思い出させ屋
 
 
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 神社の階段は、一気にのぼってはいけないのだ。
 そんなことを教えてくれたのは、誰だったろう?
 ゆさ子は、もう黒く濡れそぼった赤黄の秋の衣を、くちゃくちゃと踏みしめながら、神社の石段を登っていた。帽子とそろいの、赤の太めの毛糸であんだマフラーから、こぼれでた息まで、もう白い。十一月なのだから。
「……ここだ」
 自分の声が、思ったよりも大きくって、さゆ子はたじろいだ。
 今日はカラスも鳴いてない。
 階段の両側の杉の木は、おどろくほどか黒くそびえている。ここから見る町は、まだ灰色にけぶっていて、夜になるにはまだ早い。
 逢魔が時だ。
 ここが、上から十三段目。
 ゆさ子は、ふっと息をつくと唱えた。
 
  思い出させ屋さん 思い出させ屋さん
  お前のいきを私の目に
  お前のかみを私の胸に
  私はそうして翻る
  思い出させ屋さん 思い出させ屋さん
 
「いるわけないか」
 一人ごちて、何の気なくふり向いて、息が止まった。
 階段の上に、黒い服の男の人が一人、立っていた。