に無我夢中で口付けの痕を残しながら、譫言の様に呟く。

  それしか存在しないと言う様に、何度も繰り返された。

  「ああ…っ…ぁ…ん…あ…ふ…っ…!」

  ヤンは肌を鋭く刺す痕に胸を捧げる様に身じろいだ。乱暴とも取れるラインハルトの行為ですら、快楽を感

  じる。シャツから見えてしまう、など考える事なく痛い程の口付けに溶かされていく。

  漏れる淫蕩な吐息にラインハルトの思考も瓦解していた。これほど体の奥から熱を帯びた事はない。闘いの

  昂揚とは別の熱を性に不慣れなラインハルトが御することが出来ず、ただその肌を貪っていく。体の奥から

  の沸く熱にヤンの肌はほんのり湿り、紅潮した色にずっと抑えていた欲が堰を切る。鬱積した欲は艶やかに

  刻まれ、どれ程の時間を耐えたのか、その肌に教えていた。

  焦るあまりもたつく自分の手際にラインハルトは苦々しく舌打ちし、毟る様にヤンの下肢を剥き出しにして

  いく手付きは荒い。邪魔な靴を投げ、片足を引き抜く。

  「はぁ…っ」

  空気に晒され、下着からの解放もありヤンは溜息を付いた。待ち望んでいたかの様に先端からは溢れる先走

  りの液でそれは濡れている。

  快楽に弛緩したヤンの脚を広げさせ、餓えた獣の様にラインハルトは下肢を弄った。

  「あっ…あぁ…ライ…ハルト…ッッ!」

  本能のままに求める指は乾いたまま蕾に入り込もうとしていた。ヤンの上擦った声はそれを諌めるものでな

  く、その奥へと期待を含んでいる。

  「あ―――ッッ!!」

  甲高い悲鳴が響く。痛みからの悲鳴とは思えない艶めいた声にラインハルトは指を根元まで埋めた。漏れる

  悲鳴。蠢く内部。絡み付く熱。組み敷いた体の震える様。恍惚と熱に潤む黒い瞳。総てがラインハルトを煽

  り、下肢に膨大な熱が溜まる。

  「――くっ!!」

  昂る下肢の鈍痛に呻き、ラインハルトは指を引き抜いた。今すぐにヤンと繋がる事。それだけしか考えられ

  ない。それ以外の、もっと慣らすことやヤンの体を気遣うことなど、考える余裕が持てずにおいた。冷たい

  蒼氷色は自身の渦巻く熱に蒼く燃え、自制のない獣の眼でヤンを捕らえている。

  ラインハルトはすぐにでも限界を迎えそうな程張り詰めた陰茎を蕾に押し宛て、先端から溢れる先走りの液

  を塗り込んだ。先端に感じる蕾の収縮に目眩を覚える程の快楽を感じる。全身に包まれたら、気が触れる程

  の快楽を得るだろう。

  「…ようやく…」

  触れた蕾から伝わる熱に背筋が震える。


 

  どれ程望み、どれだけ願い、どんなに待った事か。


 

  指とは比べ物にならない質量が蕾を裂く。

  「ああぁ―――ぁああッッ!!」

  「くッ!」

  蕾は紅く裂けた。慣らされていない内部は硬く閉じたままで、痛みに更に萎縮した。強い締め付けに陰茎半

  ばでラインハルトは果てた。

 「…はっ…はっ…は…!」

  ヤンの体は強張り、おかしな呼吸を繰り返した。焦点を失い見開いたままの瞳がその衝撃の強さを物語って

  いる。

  それでも、ラインハルトの理性は戻らなかった。

  果てた精と裂けた蕾は白と紅の潤滑油となり、ラインハルトは更に奥に進んだ。

  「あっくぅ…ッ!!ああッッ!!」

  強引に捩じ込まれ、ヤンの背がその強さを表す様に大きく撓った。ラインハルトの背に回った手はシャツを

  きつく握り、離す事はない。

  「ライッハルトッ!!」

  痛くてもいいのだ。快楽も痛みも彼なら、なんでもいい。求愛を受けると決めるまでの葛藤はヤンを憂鬱に

  させていた。自分の立場やラインハルトの立場、年齢差や性別、その他取り巻く情勢総て。それを考えてし

  まう自分自身に悩んだ。出来る事ならバーミリオンのあの時にこの腕に堕ちたかった。だから、なんでもい

  いのだ。『自由』や『人権』も要らない。彼が触れ、その想いを感じることが、唯一。




  箍を外した二人は互いを貪る。

  それがどれだけ獣じみている事か、考える事もなく。

  貪る事が、そうされる事が、彼らを満たしていく。




 

  例えようもない程の幸福に酔い痴れる――




 


                                             続く。

 

 

 

 2009/05/06     

 

 

 

えー、これでも甘々です。そう見えなくてもメンタル的に甘々です(大汗)

最終的には甘々Hで終わる予定です(滝汗)