美味しい紅茶

 

 

 



  地上車が停車した場所はヤンの予想を裏切り、いかにも、な場所だった。

  「…………」

  建物から滲む如何わしさに二の句があげられないヤンの腕をロイエンタールは引っ張った。

  「屋敷だとすぐバレるからな」

  副官に。

  だからといって、あからさま過ぎて呆然としているヤンを余所にロイエンタールは前金を払い、さっさと部屋へ。

  「あっちょっ!」

  部屋に入るなり、壁に押え付けられたヤンは文句も途中でその唇を塞がれた。鍵はしっかり掛けた抜かりない金銀妖瞳。

  「――ぅ…ん…」

  容赦のない舌の蹂躙に呼吸が乱れる。ロイエンタールの掌は体を弄り、服も乱された。久しぶりに素肌を這い回る掌の

  感覚にゾクゾクと体が泡立つ。ヤンはそれを否定するかの様に緩く首を振るが、僅かな隙間から互いの唾液が溢れて顎

   へと伝うだけで口付けは続けられた。

  「…ぁ…っ…ふ…」

  絡まり、強く吸い上げられたり、口腔を舐め回されたりで徐々に舌が痺れてくる。呼吸もままならず、意識も痺れてい

  く。壁とロイエンタールの体に挟まれていなかったら、ヤンの体は崩れていくだろう。ベルトを外す金具の音も遠くで

  微かに聞こえてくる程、その口付けは長く激しくヤンを翻弄した。

  「んっ?!」

   気付くと蕾みに乾いた指の感触を感じ、ヤンの体はビクッと跳ねた。

  「あっ…!」

  名前を呼ぶ前に乾いたままの指に犯される。引き攣る痛みに小さな悲鳴が漏れる。

  「んん――ッッ!!」

  すぐに指は二本に増え、締め付ける内壁の抵抗も力任せに捩じ伏せ激しく穿つ。痛みと混乱の悲鳴はロイエンタールの

  口腔が受け止めている。離れ様としたがヤンの腕は既に力なく、白くなる程硬くロイエンタールの制服を握っていた拳

  も縋るだけになった。脚はガクガクと震え、体を支え切れず余計に奥まで指の侵入を許す事になった。

  ロイエンタールはずっとヤンを凝視していた。口付けにうっとりとしていたのが困惑に見開き、そして痛みにきつく閉

  じた。今は哀願するように濡れている。近い距離で黒曜の瞳が変わっていく様に漸くヤンを実感したロイエンタールは

  昂揚した。特に憐れと思うほど縋る濡れた瞳には苛烈な征服欲を覚える。

  「――はっ…!」

  口付けを解いた瞬間二人の呼吸は重なる。

  唇が自由になりロイエンタールの非道に抗議しようとしたが、獰猛な色違いの眸にヤンは身を竦めた。

  「家出するお前が悪い」

  言葉の意味を理解するよりも早く片脚を抱えられ、ロイエンタールの心情を露にした昂る凶器に身を引き裂かれる。

  「―――っっ!!」

  激痛に仰け反る細い咽頭から声にもならない悲鳴が空気を震わす。解されたとは言い難い、硬く閉じた蕾には許容外の

  太く長い陰茎に呼吸が止まる。心臓まで止まったと思う程の内部からの圧迫に血の気が引く。床に伸びたヤンの太腿を

  赤い筋が伝う。切れて当然の行いだった。

  「か…は…っ」

  強張った肺から酸素の塊が吐き出され、止まった血液が循環し全身に痛みが広がる。冷たい汗に覆われ、酷く寒くて小

  刻みに震えている。

  間違った征服欲に支配されたロイエンタールにはその様子が可哀想で愛しくて、堪らなく愛しくて思いの丈を込めてヤ

  ンを抱き締めた。

  が。

  「…しまった」

  ヤン気絶。恋は盲目とか、そんな問題じゃない金銀妖瞳。

  「…………」

  取り敢えず立ったままはマズイかと思うが、ぐったりと凭れたヤンの項には汗で黒髪が張り付いててムラムラ。

  止めとけ犯罪者。これ以上は止めとけ。

  「……ぅっ!」

  きゅうきゅうに締め付けたままで気絶なので、内部はきゅうきゅうだ。ほんの少し動いただけでも下肢が熱く重い。

  「…お前のせいだからな…」

  いや、違う。

  だが、もう引くに引けないので、その場で一発。





 

  凄く温かくって、とても気持ち良い。

  ヤンはヴァルハラかと思った。その存在自体信じてないが心霊本に書いてあった。考えるのも面倒くさいのでヴァルハ

  ラで納得する。

  …アレも腹上死っていうのかな?

  立ったままなのでそうは云わないだろう。でもなんていうのか分かりません。

  意識が覚醒すると自然と瞼も開く。ヴァルハラご開帳で逆様に楽し気なロイエンタール。

  「………なにしてるんだい?」

  すごく面白そうだ。ヤンは生きていた喜びよりも脱力した。

  「髪を洗っている」

  ヤンの。

  ヤンは回りを見回した。凄く温かいと思ったのは場所がバスタブの中で、とても気持ち良いと思ったのはロイエンター

  ルがシャコシャコ頭洗ってくれてるからだ。

  「…………」

  ロイエンタールの長く力強い指が程よく頭皮を刺激し気持ちいいのは認めるが、先程の非道を糾弾すべきだろうかヤン

  は悩んだ。そこは悩まず糾弾しろ。

  「眼を瞑ってろ。流すぞ」

  「ん」

  ロイエンタールはヤンの顔にシャワーが掛からないよう気を付けながら泡を流していく。真実の愛に目覚めたロイエン

  タールは実は結構尽くすタイプだったりする。尽くしたんだからその分3倍返せというオマケ付き。だが、朴念仁でマ

  イペースのヤンには結構無駄撃ちで、ロイエンタールの妄想通りに正しく返された試しがない。尽くす方向が見当違い

  なので周りからは単なる我が儘にしか見られないし。

  見当違いに尽くされ三倍返しを強要されるヤンも大変だが、尽くした真心を理解されないロイエンタールも可哀想。ど

  ちらも損で痛み分け。

  シャンプー、トリートメントを終える頃にはヤンはまた微睡みの世界だった。

  「おい、少し詰めろ」

  「んー」

  屋敷のバカでかい風呂場と違いホテルのバスタブは大人二人には窮屈。幸いなのは、そーいった目的のホテルなので一

  般規格よりは少し広めなとこ。

  体を重ねて入浴。背後のロイエンタールの手付きは当然アヤシイ。

  「…ちょっと」

  折角気分がいいのに台無しだ。もう少しゆっくりしたいが、これ以上はナニされるか分かるのでロイエンタールの手を

  払いヤンはバスタブから出ようとしたが下肢の疼痛に顔を顰めた。ヤンは原因を睨め付けたが、すぐに視線を逸らした。

  なにいっても無駄と諦めであり、なにか云おうものなら薮蛇になりかねない。思わず溜息を漏らす。

  「なんだ?」

  「なんでもない。もう出るよ」

  「もう少し温まれ」

  長い腕をヤンの体に巻き付かせ、抱き寄せた。強◯で疲れた体は素直に重なる。

  「…もうヤだからね」

  当たってる。硬いのが。

  「分かってる」

  意外なロイエンタールにヤンは疑わし気に顧みた。

  「お楽しみはベッドだ。それとも、ココがいいか?」

  薄い笑みを浮かべ、ロイエンタールはヤンの下肢を弄った。

  「どっちもご免だよ!」

  体の疼痛を無理矢理無視してヤンは勢いよく立ち上がり、慌ててバスルームを出た。

  顔に掛かったお湯を拭いながらロイエンタールは咽頭の奥で笑い、悠然とヤンの後を追う。猛禽が獲物を逃がすわけな

  い。

  ヤンはお座なりに体を拭き、ロイエンタールがバスルームから出てくると慌てて脱衣所から出た。逃惑う様子に金銀妖

  瞳の苛虐心が煽られ、強◯第二ステージ突入。

  裸でバスタオルで逃げられないのに足掻くヤンに咽頭の奥から楽し気なくぐもった笑いが漏れる。額に掛かる濡れたま

  まの髪を掻き上げ、ロイエンタールは獲物に喰らい付いた。

  「あっ!」

  いきなり背中を押され、ヤンはベッドに倒れた。スプリングの軋みが耳に障る。

  「ヤン」

  呼ばれ顧みると、濡れたままのロイエンタールが見下ろしてくる。鍛えた体躯は見惚れるほど整い、色違いの眸は危険

  を孕み更に美しい。女性なら誰しも溜息を付き歓んで身を任せるだろう。

  しかしヤンは男だ。素直に身を任せる事はしない。例え、抵抗が枕を投げると云う子供でもやらないようなものでも立

  派な軍人だ。

  枕は見事に大外れ。避ける手間もない。

  「…そのノーコンはどうにかならないのか?」

  呆れた声にヤンはムッとした。微動だにしないのも腹立たしい。

  「うるさいよ」

  「射撃訓練、付き合ってやる」

  「いらない」

  伸し掛かるロイエンタールに腕を突っ張って抵抗するが無駄。逆に足掻いていた脚を広げられ、間にロイエンタールを

  挟む事になった。

  「やだって言っただろうっ」

  「お楽しみはベッドと言った」

  「だからっ」

  「うるさい、黙れ」

  言うなり、ロイエンタールはヤンの唇を塞いだ。文句を言うので開いていた唇は易々とロイエンタールの舌の侵入を許

  した。舌先でくすぐる様に口腔内を動き回る。歯並びや上顎を遊ばれ、ヤンはくすぐったいとは違う奇妙な感覚に眉を

   寄せた。鼻梁から漏れる吐息に、不愉快ではないと分かる。

  ロイエンタールの広い掌は筋肉のない柔らかい胸を弄り、もう片方は太腿を撫でた。するとヤンの体はベッドの上で小

  さく跳ねる。じわじわと広がる感覚は久しぶりの快楽だった。

  口付けを解くとロイエンタールはヤンの耳元で囁いた。

  「さっきは酷くしたからな。今度は優しくしてやる」

  低い声は欲を孕み魅惑的。謝らないので魅力に欠けるが。




  ロイエンタールの愛撫は言葉通り優しかった。丹念で、もどかしいと思う程だ。

  「…ぁ…」

  決定的な快楽には至らず、焦れったい。下肢に蓄積した熱と重みが余計に疎ましい。だからといって、もっと、とあか

  らさまに強請る事も自分で触れる事も出来ない。理性が先きに立ちヤンを止めていた。手放せない理性に逃げたくなる。

  ツンと尖り誘惑に色付く突起を敢えて触れずにいたロイエンタールは身じろぐヤンに満足げな笑みをひっそりと零して

  いた。

  焦らして、焦らして、早く堕ちればいい。

  「…欲しいだけくれてやる…」

  快楽に耐える様に緩く上下する胸に口付けの痕を付けながら小さく呟き、掌は足首から付け根までを何度も往復してい

  た。もう片方の掌は耳の後ろから首筋、腹部までのラインを辿る。

  「…ん…」

  時折触れる男の陰茎の昂りに、ヤンはゾクッと背筋が泡立つ。でも、それだけ。どれくらい生殺しのような快楽を与え

  られていたのだろうか。過ぎる時間が酷く遅く感じる。

  「…ロ…ッ…」

  ただ、このままでは気が狂う。底なし沼のように体も思考も重く引き摺られ、二度と這い上がれない恐怖。

  上擦った短い呼びかけにロイエンタールは一旦愛撫の手を止めた。

  「なんだ?」

  愉悦に細められた色違いの眸。これからどんなお強請り言葉が紡がれるのか楽しみだった。

  …分かってるくせにっ!

  下唇を噛み締め、ヤンはそっぽを向いた。欲しい、なんて恥ずかしくて言えない。言わせようとしているのは分かるが、

  言えないのだ。

  紅潮した頬が余計に幼く見える。

  「そんな顔するな」

  もっと虐めたくなる、と心の中で呟き、ロイエンタールヤンの頬を掌で包み込んで自分に向かせた。

  視線が交わるとヤンは増々頬を赤く染めた。理性と快楽が鬩ぎ合う幽遠の黒瞳にロイエンタールは息を詰めた。快楽に

  侵された濡れ色の瞳とは別にそそる色合いだ。途端に咽頭が渇き、引き攣る咽頭を無理矢理潤す。そうしなければ、欲

  しいと叫び、獣の様に喰い尽くしていた。

  そんなロイエンタールを見つめていたヤンは何か決した様にきつく目を閉じた。

  「―――――ッッ??!」

  思いがけないヤンの行動にロイエンタールは一瞬心臓を鷲掴みされた気がした。

 

  太腿を擦り付けながら脚が腰に絡み付き、下肢が触れ合う。

 

  羞恥に耐え切れずヤンは腕で顔を覆った。

  啜り啼くような乱れた吐息に保護欲を、触れ合う下肢の熱に苛虐心を責められ、ロイエンタールは言い様のない感情に

  四肢の末端まで痺れた。この相反する劣情をどうすればいいのかわからない。

  「…ヤン…」

  声まで震えていた。

  「……?」

  力なく胸に額を付けるロイエンタールが不思議だった。腕を外しダークブラウンの髪を眺め、乱れた髪をそっと両手で

  梳きあげる。

  「…ロイエンタール…」

  溜息に混じり紡がれる音。それが自分の名前であると胸の奥から安堵する。髪を梳く柔らかい指先は生々しい。ヤンの

  指先は項を通り、その腕に抱き包まれる。

  「ヤン…ッッ!!」

  叫んだ、と思う。だが、ひどく遠い。渇き過ぎた咽頭は引き攣り、掠れた音にしかならなかった。



 

 

 

  餓えた獣は自分を満たす存在をただ貪り、必死に愛した。



 

  手加減しないのが、獣ならでは。

  疲労困憊のヤンはベッドにうつ伏せで、呼吸するのも肺が軋んでいた。

  何度果てたか分からない。もうカスも出ない。どんだけ搾っても無理だ、ぐらいヤりまくり。夕飯も食べてないのに内

  部に放たれた精液でお腹いっぱい状態。

  しかし約半年間禁欲生活だった金銀妖瞳は気怠げな背中にまたもムラムラしていた。

  厚顔無恥と書いてオスカー・フォン・ロイエンタールと読むが、いくらなんでも休憩は必要だった。ラブホ資料からベ

  ストセレクトしたホテルには休憩時にも飽きがない小道具が山盛り揃っている。いちいち外に出なくてもいいのでこの

  ホテルを選んだようなものだ。

  なんか鼻歌っぽいのが聞こえ、ヤンは視線だけ動かした。身じろぎ一つできない。

  「……?」

  ロイエンタールは部屋の隅に設置された細かく仕切られたボックスを真っ裸で屈み込んで小道具物色中。ヤンからは背

  中しか見えないので、なにをしているのか分からなかった。多少気になるが、もうどうでもいいヤンは目を閉じた。疲

  れて眠い。

  「まだ寝るには早いぞ」

  ロイエンタールは寝息を立て始めたヤンの耳元で囁いた。聞こえてはいたがヤンはもう眼を開けられないくらい疲れ果

  てていた。

  「……ぁ…?」

  なにかひんやりと硬質なものが蕾に押し付けられたが、泥の様に眠いヤンの反応は希薄だった。それをいいことに厚顔

  無恥はオモチャ挿入。

  「…ぅ…ん…ゃぁ…」

  啼き過ぎ喘ぎ過ぎで焼けた咽頭からは切なげな声が漏れる。下肢は痺れ感覚が遠く、それよりも眠い。それでも体は快

  楽を認識し、蕾はヒクヒクと蠢いていた。内部の精が溢れるのもイイ。ロイエンタールはソレを抜き差ししたり内部を

  探ってみたりと、完全に遊んでいた。

  「…ん…ん…」

  眠りに引き摺られながらも、ピクン、ピクンと反応を示す体にロイエンタールの陰茎も完全復活。

  「起きないんだな」

  自分には劣るがオモチャはそれなりの大きさだった。これでも起きないのならば、ヤンを起こすにはどうすればいいか。

  ロイエンタールは愉悦の笑みを口元に刻んだ。

  「そうだな、こうするしかないな」

  なんか自己完結のロイエンタールはオモチャを銜えている蕾の襞を指先で無理矢理広げ、完全復活の陰茎を押し付けた。




 

 

 

 

  翌日、再び絶交宣言された金銀妖瞳。

  当然である。



 

 

終わり。   

 

 


2009/08/24