実践−客の作法

茶会での客のふるまいを説明します。流派によって異なる点が多いことを念頭においてお読みください。



はじめに

「茶の湯とはただ湯をわかし茶を点てて飲むばかりなる事と知るべし」

茶道の世界は形式的と見られがちです。それは茶道を知らない人たちからすると、いろんなことに決まりがあってそれを踏襲しているだけと捉えられるからです。 ですが、本来茶道の世界にルールはひとつもありません。あるのはマナーだけなのです。「これをしてはいけない」ではなく、「こうした方がいい」からそうするのです。利休やそれらに続く人たちが考えに考えて作り上げたものが今の茶道なのです。

ですが、それらを忠実に守らねばならないと誰が言ったのでしょう。自分一人でするわけではない茶会では共通のマナーも必要です。ですが本当に大切なのは、心から一杯のお茶を感じることなのです。

何も知らないまま初めての茶会に参じてみる。作法を気にするのも一つの醍醐味と言えるかもしれませんが、何も気にすることはありません。ただ出されたお茶をありがたく思いじっくりといただく、それだけで茶会に参加した意味があるのです。

上記の歌は利休が詠んだ(とされている)ものです。 いろんなことを知りすぎて形式的になってはいけない、純粋な心が一番大切なのです。




以下に簡単にですが大寄せの茶会での所作を順に説明します。
実践される場合、その場に応じて席入りなどの動作は割愛してください。

大寄せの茶会・・・一度の席で大勢の客をもてなす茶会のスタイル。催しもので開かれる茶会はだいたいこのタイプとなる。


待合(まちあい)

受付を済ませたあと次の席が始まるまで時間がある場合、たいていは待合に通されます。
ここで席に入る準備をすると良いでしょう。アクセサリーなど金属類は道具を傷つける恐れがあるので外します。また和装なら新しい足袋に履き替えます。洋装でもせめて白い靴下を掃きましょう。裸足で茶室に入るべきではありません。
懐紙や菓子切り、扇子などを持っていれば持ち入ります。


席入り(せきいり)

席の準備が整うと案内があり、茶席に入ります。
本来ならば蹲(つくばい)という神社で言うところの手水みたいなものがあり、そこで手や口を清めますが、大寄せの茶会では省略しているところも多いです。

席に入る際は、にじって入ります。にじるとは下の図に示すように、正座のようにして体の両側にこぶしをつき手の力で進む移動のしかたです。これは本来、茶席の入り口が「にじり口」と言ってどんな人でも分け隔てなく身を小さくして入るようにと言う意味で作られたからです。
なお、席に上がったら必ず向き直って草履あるいは靴を揃えましょう(揃えてくれる場合もあります)。
    
     にじっている様子

席に入ってからは、既に飾られている床や点前座の道具を拝見するのが慣例ですが、人数の多い大寄せの茶会では省略されることも多々あります。
そのような場合は、客畳がどこかを考えてすぐに座りましょう。正客席に座ってはいけないわけではありませんが、茶道のことに詳しくないならば遠慮しておくべきです。正客は亭主とともに、会を盛り上げる重要な責任を担っているからです。



茶室内での基本的なマナー

・他の客の迷惑とならないよう、大きな声での私語は慎みましょう。
・茶席では正座が基本です。ただし、痺れてしまったら無理せず足を崩すと良いでしょう。なお、畳をまたいで座ることはしません。畳の縁から膝までの距離を16目程度としておくとお茶を飲むときなどに楽です。
・礼をされたら礼を返しましょう。
・道具は基本的に両手で持ちます。ゆっくりと丁寧に扱いましょう。
・茶や菓子を戴く順は、正客から末客へと下っていくのが基本です。



お菓子のいただき方

表千家流では、1つの器に数人分のお菓子を盛って客に出します。ですから客は数人おきに菓子器が運ばれてきます。器が運ばれた人は点出に礼を返します。大寄せの茶会の場合、一人ひとりお菓子を配ることもあります。
亭主ないし半東が「お菓子をどうぞ」と言ったら、正客から順にお菓子を戴きます。
本来、生菓子(主菓子という)は濃茶席で戴くものですが、大寄せの茶会では簡易のため薄茶席で主菓子を提供することがほとんどです。

動作 意味
次の客に軽く礼をします。 「お先にちょうだいいたします」という意味です。声に出しても良いでしょう。
菓子器を自分の正面に持ってきて礼をします。 「お菓子をちょうだいいたします」という意味の礼です。
自分の懐紙を取り出して"わさ"が自分の方を向くように持ちます。下側1枚を上に折り返します。(中表にする) 折り返すことによって懐紙の内側だったきれいな部分が上側に出てきます。
懐紙を自分の正面に置きます。
箸(黒文字といいます)を手にとって菓子を右側からのものから一つ頂きます。そのとき左手は菓子器に添えます。 左手を添えるのは菓子器を支えるためです。両手を使うことで丁寧な所作ができます。
菓子を懐紙の上に乗せます。
懐紙の右上のかどで黒文字の先を拭います。
箸(黒文字)を菓子器の上に戻します。
菓子器を隣の人の方にずらします(持ち上げてずらします)。
菓子をいただきます。菓子切りを用意しておき、切り分けて一口ずついただくのもよいでしょう。饅頭などは手で割っていただきます。懐紙は持ち帰ります。

菓子をいただくときはその菓子の銘や外観から茶会の趣向を感じ取るとより一層感動が増します。
懐紙を持ち帰るのは、ゴミを出さないといったことはもちろん、まだその懐紙を使うこともできるからという意味があります。「もったいない」という日本の精神が生きています。




お茶のいただき方

まず、茶碗の持ち方を覚えましょう。

お茶を飲むとき 茶碗を移動させたり回すとき
左手の上に茶碗を置き、右手は指を5本ともそろえて茶碗の横に添えます。左手の指をそろえるときれいです。 左手は同様にして上に茶碗を乗せ、右手は親指を茶碗のふちにかけ残りの指で茶碗の底の方を持ちます。ただし高台には指をかけません。

薄茶の飲み方を説明します。
会によっては一服ではなく、二服以上戴くこともあります。

動作 意味
お茶が運ばれて来て、礼をされるので礼を返します。 礼は心をこめてしましょう。
茶碗を右手で取り、畳の内側に寄せ次の客との間に置きます。 お茶をいただいた時と返すときのみ畳の外側に置きます。持ち上げるときは落とさないように一度左手を添えましょう。
次の客に軽く例をします。 「お先にちょうだいいたします」という意味です。声に出しても良いでしょう。
右手で茶碗を取り、自分の正面に置きます このときも茶碗を持ち上げたら一度左手を添えましょう。あくまで道具は全て丁寧に扱います。
そのまま深く礼をします。手は茶碗の両側でかまいません。 亭主に対して「お茶をいただきます」という意味の礼です。これはとても大切な礼です。
上にも示してあるような持ち方で茶碗を取ります。
「押しいただく」といって、茶碗を軽く上に上げます。 一杯のお茶に対する感謝の心を表しています。
写真のように時計回りに45度ほど2回まわします。これにより最初の向きから90度ほど左を向くことになります。 茶碗は運ばれてきたときに自分に向いている面が正面と呼ばれる面です。正面は道具にとってとても大切な面であり、お茶を飲むときは正面に直接口をつけることを遠慮して左に回すのです。
お茶をいただきます。通常、三口半で飲みきるようにと言われていますが、細かいことにはこだわらずにしっかりと味わいながら飲みましょう。お茶は最後まで飲みきりましょう。 他の場面では作法が気になってしまったとしても、お茶を飲むときだけは飲むことに集中すると良いでしょう。そうすると五感全てで様々なお茶を感じることが出来ます。また、飲みきることは亭主への感謝の表れです。
お茶を飲みきったら先ほどの逆の反時計回りに45度を2回まわして、向きを元に戻します。 茶碗の拝見に移るためです。
お茶を飲み終わったら「茶碗を拝見する」といって、お茶碗を鑑賞します。ただし拝見は自分の興味において行うものです。絶対にしないといけないものではありません。まず畳に置いて茶碗を上から眺めます。 茶碗を鑑賞することで、そのお茶碗の良さや亭主がどのような理由を持ってその茶碗を選んだのかを確認することが出来ます。趣向を読み取るようにしましょう。
次に茶碗を両手でしっかりと持って側面や底を鑑賞します。 側面では形や図柄を読み取ることができます。また底面は陶芸に詳しい人ならば焼きの種類や使われている土などを見分けることが出来ます。
拝見が済んだら茶碗を手に取り、反時計回りに90度を2回まわして正面を反対側に向けます。 茶碗をさげに来てくれる人の方に正面を向けておくためです。回すときは落とさないように必ず2回に分けて回します。
畳の外に茶碗を出します。ちゃわんをさげに来てくれたら礼を返します。 畳の外に置いたら茶碗をさげても良いという意味になります。礼はしっかりとしましょう。




拝見と退席

亭主ないし半東が礼をして水屋へ下がったら席が終わりです。

その日の席で使った道具が飾られている場合があるので、拝見させてもらいます。形や銘、模様などから季節感や亭主の趣向を読み取り、また道具の出来栄えも鑑賞します。道具を拝見する際は道具と自分との間に扇子を置いて、間に一線を画し境界を作るようようにして行います。

道具を鑑賞したら退席です。懐紙などは全て持ち帰ります。退出の際は席入りと同じようににじって部屋を出ます。