ようこそ イゼルローンへ!(お帰りはあちらです)(ロイエンタール編?)

 

 

 

 

 ユリアンは走っている。フラットに引き蘢った提督を呼びにいく為だけだ。緊急事態ではない。

 だか鬼の形相で走っていた。

 「提督!お時間です!!」

 (嘘です。まだ40分以上あります)

 ユリアンはものすっっごく嫌だったが、いの一番にヤンの寝室を壊す勢いで開けた。

 「あれ?」

 ものすっっっごく嫌だったが、もしかしてと思った寝室はもぬけの殻だった。安堵と拍子抜けの後、すぐさま

 ユリアンは反転し、今度はロイエンタールの寝室に宛てがった客室に向かった。ここじゃなければ、そこだ!

 途中、ホールから物音を聞きつけたユリアンは通り過ぎたそのドアを開け、呆然と立ち尽くした。

 「………………」

 帝国軍大将オスカー・フォン・ロイエンタールがイライラしながら本を片付けている。

 ハッキリ言って奇妙だ。

 突っ立ったままのユリアンをロイエンタールは睨み付けた。

 「おい!7巻がない!」

 「は?」

 「7巻だ!7巻!銀河○雄伝説の7巻が見当たらん!」

 統一性なく積み上げやがって、とか、本棚くらい置け、とか文句いいながらロイエンタールは一冊の本を探し

 ている。

 「………」

 ユリアンは一部綺麗に積み上げられた本の山を一瞥し、図々しく太々しい彼がなんだかんだと都合良くヤンに

 使われているのを察した。

 考えてみればこのロイエンタールは20代前半。四捨五入すると自分と同じ『20』の枠組みに入る。そう思

 うとちょっと不憫。

 「…おい、なに突っ立っている。お前も探せ」

 気が利かない、と不機嫌な上からの物言いにユリアンの仏心崩壊。

 ユリアンはロイエンタールを無視し、ソファで寝そべっているヤンの肩を揺すった。

 「提督、起きて下さい」

 耳元で、会議が始まりますよ、とロイエンタールに聞こえない様囁く。軍関係の話を一切しない事、を忠実に

 守った。裏は、単なる当てつけだ。

 「…ぅん――ユリアン、もうちょっと…」

 寝呆けた、甘えた声にユリアンはご満悦だった。背後のロイエンタールの機嫌が更に悪くなった事も気分がい

 い。

 「だめですよ、提督」

 「…うん…」

 もう一度肩を揺すると、漸くヤンは身じろぎ、ゆっくり体を起こした。

 ぼーとした様子は実年齢を忘れてしまう程幼い。ユリアンお気に入りの瞬間だ。

 「顔洗っている間に紅茶淹れときますね」

 「…うん…」

 寝起きで動きの鈍いヤンの手を引き立たせ、二人はホールを出た。

 「————」

 存在丸無視のロイエンタールは『親子』とは見えない仲睦まじい様子に絶句。

 …なんだ!あの餓鬼は!!?

 次第に怒りが沸き上がる。珍しい事に、拳が震えるほど顕著に表していた。しかし薄らトンカチなので、7巻

 が見当たらない事でヤンを起こしたのだか、激しく揺すっても怒鳴っても起きなかったのにユリアンがあっさ

 り起こした事に対してだと思っている。問題はそこじゃない。

 腹立だしいが、大事と云われた本に当たるわけにもいかず、ロイエンタールは忌々しげに舌打ちした。銀河英

 ○伝説の7巻を探す気も失せ、ホールを出ると2種類の生活音が響いていた。

 洗顔中の流水音と食器の微かな音。ロイエンタール曰くあの餓鬼はリビングでヤンは洗面所。迷わず足を向け

 たのは洗面所だった。被保護者の躾がなっていないと一言文句を言うつもりの薄らトンカチだ。

 (そんな彼が愛しいです。本当に)


 

 洗面所では顔を洗い終えたヤンの手がタオルを求めて彷徨っていた。

 …子供か。

 呆れた苦笑は愛しそうに優しいが、自覚のないロイエンタールは自分の表情に気付いていない。

 黙ってタオルを差し出すと、ヤンの手がそれに触れた。

 「あ、ありがとう、ユリアン」

 その瞬間、ロイエンタールは裡から一気に身を灼き付ける、今まで感じた事のない激しい感情に襲われた。

 ヤンは屈んでいたのでタオルを取ったのが誰か認識していない。自室という気の緩みもあるだろうが、今は自

 分もこのフラットに居るにも関わらず、自然と出た自分以外の名前に言い様もない不快感が溢れ出た。

 それは嫉妬だったが、彼は『嫉妬』を知らない。される事はあっても、彼自身が持ったがない。

 苛烈な嫉妬心は殺意に良く似ていた。戦場の殺意とは異なり、殺意とも呼べないそれに、ロイエンタールはな

 す術もなく硬直した。

 「あれ?ヘル・ロ―ッ??」

 顔を上げたヤンは鏡に映るロイエンタールを認め、不思議なものを見る様に水で濡れた黒い瞳に強張ったロイ

 エンタールを一瞬映した。

 「ぅ――ッ??!」

 すぐに腰を引かれ、タオルを払われた唇を塞がれる。

 床に落ちたタオルは微かな音を立てて硬い床に寝そべり、ヤンの見開いた視界には近距離過ぎてボヤけた中に

 苦渋に歪む端正な顔。

 ロイエンタールは自分がなにをしているのか理解していなかった。ただ激情のまま、自身を突き動かすそれが

 本能かの様に濡れてしっとりしたヤンの唇を貪った。

 「んっんん―っっ!」

 口腔深くで舌を舌で搦め取られ、ヤンは拘束するロイエンタールの腕を押すがびくともしない。ロイエンター

 ルは緩い癖を持つ黒髪に掌を差し入れ、僅かな隙間も許さない。

 「…ふ…ぅ…んっ」

 鼻梁から漏れる苦しげな吐息にそれまでの激情が変わる。漏れる吐息も肌に触れる距離に不思議な安堵感を得

 る。外界からの刺激に、確かに自分は『今』『ここ』で生きていると実感した。時間のズレを、事実と認めて

 もどこかロイエンタールは不安定にあった。事実を否定し取り乱すのをよしといない矜持が、置かれた状況の

 不安定さから眼を背けさせていた。

 唐突に、ロイエンタールは自覚した。


 自分がなにをし、なにを求めていたのか。


 ヤンの行動は一見、有り得ない過去の自分を認めているように見えるが、その実、認めていない。それが腹立

 だしかった。彼に触れるだけで言い様もない実感を得るがそれは独り善がりと、彼は受け入れておきながら自

 ら触れる事なく拒絶する。

 刻まねばならない。彼の体に、記憶に、自分という存在を。

 今、こうして口付けている意味を教えなくてはならない。

 …一目惚れ――

 だったのだ。

 愛する心を持っていない、幼い頃作り損ねたと思っていたが、生まれたがっていたのだ。間抜けなほど呆然と

 見開いた黒曜の――宇宙の奥底の果てに照らされ、生まれたがっていたそれが漸く産声を上げた。

 誰しもそうなのだろう。生産性のない闘いの中で唯一の生産者に惹かれているのは。この二日間で絡み付く疎

 ましげな複数の視線が物語っていた。

 …だが――

 手にするのは、自分だ。


 蹂躙する舌の動きは優しく、束縛する腕は愛しい恋人の抱擁のように変わる。

 「…ぁ…」

 そっと舌の表面を舌先で撫でられ、突っ張っていたヤンの腕から力が抜ける。合わせた唇の角度を変え、ロイ

 エンタールはヤンの口腔を余す事なく隅々まで舌を伸ばす。

 「…ん…」

 唾液と舌が絡み合う水音に交じり、困惑と陶酔の吐息が漏れた。甘い音色は耳に心地良く、ロイエンタールの

 背筋が震える。快楽だ。

 「あ…ぁ…」

 腕にするヤンの体が耐える様に震えている。耐える事はないと歯並びを撫でるロイエンタールの舌は教える。

 「…ぅ…」

 身じろぎ、首を竦める様子に嫌悪はなく、口付けに感じている。きつく眼を瞑り、隠しているが手に取る様に

 判る。隙間なく密着した温もりに一体感を覚え、ロイエンタールの口角は笑みを浮かべた。まるで応えるよう

 にヤンの右の掌がダークブラウンの髪に差し込まれた。髪を逆撫でする感覚にゾクゾクする快楽がさざ波の様

 に全身に広がった。

 「――ッ??!」

 突然、後方に強く髪を引かれ、快楽に酔いつつあったロイエンタールは不覚にも唇を離してしまった。腕の中

 の彼に髪を引っ張られたと理解するまでに一拍の間があった。その隙にヤンはロイエンタールの腕から抜け出

 していた。

 「あぁ、着替えなきゃ」

 滴った水でシャツが濡れて張り付くそれを不快そうに指先で引き、ヤンは面倒くさそうに呟いた。

 つい先程までの濃厚な口付けの余韻が微塵もないヤンにロイエンタールはちょっと唖然となった。ミッターマ

 イヤが見ていれば顎が外れんばかりに驚いた事だろう。どこか達観したところがある、彼の年相応な表情に。

 ヤンはその貴重なロイエンタールに見向きもせず、洗面所を出ようとした。

 「ちょっと待て!」

 「?」

 肩を掴まれたヤンはロイエンタールに振り返った。引き止められる理由が思い当たらないとばかりに不思議そ

 うな深遠の黒の中に引き攣るロイエンタールが映る。

 「お前、今、俺が、なにをしたか、判っているか?」

 一言一句区切る。かなり動揺しているようだ。

 「キス。嫌がらせだろ?」

 「————」

 嫌がらせで男にあんな濃厚なキスができるのか、と咽頭元まで出るが事も無げに言われたので情けなくも咽頭

 が引き攣りロイエンタールは突っ込めなかった。知ってか知らずか、ヤンは続ける。

 「でも良かったよ、ユリアンの前じゃなくって」

 あの子が不機嫌だと紅茶が美味しくないんだ。

 穏やかに、それこそ嫌がらせのような笑みを浮かべるヤンにそこはかとない殺意を覚えるロイエンタール。

 …理解する気はないんだな。よ―――く判った。

 ならば実力行使あるのみ。拒絶も無視もはぐらかすも、許さん。

 決意を胸にロイエンタールは咽頭の奥で笑った。なんだかアブない人でヤンはそそくさと離れようとした。

 掌からヤンの肩が離れるのを感じロイエンタールは撫で肩を両手で掴み引き寄せた。

 「あっと!」

 バランスを崩したヤンはロイエンタールの胸に後頭部を埋める形となった。

 「今夜――

 低い声が耳元で囁かれる。

 「嫌がらせでない事を教えてやる」

 濡れて艶を増した黒髪が掛かる耳朶を甘噛みし、ロイエンタールはヤンを放した。そして洗面所を出る。ヤン

 の視線を背中に感じ、今までとは違う視線に見えないように不敵な笑みを漏らした。

 「……まいったな」

 一人になったヤンは人差し指で頬を掻き、呟いた。

 困惑気なその頬は、ほんのりと赤みを差している。

 




続く…     

 

 



                                                             09/04/20

・・・・・・・・・・・はい、金銀妖瞳が偽物です。ギャグですから。

黒ユリを捏造するのが楽しすぎる。

次!次はエロ入ります!