ようこそ イゼルローンへ!(お帰りはあちらです)(ロイエンタール編?)


 

 イゼルローンの司令室でヤンは頭を抱えていた。

 「…酒瓶10本。椅子3脚。窓ガラス。請求賠償金額20dn」

 「……」

 「彼女取られた。欲求不満です。責任とって自分に襲われて下さい、提督。……って死ね(ボソ)」

 デスクを挟んで淡々と書類を読み上げる被保護者であり従卒のユリアンがドス黒い。どこで教育を間違えた

 のか、ヤンは耳を塞ぎたくなった。

 「……ユリアン…」

 「スパルタニアンのシュミレーション設定を勝手に変更された。ムカついたから即時乱闘。備品破損。弁償

 する気はありません。…しろよ(ボソ)」

 「……ユリアン、もう…」

 「クロスワード勝手に解かれた。……どうでもいいよ(ボソ)」

 「…ちょっと、ユリアン…」

 「目付きが悪い。態度がデカイ。喧嘩も女も手が早い。ぶっちゃけ気に入らない。…同意(ボソ)」

 「……もう、いいから…」

 「よくないですよっ!!」

 ユリアンは手にした書類をヤンの机に叩き付けた。大きな音にヤンは肩を竦めた。

 「提督!判ってます?!この二日だけでこんなに苦情が来てるんですよッ!!」

 厚さ3センチ程の書類は全て一人の男に対するものだった。

 「…そりゃ私だって、なんとかできるならなんとかしたいよ…」

 苦情は自分に対してではないが、何故か自分が怒られている気分でヤンは前髪を掻き毟った。

 二日前から、ここイゼルローンに頭がイタイ珍客がいた。

 盛大な溜息を吐き、肩を落としたヤンはデスクに片頬を乗せた。

 …早く帰ってくれないかな。

 熨斗着けて突っ返したい。でも、受取手がいないのだ。

 疲れたヤンの様子にユリアンちょっと反省。漸くドス黒さが引っ込む。しかし、それは一瞬の事で、司令室

 のドアが開き入室者を視認するとまた溢れ出た。

 入室者は子供のドス黒オーラを歯牙にもかけず、透明感のある美しい声と発音でヤンに声を掛けた。

 「途方に暮れる俺に出て行けとはお前に温情はないのか?」

 「………」×2

 オスカー・フォン・ロイエンタールはとても途方にくれているとは見えない、優雅な所作で白い長袖シャツ

 の袖のボタンを留めながらヤンに近付いた。両眼は青で前髪は降ろしてある。

 ご都合主義なので、このロイエンタールは彼がイゼルローン勤務時の二十歳そこそこの過去の人物である。

 なので、現在の帝国にはちゃんと現在時のロイエンタールが存在している。過去のこの人を突っ返す場所が

 ないから困る。正直、迷惑以外のなにものでもない。

 …判っているなら、どっか行ってくれないかな。

 軍事的に利用も出来ないし、本当に無駄メシ食いだ。しかも若さと上官のいない開放感で本人やりたい放題

 で、完全にこの状況を楽しんでいる。

 ヤンは見なかったフリでデスクに突っ伏し、更に腕で現実拒否の亀の子。なんか火花散ってる音が聞こえる

 が、聞きたくない。

 火花の元はユリアンとロイエンタールだった。

 「………」

 …自分の問題なんだから帝国でも何でもいいからとっとと出てけよっ!

 「………」

 …なんでお前はいつもいつもヤン・ウェンリーの傍に引っ付いていやがるんだ。お前が出てけ。

 無言の攻め合いは空恐ろしい。

 …あーもーイヤだぁぁああ!!!

 ヤンの叫びは虚しくも宇宙のどこにも響かない。


 

 思い起こせば2日前―――

 ヤンがシャワーを浴びた後、本を片手に寝室に入ったら頭のイタイ珍客は何故か寝室を片付けていた。

 もしかしたら多少なりとも混乱していたのかもしれないが、部屋が汚い不愉快だ!と怒鳴られては甚だ疑わ

 しい。

 珍客は帝国軍の制服だし、資料の敵方大将のロイエンタールにそっくりだけど年が若そうだし、でも金銀妖

 瞳のそっくりさんって可能性はなくはないけど、極めて低そうだし、本人だったら今頃オーディンにいる筈

 だし…と流石のヤンでも混乱。でもって、片付いたベッドで先ずは自己紹介で、ロイエンタールは時間のズ

 レをあっさり認めた。ヤンは混乱した自分が馬鹿らしくなり、面倒でもあるので帝国に送ると提案したが、

 本人拒否。理由はイゼルローンで起きた事なので帝国に行っても解決にならないだろうと云う事と、現在時

 の自分に会ったら間違いなく殺される、とのことだった。仮にも自分自身であるのでちゃんとDNA鑑定な

 どして説明すれば殺される事はないとヤンは言ったが、俺なら問答無用で間違いなく即殺すと自信満々に断

 言されてはそれ以上何も云えない。

 そこに紅茶を持ったユリアン登場。自分とヤン以外いないと思ったフラットで更にヤンの寝室に帝国軍人が

 いれば暗殺と浮かぶのは必然で、その場で一悶着。それ以来犬猿の仲。

 協議の結果、部屋に監禁は無理とヤンは判断し、ロイエンタールはヤンの幼馴染み設定とすることになった。

 金銀妖瞳は片目に蒼のカラーコンタクトで誤摩化しオールバックの髪は前髪を降ろして、なんちゃって変装。

 次の日、2?3日で帰ると思うから大目に見て欲しいとヤンはロイエンタールを幕僚に紹介した。取り敢え

 ず身近に置いておく為の処置だ。

 固定概念と先入観の威力は凄まじく、誰もオスカー・フォン・ロイエンタールと気付かなかった。

 その際、軍人ではないので軍関係の話は一切しない様にと幕僚に念を押した。

 この時、ユリアンは密かにムライに多大な期待をしていた。なんといっても『歩く規律』。軍人でないなら

 軍事領域への立ち入りを一刀両断すると思ったのだ。そしたら監禁する口実ができると思った。だが、困り

 顔で上目遣いの頼りない司令官の『ムライ少将、ダメかい?』とお願いされては、然しものムライも折れざ

 る得なかった。責めどころが的確なヤンに、流石です…とユリアンは涙をのんだ。

 

 そんなこんなで『司令官の幼馴染み』という、はっちゃけロイエンタールの出来上がり。


 ヤンは重い頭を上げ、ロイエンタールに視線を向けた。

 「あのね、もうちょっと大人しくしてくれないと困るよ」

 大して困っているとは見えない様子にロイエンタールは微苦笑し、ヤンの背中に覆い被さり耳元で囁いた。

 「…大人しくして欲しければお前が俺の相手をすればいい」

 こんなに思考回路の緩い人間を見たことがないロイエンタールはヤンに興味があった。はっちゃけ具合の主

 成分は、ヤンに気に掛けてもらいたいという幼児並みの好意の示し方だった。こんな初恋限定の現象は彼自

 身本当にお初で、自分の気持ちに気付いていない薄らトンカチである。しかし要塞防御指揮官と分艦隊司令

 官で慣れているユリアンにはお見通しであった。

 女性を虜にする甘く、どこか醒めた声はヤンに通じない。苦情が山とあり、機嫌が良くないのだ。

 「申し訳ないが私はこれでも忙しい」

 「そうです、提督はお忙しいんです!」

 強引に割って入ったユリアンは、お前の尻拭いだ位のトゲがある。

 ヤンと引き離され、ロイエンタールはつまらなさそうに鼻をならした。

 「仕方ない、女でも引っ掛けるか」

 漁色家の噂は同盟にも伝わっている。あからさまな物言いにユリアンはいい加減にしろと怒鳴りかけたが、

 先にヤンが溜息を吐いて立ち上がった。

 「判ったよ。私のフラットに行こう」

 「提督!?」

 「ユリアン、2時間は戻らないとみんなに伝えておいてくれ」

 まだ少年の肩を言い聞かせる様に叩き、ヤンは出口に向かった。後に続くロイエンタールは勝ち誇った笑み

 を浮かべ、肩を震わせながら睨み付けてくるユリアンを一瞥した。これ見よがしに肩でも抱いてやろうかと

 幼稚な悪戯心が浮かんだが、ブラスターはご免なので思い留まった。


 しかしロイエンタールの上機嫌は長くは続かない。

 「……で?」

 「うん、片付け」

 「………………この部屋をか?」

 「うん」

 ロイエンタールはだだっ広いヤンのフラットのホールを見渡した。本の山だ。本しかない。いや、ソファが

 あるが陣取られた。

 ヤンはうつ伏せに寝っころがり、近くの本を開いた。

 「…………おい」

 「ん———?」

 ヤンは文字を追う事に集中し、生返事だった。漁色家と同じ部屋にいるのに無防備だ。

 「おい!」

 苛立った声にもヤンは本から視線を外さない。

 「ああ、大事な本だから扱いは気を付けてくれ」

 もう一度ロイエンタールは部屋を見渡した。適当に積み上げられた本の山はどう見ても『大事』にしている

 様子はない。

 「大事にしてるとは思えんな」

 「あ、そうだ」

 思い出した様な声を出したが、ヤンは相変わらず本に夢中だった。

 「あんまり健全な青少年をからかわない様にね」

 お鉢がこっちに回ってくるから。

 亜麻色が頭を掠め、ロイエンタールは忌々しげに整った眉を顰めた。が、取り敢えず会話する好機と取った。

 片付けをするより断然有意義だ。

 「健全な青少年ならば女の事は早くに知っておいた方が良いだろう」

 ロイエンタールはヤンの腰辺りの狭いスペースに無理矢理腰を落とした。背凭れに押しやられたが、ヤンは

 文句もなく読書を続けた。

 「人にはその人その人の時期があるからねぇ」

 「どういう意味だ?」

 意識が本に向かっているので、のんびりした口調だ。こんな風に袖にされた事がないロイエンタールは気分

 が悪い。流石に本を無理矢理取り上げる様な子供じみた行為は矜持が許さなかった。

 「んー?ユリアンにはまだ時期じゃないってことだよ。あ、作者別に積んでくれればいいから」

 ヤンはページを捲った。

 完全に自分は意識の外だ。面白くない。ロイエンタールは上半身を倒し、ヤンの背中に伸し掛かる様体を重

 ねた。遊んでくれない主人に対し不貞腐れた大型の猫科の様だ。

 「なにを読んでいる?」

 「重いよ」

 ヤンの肩に顎を乗せる。鼻腔を掠める艶やかな黒髪から嗅いだ事のないとてもいい匂いがした。

 ロイエンタールは本を一瞥しただけで、癖のある柔らかい漆黒の髪に興味を持った。いままで相手にしてき

 た女性は大概髪が長く、正直鬱陶しかった。短く緩い癖のある髪は指先に搦めるとすぐに逃げ出し、後を追

 うのが楽しい。攫み所のないヤン・ウェンリーそのもののようだ。

 「…お前、何故俺を殺さない?」

 今の自分を殺せば、現在時の自分も死ぬ。自分の階級がなにかわからないが、低くはないだろう。ロイエン

 タールは自分の能力を過大評価はしていないが、過小評価もしていない。敵将一人を殺す事は同盟に取って

 有益な筈だ。

 「………」

 ヤンの返事はなく、別段明確な返答が欲しいわけではないロイエンタールはそのまま髪を弄くり続けた。

 その内、小さな寝息が漏れ出しロイエンタールは知らずに口元に笑みを浮かべていた。

 なんとも不思議な時間だ。

 …心安い、とはこのことか?

 安穏を知らない男は当て嵌める文字が見つけられず、整った眉が苦渋に歪んだ。


 

続く…     



                                                                   09/04/12    

 

あれ?ギャグなのに……。

タイトル変えた方がいいかな?ちょっと妄想がえろっちぃ方向にいってます。うーん、どうしよう…。