
第1段 犬ともだち
5年前我が家に紛れ込んだ野良犬は雑種の
パピヨン。犬のことなどとんと興味のなかっ
た主、半死半生の姿を見て戸口で死なれちゃ
大変と、保健所に引き取り依頼の電話を掛け
ようとしたものだ。ところがそこに居合わせ
た娘の友達のヤンママ、「これパピヨンじゃ
ない?」とゴミだらけの犬にシャンプーをし
て毛まで梳いてくれると、主の目には何やら
高貴の顔立ち。「これがかのマリー・アント
ワネットの寵愛を集めた犬か」と見直した。
以来親分と呼ばれ子分と呼ぶ仲となって、
朝夕町内を一巡する毎日。歩いて見ればお仲
間の多いこと。それまで知らなかったオジイ
にオバア、時には若い奥さんと親しく声を交
わすことになる。
ところが自己紹介のないま
まに話を進めるから、いつまで経っても犬の
名前しか分からない。「ようクロお早う」「ダ
イ公元気か」あとは迷惑顔の犬を待たせて世
間話。かくて主は近所のチビどもに「ガーち
ゃんちのおじいちゃん」などと呼ばれてしま
うのである。これを称して犬ともだちと云う
のだ。 (2002.8.20)