第二章: アンデスの巨大望遠鏡

現在実物がありませんので、素晴らしい写真をお見せする事は出来ませんが、あとでお見せ致しますように現在は建物が建ち始めているような状態です。

 

(電波干渉計)

この装置は電波干渉計というものです。直径が12メートルのアンテナと7メートルのものを合計80台を組み合わせて一つの大きな望遠鏡とするものです。特殊な仕組みの望遠鏡です。沢山のアンテナがありますが、全てがシンクロナイズドしながら同じ天体の方向を見るというような望遠鏡になっています。

  これまで説明しましたミリ波、サブミリ波という遠赤外線のような電波で宇宙の暗闇を見て、そこに隠れている未だ光る事のない、これから星に成って行くであろう天体を観測するのが目的です。非常に大掛かりな望遠鏡ですので、ハッブル宇宙望遠鏡を更に10倍上回る解像度を実現することになります。これによって東京から大阪に落ちている1円玉が見える位の解像度を得る事が出来るのです。ハッブル望遠鏡が打ち上がった、或はスバル望遠鏡のようなものが出来た事により、我々の宇宙観は目覚しく変わりました。とにかくシャープなイメージが見えるだけで物理が分かってしまうという世界です。今ハッブル望遠鏡で見てボヤッとした点にしか見えてないものが、10x10(100画素)で表される画像になってしまうという事で、画期的な変化があるというふうに期待しています。

 

(設置場所の決定)

こんな膨大な装置を折角造るのですから、非常に良い環境の場所に造らねばなりませんし、サブミリ波というのは空気中の水蒸気に吸収されてしまうので、標高5千メートルの処に造る事になりました。現在がんばって造っていて、2012年に本格運用開始を計画しておりますが、今のところスケジュールを死守しています。設置場所はチリの北部第二州でボリビアとの国境に近い所に建設を予定しています。最寄りの村はサンペドロ・デ・アタカマ。ここはイースター島、パタゴニアに並ぶチリで有数な観光地です。特に夏休みシーズンは賑わいます。ここが何故選ばれたかというのは、良い観測地が要求するいろいろな条件を満たしているからです。

  すなわち1)空の状態が悪くない事。日本は往々にして悪いところです。宇宙に行けばいい環境がありますが、非常に予算がかかりますから無理です。

2)大気の透明度、安定性、水蒸気が少ないところ。

3)立地が悪くないところ。空の状態がいいところというと往々にして山のてっぺんがあげられますが、そこでは大きな望遠鏡は置けません。

南極はすごくいいところですが極にあるので、南の極が空の真上にあり、北の半分は常に見えない場所です。世界に一つしか造らない望遠鏡をそんなところには置けません。

4)更に政情が安定している処、良い人がいる処等の条件が勘案され、チリが素晴らしいということになったのです。

日本ではこれまでに電波望遠鏡は野辺山にありましたが、サブミリ波ということになると、富士山頂位しかありません。しかしそこには大きな望遠鏡をおけませんので、チリの第二州に向かったのです。ここは我々が初めて見つけた処というわけではありません。ずっと前から南半球の望遠鏡はほぼチリに集中していました。チリの第二州、或は第四州に集中していました。光の望遠鏡は標高2,500メートル位にあります。けれども2,500メートル位ではまだ水分が多いので、5,000メートルの更なる高地を目指しました。

ここでチリの国旗について述べてみますが、チリの国旗は非常に良い 国旗で革命の赤い血のほかに、雪の白と空と海の青が組み合わされてい ます。空は本当に素晴らしい澄んだ空で、我々の感じではチリは真っ青 な空と、赤い砂漠で出来ているようなイメージです。チリというのは天 文学者にとっては本当にメッカです。ヨーロッパの国の天文台、アメリ カの天文台もチリにあります。

ここに5,800メートルの山の中腹から撮った写真がありますが、この辺りは標高5,000メートルの場所なのに数キロメートルに亘り殆どまっ平らな土地があります。ここはアンデス山脈がありブラジル側の湿った空気はアンデス山脈に当って落ちます。海岸線の方はフンボルト寒流が流れていて、湿った風は寒流に当って落ちるということで空気が非常に乾燥しています。アタカマ砂漠と云うのはそのような気象条件の中で生まれた乾燥地帯です。ここはアンデス山脈とアタカマ砂漠の交点であるので、標高が高くしかも降水量が少ないという非常に特異な場所であり、我々の観測基地として選ばれたわけです。現在ここには小規模ですが、アメリカの望遠鏡、ヨーロッパの望遠鏡、日本からは名古屋大学の望遠鏡が既に稼動しています。ここには電波望遠鏡銀座が出来始めており、最後に2012年にALMA天文台が出来上がることになります。

  最終のイメージ写真は先ほどお見せ致しましたが、一台一台のアンテナは運べるようになっています。外側に広げることにより巨大な望遠鏡を合成する事が出来るようになります。最大の差し渡しは14KMまで(最近では18.5KMまでも可能かと言われはじめていますが)広げることが出来ます。14KMというと山手線をすっぽり取り囲む規模です。

すなわち我々が今やろうとしているのは標高5千メートルの地域に山手線を引こうとしているようなものです。発電機がないので自家発電をするか外から電気を取り入れるかということの最後の詰めに入っているところです。

 

(観測地点の環境は人間にも機械にも厳しい環境)

場所は観測のためにはいいのですが、いろいろと辛い事があり、居住環境としては非常に厳しいところです。

1)砂漠なので非常に乾燥しています。しばらくいると自然に鼻血が出てきます。粘膜が乾燥して鼻をかむと乾燥した粘膜がそのまま取れてしまうのです。

2)ここは岩砂漠ですがやはり細かい砂埃が立ちます。

3)此処は高山です。標高5千メートルの高山(エベレストのアタック隊のベースキャンプとほぼ同じ高さ)です。ここで観測する天文学者はアタック隊ではなく、普通に考えて白衣を着ているだろうと誤解される位の人間がいきなりここに連れて来られて調査などをするので、非常に苦しいものです。

4)空気が半分ですからパソコンやプロジェクターを冷やした空気で冷却するためのファンを動かすのにも空気が少なくて、十分に役目を果たせません。機械がオーバーヒートをしてしまうのです。従って熱を帯びるものは非常に壊れやすいのです。またフロッピー・ディスクは空気の膜でディスクを浮かしているのですが、空気が薄いので壊れやすいのです。

5)非常に寒い(標高5千メートルですから低地より約30℃位低くなる計算)のです。

6)其の他、紫外線が強いので肌がボロボロになります。又宇宙線が飛んできて機械に意地悪をするのです。

 

(この計画に掛かる経費について)

  次にお金の話をしますと総経費が1000億円の規模です。うち日本の負担金は256億円。最初はアメリカと日本が別個に同じような計画を立てていましたが、最終的には欧州も含めての共同事業となりました。

身分相応というわけでもありませんが、プロジェクト内である程度の希望や提案が出来る比率には保てたと思います。なお東アジアの国のアライアンスという事で、台湾は日本の枠内での金銭的な協力という形で参画し、金銭的な負担はしませんが中国、韓国も人的交流という形で参入する事になっています。

 

(現地の施設の様子)

施設は5千メートルの山頂施設と2,900メートルの山麓(最も乗鞍岳の頂上位の高さですが)施設とサンチャゴの事務所の三箇所から構成されます。

1)山頂施設はアンテナ装置だけを置いておいて、極力人は配置しません。

2)山麓施設ではアンテナ装置の遠隔操作やメインテナンス作業を行います。

3)事務機能及び研究施設はサンチャゴに設置します。

 

アンテナ装置や超感度受信機については国際協力及び国際競争のプロジェクトです。中でも最も金銭が掛かるアンテナについては、アメリカで非常に厳しい評価が行われました。わずか30メートルしか離れていない場所で参加者に同じ仕様を与えてアメリカのメーカー、日本のメーカー、ヨーロッパのメーカー夫々の技術の評価をしました。蓋をあけてみると、日本はパネルの加工に強い、ヨーロッパはカーボン・ファーバーを使用して軽量化を図っている等、いずれ甲乙つけがたく夫々の守備範囲の基地にその国のアンテナが持ち込まれる事になりました。なお超高感度受信機は日本が得意な分野ですので建設する事が決まっている7つのうち3つの製作を確保出来ました。

インフラについては2,00メートルの山麓施設は現在工場の骨組みが出来上がっている状態です。5,050メートルの山頂には2階建ての体育館のようなものが出来上がっていて、アンテナから集まってきた信号を処理する装置が置かれます。ここには人間は殆ど収容しないで、見物人(偉い人)が来た時にはラウンジがあり、そこから外を見て壮大なアンテナ群が見えるようになっています。サンチャゴ事務所は現在は21階建てのビルの18階を間借りしています。

ついでながら現場の作業員を見て感心させられたのは、チリの作業員は非常に勤勉であり作業現場で手持ち無沙汰にしている者はめったに見かけられなかったという事です。


ALMA望遠鏡への期待
  協会ホームに戻る