人工の天体であるイゼルローン要塞はハイネセン標準時間と合わせてある。

  しっとり纏わり付く夜気に包まれ、シェーンコップは煙草に火を付けた。仄かな灯火が野性味のある男の顔を夜に浮き上がらせる。

  肺に溜め込んだ煙を吐き出し、壁に凭れた。

  紫煙が燻りながら消えていくのを何度か眺めたシェーンコップは煙草を靴底で揉み消し、凭れた壁から背中を起こした。休息を得た肉

  体は感覚が研ぎ澄まされていた。

  「……お待ちしてました」

  女性が溜息を付きそうな、甘く、そしてどこか毒のある笑みを浮かべ、シェーンコップは待ち人の影を迎えた。

  「………」

  ヤンは困った様な、恥ずかしそうな感じで長身の部下を睨み付け、すぐに視線を離した。

  「…なにも今日じゃなくても…」

  モゴモゴと口の中で文句を呟くが、その様子にシェーンコップは口端を僅かに吊り上げただけだった。

 

 

 

 

 

      今宵、貴方に乱されて…

 

 

 

  シェーンコップの部屋は、人間味の濃いこの男にしては生活感のないものだが、妙に納得のできるものでもあった。

  いつもなら先ず一杯のアルコールがあるのだが、今日はストレートに寝室にリードされる。あからさまで恥ずかしさにヤンの頬は少し

  赤くなった。その頬を指先で撫でたシェーンコップは、そのまま指を滑らせ、ヤンの顎を持ち上げた。

  「…提督…」

  ワザとゆっくり近付く。

  男として自信に満ちた笑みを正視するのは恥ずかしく、ヤンは視線を彷徨わせたが近い距離にどうあってもシェーンコップの顔が映る。

  ヤンは観念したかの様に目を閉じた。

  最初は触れるだけの音のない口付け。

  互いの温もりを感じる様に、温もりを運ぶ様に。

  そして次第に移した温もりを溶かし混ぜる様に口付けは激しくなっていく。

  「……っ…」

  何度経験してもヤンは慣れることはなく、上手く息継ぎが出来ず、合わせた口腔の中で苦しそうに喘いだ。鼻梁から漏れる吐息は男の

  肌を優しく愛撫し、シェーンコップは下肢が疼くのを感じた。

  …貴方は――

  ヤンの腰を強く抱き寄せ、その熱を確かめる。

  己の反応を知られるのは気恥ずかしく、ヤンは身じろいだが遅く、スルリ…と皮の硬い掌が撫でた。

  布越しに形をなぞると、小さく震えるのが伝わり、シェーンコップは漸く口付けを解き、二人の混ざり合った唾液で濡れた唇の端を吊

  り上げた。

  「待てないようですね」

  「っ!そっ」

  んなことはない、と反対する素直ではない唇を奪い、シェーンコップはやや乱暴にヤンをベッドに押し倒した。

  音を立てて沈んだ躰を激しい口付けで身動きを封じ、邪魔な服を脱がせていく。

  力でこられたらヤンには抵抗する手段はなく、時折悪戯されては唇を噛んで漏れそうになる声を必死に噛み殺した。キツく眼を瞑って

  も肌に触れる空気で自分の状況が判り、増々強く眼を瞑る。閉じた感覚の代わりにその他の感覚が敏感になり、素肌を這う大きな掌と

  柔らかな唇の感触が鮮明になり、ヤンはベッドの上を擦り上がった。

  逃れようにも快楽は追ってくる。

  「…っ…ぁ…あ…っ…!」

  シーツを彷徨っていた両手はいつの間にか頭上で一纏めにされていた。

  戦斧を楽に振り回すシェーンコップの手に比べれば、ヤンのそれは全体的に薄く見劣りするが世間並だ。しかし手首は細く、軍人とし

  てはギリギリ及第点だ。これで腕力もしくは瞬発力が備わっていれば職業的に平均と云えるが、被保護者の様に鍛錬を積むことを最初

  から匙投げしている保護者には無理なことだった。まして今は身の裡から込み上げてくる快楽の熱に意識が朦朧としていては、軽く押

  えているだけの男の手を振り解くことなど出来ない。

  それでも変なトコロで無駄な抵抗を諦めないヤンは焦らす様な愛撫で嬲る意地悪な掌から逃れる為に足を動かした。腰の奥深くが疼き、

  動きは些細なものだ。

  それでは相手を誘う様なものですよ、とシェーンコップは淡く色付いた胸の突起を舌で押し潰しながら良く似合うシニカルな笑みを浮

  かべた。そして徐々に舌へと移動していく。

  鍛えていない柔らかな腹部にヌメッた舌が這い、ヤンは躰を震わせた。くすぐったいとは異なる事は熱く湿っていく自身が告げている。

  シェーンコップは緩く握ったその先端を親指の腹で弄くった。

  乱れた吐息と粘着質な卑猥な水音が混じり合い、室内の空気を淫靡に飾る。

  シェーンコップはヤンの両手を解放し、沸き上がる快楽にしっとりと汗を滲ませ艶めいた象牙色の肌の感触を堪能した。

  滑らかな肌は掌に吸い付く様だ。一度でもこの肌を知れば誰もが病みつきになるだろう。特に紅潮している時は格別だ。数多の女の肌

  を知る色事師でさえも虜にした。

  ヤンが色恋に鈍感で本当に良かったと思う。シェーンコップは、そんな無自覚で危なっかしいヤンの周囲に眼を光らせていたキャゼル

  ヌに感謝の様なものを持っていた。ヤンの次に彼の言葉を少なからず聞き入れるのは、決して怒らせると単に七面倒の厄介な相手とい

  うだけではない。お父さん的には臍を噛み締め、地団駄を踏むであろうが。

  カミングアウトした時の呆然としたキャゼルヌの顔が過り、シェーンコップは愉快になった。なんせお父さんの眼は光り過ぎてヤンに

  アタックするのに労力と忍耐を相当に要したからだ。

  キャゼルヌのおかげでヤンは、ほぼ無菌室育ちで得意の含んだ言い回しは全く効果がなかった。なので直球勝負に出たが、うん私も嫌

  いじゃないよ、と笑えない凡打で返された。今にしてみれば苦い思い出だ。余りの鈍感さに既成事実で強引に事に及ぼうかと真剣に考

  えてしまった程だ。

  流石に本意ではないので踏み留まったが、飲んでいる時に無自覚はスカーフを緩めたりとチラリズムで目のやり場に困った事がある。

  キャゼルヌも同席していた時で完全に状況を楽しんでいたのは今でも覚えている。

  …いかん、いかん。

  その時のニヤけた事務総監の顔が浮かび、折角の気分が台無しになる所だった。と、いいつつも、愛撫の手はぬかりないのは流石だ。

  ヤンの堅く閉じていた蕾は、自らが漏らす透明な雫で濡れてヒク付きだしていた。

  「…先にイきたいですか?それとも―――

  こっちですか?

  躰を密着させる様にヤンに伸し掛かり、シェーンコップは耳元で囁きながら器用にヤンの臀部を浮かせた。親指の腹で蕾を広げると、

  真っ赤に熟れた媚肉はその指先に強請る様に口付けた。

  いやらしい言葉は男の低音と相まって耳から毒されていき、蠢く襞を濡れた指で撫でられたヤンは全身を震わせた。

  「…ふ…っぁ……シェ…ンコッ…プ…」

  喘ぎ、途切れがちな甘い声。駆け巡る快楽に疼く躰を持て余しているのが判る。優越感と征服欲がシェーンコップを支配する。

  「言って下さい。貴方の望むままに」

  涙を讃える目元に口付ると、しっとりと濡れて艶を増した睫毛が触れた。猫が毛繕いをする様にシェーンコップはその一本一本に丹念

  に舌を這わせた。その間にも、意固地なヤンの口を割らせる為に、蕾とヤン自身に愛撫を施していた。

  五匹の蛇が絡む様な、熱い快楽の底にはどこか悪寒に似たものが混じる。普段の気障な台詞回しより男の指は雄弁で、言うまで焦らす

  つもりなのが背筋から脳髄に伝わる。なのに、蕾を弄る指は切望していた。熱に浮かされた頭の中に響く乱れた呼吸が自分のものか男

  のものか、ヤンには区別がつかなかったが、ネチャネチャ…と卑猥な水音と共に先端から溢れる雫がゆっくりと黒い茂みを張っていく

  のが妙にリアルだった。

  「…ん…くぅ……っ…ぁ…シェーンコ…ッ…」

  ぼんやりとした意識と視界の中でヤンは灰褐色の双眼が眇められたのが見えた。この男には愉悦の笑みが良く似合う。残酷で危険を孕

  んだ笑みだ。

  …ああ―――

  殺される。

  貪られ、暴かれる。恐怖と、そして快楽に目眩がしたヤンは途切れそうになる意識の中でギュッと逞しいシェーンコップの首にしがみ

  ついた。

 

  ―― いれて ――

 

 

  啜り泣きに紛れなら、それは確かに聞こえた。

  シェーンコップは全身の血が沸騰するのを感じた。それは急速に陰茎に凝縮された。こんな直情的な事をヤンが口走るのは滅多にない

  事で、灰褐色の双眼は興奮に獰猛な輝きをその奥に灯した。

  「――仰せの通りに」

  ヤンの膝裏に手を掛けたシェーンコップは良く見えるよう渦巻く熱に柔らかくなったその躰を二つに折り曲げた。肺が圧迫されたのか、

  ヤンは苦し気に眉を顰めたが薄く開いた唇から漏れるのは苦言ではなく期待に逸る吐息だけだった。

  滾り、先走りの液を滴らせた陰茎が近付く。こんなに時間が遅く感じるのは酸素不足だからか、それとも焦らす男の手管か。

  「ッ!」

  熱い先端が蕾に触れると、感電したかの様にヤンの躰はビクッと大きく震えた。

  「―――ッッ!!」

  太く長い陰茎で一気に貫かれ、声のない悲鳴が室内に響く。意識が飛んだヤンは顔にビチャッ!と勢い良く熱く独特の匂いのする粘液

  を掛けられ、僅かに意識を戻した。

  「凄いですね」

  挿れただけでイくとは。

  「………あ」

  口元に余裕の笑みを浮かばせて入るが、内壁の強い締め付けに額に汗を浮かばせたシェーンコップの台詞の意味に気付いたヤンは羞恥

  で全身を真っ赤に染めると同時に血の気が引いた。

  「ヒッ!!」

  先手必勝のシェーンコップは、ヤンが何かしらのリアクションを取る前に激しく穿ち始めた。ヤンがそうであった様に、彼自身限界だっ

  た。大きく腰を動かし、ギリギリまで陰茎を引き抜いては根元まで衝く。果てたばかりの敏感な躰には堪らない。指の末端から思考ま

  で灼かれる快楽にヤンは甲高い嬌声を上げ続けた。

  ベッドはシェーンコップの容赦ない律動に軋んだ悲鳴を上げ、肌と肌がぶつかる鋭く乾いた音が何度も木霊した。

  「ああァッ!も…っ!!」

  強すぎる快楽から逃れる為か、萎えたヤンは震えながらも半ば芯を持ち始め、早々に果てようとしていた。

  可哀想なほど小刻みに震えるそれを無情にも大きな掌は握った。

  「あと少し、我慢し、て下さい」

 いやいや、と首を振るヤンに乱れた呼吸でシェーンコップは優しく声を掛けたが、ヤンには聞こえていないようだ。それは、意地っ張り

  な自我が崩れる前兆でもあり、シェーンコップは意地悪な笑みを浮かべた。

  さらに強い力で握り締められ、仰け反った白い喉元から短い悲鳴が鋭く漏れ、快楽と苦痛の狭間の苦しみを訴える様にギュッと瞑った

  ヤンの目元から雫が零れた。

  出口を押えられた事で内壁は引き締まり、強い快楽をシェーンコップに齎した。込み上がる悦楽は絡み付く内壁の襞の様に男の背筋を

  這い上がり、シェーンコップは本能のままに動き出した。

  「ああ―――ァッ!!」

  心臓の鼓動の様に脈打つ太く熱い陰茎にほぼ真上から何度も貫かれ、きつく瞑った視界に何度も鋭い白光が点滅する。飲み込まれそう

  で逃げたくても強い力で押さえ込まれているヤンは逃げられない。前立腺を削りながら奥深くまでも穿かれ、神経の末端が悲鳴を上げ

  る。苦痛という快楽に思考までもがバラバラになりそうだ。僅かに残る理性が男の腕に爪を立てるが抑止にはならなかった。

  「―――くっ!」

  果てる間もなく責め立てられた内部は強弱を付け陰茎に絡み、入り口の締め付けは喰い千切るのか、それとも離すまいとしているのか、

  どちらにしても堪えるのに限界だった。シェーンコップは全体重を一点に集中させ、深々とヤンの内部奥深くで爆ぜる。その一瞬の膨

  張と熱い奔流を内蔵の粘膜で感じ、ヤンも果てた。

  熱い息を詰まらせる音と、音のない甲高い悲鳴が重なり合う。

  軋むスプリングの音と激しく交わる肌の乾いた音の代わりに、室内は二人の乱れた熱い吐息で満たされた。

  快楽の余韻は纏う空気の様に絡み付き、乱れた心臓の鼓動と連動して内部が震えているのが陰茎から伝わる。快楽の熱でヤンの髪から

  例え様のない芳香が香り、深く吸い込む。揺り駕篭の様に心地良く、シェーンコップは弛緩したヤンの躰を抱き締めた。

  ヤンは未だ肺が落ち着かず、意識も朧だ。霞んだ黒い瞳を満足げに眺め、シェーンコップは汗で額に張り付いたヤンの癖のある前髪を

  そっと掻き揚げた。

  そして囁くのだ。

  「――まだ、でしょう?」

  悪魔の様な低音と共に、煽る内壁の存在を知らしめる様に腰から揺する。

  「あ…っ…ん……っ!」

  感覚が剥き出しのヤンには、そんな些細な動きも痛いくらいの刺激だった。

  零れた喘ぎは煽情的でねったりと耳に張り付き、淫らに蠢きだした内壁の襞にシェーンコップは口端を吊り上げた。

  「もっと、楽しみましょう」

  これからが本番だと言外に匂わせ、シェーンコップは抱き締めたヤンの躰ごと上半身を起こした。

  「ひッァ!!」

  果てた陰茎は既に隆々と昂っていた。なにかかが潰れた様な音が蕾から漏れ、爆ぜた白濁が零れた。

  引きかけた熱がまるで津波の様に勢いよく襲いかかり、身の裡深くから込み上がる快楽にヤンは悶絶した。震える躰は男を誘うもので

  しかなく、内部の圧迫が増していくことに気付く余裕などなかった。

  「…は…っ…や…シェッ…」

  発作の様な苦しい呼吸でなんとなか嫌だと言葉を綴ろうとするが、哀れな懇願は逆効果でしかない。ぼやける視界に野性味のある魅力

  的な嗜虐な笑みが映り、ヤンは必死で縋った。

  背中に感じる震える指先にシェーンコップは更に笑みを深める。

  …ですから――

  そんな態度が逆に煽るのだ。

  「…まったく、貴方という人は――

  言っても判らないのなら、躰に教えるしかないですね。

  シェーンコップはそっとヤンの頬を掌で包んだ。

  頬を包む堅い掌は汗ばみ、しっとりと表面を柔らかくしていた。先の不穏な台詞は聞こえないのか、温かく優しい感触にヤンはうっと

  りと濡れた双眼を細めた。

  安心し切っている様子に少々良心が咎めたが、やはり無自覚にはちゃんと責任を取ってもらわなくてはならない。ヤンのだらしなく薄

  く開いた濡れた唇を親指の腹で象ると、そのまま口腔へと侵入していった。

  「…ぅ…ん…」

  舌で押し返すが、太い指は付け根まで入り込んだ。不快さにヤンの意識は徐々に覚醒していき、嫌そうに眉を寄せては首を振った。し

  かし、頬にあった男の掌はいつの間にか顎に移動しており、殆ど動かす事が出来なかった。親指を銜えながらヤンは抗議したが、不明

  瞭な発音は舌っ足らずの甘えた睦言のようにも聞こえた。

  「いいですね、貴方のそんな声。とても可愛らしい」

  楽し気に咽頭の奥で笑いながら恥ずかしい事を言われ、ヤンは目元を紅く染めた。そして、カリッと意趣返しに噛み付いた。

  「おいたはいけませんよ」

  更にグッと奥まで責められ、苦しさにヤンは呻いた。

  「ほら、噛むのではなく、舐めて下さい」

  「…ぅぅ…ふぁ…っ…」

  短い親指は狭い口腔内で蠢きだし、ヤンの舌を操る。唾液が溢れ出し、卑猥な水音が息苦しい吐息と共に零れる。音は部屋に浸透し、

  唾液は仰け反ったヤンの首筋を鎖骨へと辿る。

  「もっと舌を動かして。…そう、いいですよ」

  唾液に塗れた舌の感触が親指から陰茎へと伝わる。次は是非とも、ソコでヤンの舌を感じたいものだ。ストイックな舌と唇が銜える様

  は想像しただけで興奮する。口腔一杯に銜え込んだまま濡れた黒曜の瞳で強請られたら、堪らない。

  「…んんぅ…っ…!」

  ドクドクッと力強い脈動にヤンの腰が揺らめいた。熟れた内壁は敏感だ。

  口元に笑みを浮かべたシェーンコップは空いた掌にピクピクと昂りつつあるヤンを包み、ゆっくり擦り始めた。

  「ふぁっ…ああ…は…ぁ…っ」

  じわじわと広がる快楽の熱。声を押し殺したくても捩じ込まれた親指に唇を噛む事が出来ない。それでも咽頭の奥で飲み込もうとする

  が、溢れた唾液が邪魔をして、苦しい。

  快楽か呼吸の苦しさか、悩まし気に寄せられた眉根と、そして潤んだ瞳が訴えてくる哀願。脆く崩れそうな危うさに、囚われる。

  シェーンコップは密かに喉を鳴らした。欲望に張り付いた咽頭に僅かな唾液を流し込んだが、付け焼き刃で余計に餓えを自覚しただけ

  だった。みっともないほど矜持もなにもかも投げ出して貪りたくななるが、反面、そんなみっともない姿をヤンに曝すのも矜持が許さ

  ない。己の矛盾にシェーンコップは皮肉気に口元を歪め、まるでその心情を誤摩化す様にゆっくりと動かしていた掌の速度を次第に増

  していった。

  「あっああ…っ!」

  背筋を這い上がる快楽にヤンは堪らず男の上で淫らに揺れ、満足げに口元を歪めた男は淫靡な踊りをリードした。緩やかに衝き上げる

  と甲高い嬌声が響き、鋭く衝き上げれば嬌声は享楽の旋律を奏でる。ベッドの軋みと絡まる粘液の水音がさらに室内を淫靡に彩ってい

  く。

  何度も衝き上げれて、身の裡を駆け回る快楽の熱に、ヤンは言い様のない浮遊感の中にいた。そこは夢見心地の気持ち良さとは掛け離

  れた激しさで、末端の神経まで見えない細い糸に搦め取られたような苦しさだった。喘ぎ、霰もない声を上げようとも、少しも熱は引

  かず、刻一刻と蓄積されていく。

  「…やぁっ…くるし…っ!!」

  切ない懇願を漏らすが、躰は正直にシェーンコップを求めていた。震える指先は必死に男の背中に爪を立て、両脚は男の腰に強く巻き

  付いていた。快楽に溺れた内部は強弱を付けて畝り、普段は慎ましい蕾は細かな襞をも震えながら陰茎に吸い付いている。

  込み上がる快楽にシェーンコップは限界だった。―――ちなみに、ヤンの躰を何度も激しく持ち上げる左手首も限界だったが、あまり

  の善さにシェーンコップは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

  漸く、熱が引き始めた室内。

  ベッドの中のヤンは極めて不機嫌だった。シーツもメチャクチャなら、躰もメチャクチャに痛いし怠いし、イロイロ付着して気持ち悪

  い。特に下肢は酷かった。二人分の精液でドロドロだった。それも不快であったが、さらにヤンの機嫌を悪くしているのは顔に掛かっ

  たソレだ。自分のものとは言え気持ちのいいものではない。

  「………」

  全身さっぱりしたくても怠くてヤンは起き上がれなかった。

  ムスッとシーツに包まる愛しい恋人のためにシェーンコップは温かいタオルを用意していた。ちゃんとバスの用意もしているからそつ

  がない。湯が溜まる間に軽く拭いて、ご機嫌伺いを図るつもりだ。勿論、ご一緒予定の腰にバスタオル姿の色事師。

  タオルを絞る際に左手首に違和感を覚えたが、己の肉体に絶対の自信があるシェーンコップは簡単にスルーした。そしてベッドの端に

  腰掛け、ヤンのシーツを剥いだ。

  「閣下」

  ホカホカのタオルでそっと頬を拭っていく。

  温かく柔らかな感触と低音が耳に心地良く、不機嫌に結ばれたヤンの口元が薄らと笑みを象る。心地良さそうな溜息が漏れ、ヤンは温

  かなタオルにうっとりと眼を閉じた。

  顔を拭き終わる頃にはタオルも冷め、シェーンコップはチラリと時計を見るとそろそろバスに湯が溜まる頃合いだった。

  ヤンも承知しているのか、ん、と両手を広げてシェーンコップに伸ばした。それくらいしてもらってもお釣りがくるくらいだと思って

  いる。

  やれやれ、と苦笑を漏らしたシェーンコップはヤンに覆い被さった。スルリと首に巻き付く腕に、やはりニヤけてしまうのは惚れた弱

  みだろうな、と腕の温もりに満足げな笑みを零していた。

  そして、抱き上げ―――

  「―――ッ!!?」

  不意打ちの如く、左手首に激痛が襲う。

  まるっと油断していたシェーンコップは脳天にまで響く、ピキッ!!と言う音と稲妻の様に走る痺れを伴った激痛に腕の力を抜いてし

  まった。

  「ぎゃっ!!?」

  温かい浮遊感から一転、腰から床に落とされたヤンにも全身に激痛。

  「い〜〜〜〜ッ!」

  たくて、声も出ないヤンは情事とは違った冷たい汗を躰中に張り付かせていたが、左手首を抑えたシェーンコップも青白い顔で額に脂

  汗を浮かばせていた。

  「シェ、シェーンコップ…?どうしたんだい?大丈夫か?」

  肉体的に頑丈のシェーンコップのいつもと違う様子にヤンは痛い腰を摩りながら、心配そうに覗き込んだ。

  「…なんでも、なんでもありませんよ」

  ウソと判る引き攣った口元にヤンは単に捻っただけではない事を察した。

  「手首!?骨!?折れてる!!?」

  「いえ、なんでもありませんから」

  「医者!?夜間診療!?何番!?」

  「提督、提督、落ち着いて下さい」

  真っ青でオロオロとするヤンを宥めようとするが、痛みにシェーンコップの動きは鈍かった。手首も痛いがヤンの慌てぶりに頭痛がし

  てくる。骨折までには至らないと自己判断のシェーンコップは医者は明日でも良いと思っていたのだが、普段は地面に落ちたナマケモ

  ノのように動作が鈍いくせに、この時のヤンは切羽詰まったナマケモノの様に俊敏だった。ヴィジホンに駆け寄り、うろ覚えの救急番

  を押す動作は目にも留まらない素早さだ。

  「ちょっ!?」

  素っ裸ですが!!

  慌てたのはシェーンコップだ。胸にくっきりはっきり情事の痕を付けたヤンが見も知らない誰かの視線に曝されるのだ。しかも科学の

  技術によりナンバーディスプレイならぬ、ネームディスプレイ。しっかりと『ワルター・フォン・シェーンコップ』と相手に判る様に

  なっている。

  シェーンコップは慌てヤンを画面から引き離そうとしたが遅かった。

  「すみませんっ骨、折れたかもしれないです!!」

  『……………今すぐ行く』

  プッと切れた画面に二人は黙り込み、視線を合わせた。

  「………………」

  なんか、聞き覚えのある声だった。

  「………………」

  そうですね。

  「…あ」

  漸く、ヤンは自分が掛けた相手が救急番ではなくキャゼルヌ家であった事を理解した。

  呆れて痛みも失せたシェーンコップは深い深い溜め息を吐いた。

  「あーそのー……」

  「取り敢えず、服を――

  の前に、襖パーン!!とお父さん登場。

  「こ〜の〜ばかども〜が〜ッ!!」

  「…………」×2

  早過ぎ!ロックは!?そして、ソレはなに!?

 

 

  セーターのセンターに愛娘作のドでかいチューリップのアップリケを付けた要塞最高実力者(背中は浮気防止の『家内安全』)に唖然

  の素っ裸の要塞最高司令官と腰にバスタオルの色事師。

 

 

 

 

終わり      

 

 

 

2010/10/06 

 

 

え?なに?このオチ?

…すみません、エロ文で自己満足しました。本当、ごめんなさいm(__;)m