日本チリー協会講演会

アジア太平洋の発展に向けた日本とチリの経済関係

講師 小川 元 氏

(前在チリ日本大使)

 

20071114

 

                            於:川崎汽船株式会社23階会議室

 

<前置き>

ご紹介に預りました、この5月末まで在チリ大使をしていた小川です。皆様お忙しい中、私の講演会に細野大使、外務省の方、チリ大使館の木下様をはじめ大勢の方々に来て頂きまして、誠に有難うございます。

 

この講演を引き受ける際に一寸迷いました。私よりもチリに詳しい知識のある方が見えるはずだし、一方チリのことを余りご存じでない、もしかするとこの講演会の前にチリの地図を見てきた方がいるかもしれない。果たしてどちらの方に焦点をあわせてお話するかと、事務局長にも相談致しましたが、結局両方やろうということになりましたので、少し中途半端になるかも知れませんが、ご容赦願います。

 

 前半はパワー・ポイントを使いながら、少しチリの説明をさせて頂き、後半は私のチリ大使としての5年間の体験や感じたことをお話させて頂きたいと考えていますので、どうかよろしく。

 

 タイトルは“アジア太平洋の発展に向けた日本とチリの経済関係”というご大層なタイトルになっていますが、パワー・ポイントの中味は元々のタイトルと少し変えております。

 

<日本とチリの外交関係について>

 先程お話がありましたように1897年に日本とチリの外交関係が開始され、今年で110年になっております。最近の動きとしては2003年にラゴス大統領が来日され、2004年に小泉首相がチリに行かれた。この9月には昨年3月に就任されたバチェレ大統領が110年の記念も兼ねて訪日をされた、という大変長い交流関係にあります。

 

 1897年の開始前後の頃に日本が日露戦争の為にエスメラルダ号という船をチリから買いました。そしてそれが日本海海戦で大活躍したということでチリ人はそれを非常に誇りに思っている。そのためバルパライソにある海軍兵学校の構内に東郷元帥の胸像を飾っているという大変な親日国であります。

 

<バチェレ大統領>

 チリ初めての女性の大統領。選挙で野党候補二人に圧勝しました。

チリはどちらかというと、男性優位の国柄であり、選挙前に私のところにチリの男性がやって来て「最終的には男は女なんかに投票しないよ」と言っていましたが、蓋を開けてみれば、男性の支持率の方が女性の支持率より高かったという結果となりました。

 

 その後今年に入りアルゼンチンで女性の大統領が選ばれ、もしかすると米国でもヒラリーさんが大統領になるかも知れない。さらに政治の場で女性の活躍が目立っている。そのような先駆者のような人です。

 勿論ドイツでメルケルさんがいらっしゃるが、南米の女性進出の先駆けではないかと思います。

 

<チリの3W>

 チリ人は全然知りませんが、日本ではチリの3Wが有名です。

 ○その筆頭がワインです。

○その2はウェザー

 これはサンチャゴのことではないかと思いますが、残念ながら今は人間が空気を汚してチリの素晴らしい天気に汚点を残してしまって、特に冬場は大変なスモッグです。しかし夏は本当に素晴らしい天気です。大体11月から4月、5月は全然雨が降らない。年間を通して降雨量は300ミリ位。いわゆる“半砂漠”のような処です。空気は大変乾燥しており、サンチャゴの大部分のところでは蚊がいません。

 

前の公邸は古い家だったものですから、木が生い茂っており、そこにハンモックを吊るして本を読んでいても蚊に刺される心配がない。夕方になると少し寒くなって来てカーディガンを羽織った方がいいというような気候です。地球の反対側にこんなに素晴らしい天気の国があるとは知りませんでした。

 ○3番目は女性です。ここに映っている二人のミス。ミス・アースというのがあると云う事は知らなかった。

 ミス・ユニバースの女性は現在、前アルゼンチン大統領夫人になっています。アルゼンチンの男性はそのことが癪にさわってしょうがない。或る時私のスペイン語の独身の先生がブエノスアイレスに行き、タクシーに乗ったところ、どうも発音などでチリから来た事が判るらしく、運転手に「金持ちのアルゼンチン男性を探しに来たのか」と言われたと憤慨していました。どちらかというと美人というより可愛い女性が多いのかなと思います。

 

<日本人に有名なチリ人>

 チリ人で日本人に有名な人はほとんどいませんが、知る人ぞ知るでノーベル文学賞を受賞したチリの詩人パブロ・ネルーダがいます。

またもう一人ノーベル文学賞を受賞した詩人ガブリエラ・ミストラルもいます。

 

さて話題を変えて日本とチリの経済指標について話します。

<日本とチリの経済指標>
面積はチリは日本の二倍

人口は日本はチリの8倍です。

チリの人口1700万人のうち4割強に当たる700万人位がサンチャゴ及び周辺に集中していますので、サンチャゴは大変な大都会です。

 

チリの経済は非常に健全であり2006年の数字では、経済成長率4.0%、今年は5.0%を越えそうです。物価上昇率は3.4%、失業率の7.8%は中南米のみならず欧州を含めても出色に値する低さ、一人当たりGDPは7.4千ドル(これにはペソ高という水膨れ気味の部分もあるが)メキシコを越える程で中南米1,2位にある。付加価値税(日本の消費税に当たる)は19%。

 

 非常に印象に残っているのは18%の付加価値税を19%に上げる時にガソリン税を上げるのも同時に国会にかかったことがある。ガソリン税値上げは大騒ぎになり、反対が多くて実施が延びてしまったが、付加価値税の値上げはあまり問題とならずあっいう間に決まってしまった。

 進学率は中学校で9割、大学で44%と教育熱心である。

 

このようにチリは日本にとってはどちらかというと知られざる国ではあるが、非常に健全な発展を遂げているしっかりした国であることがお判りいただけると思う。

 

<チリからの日本の輸入>

 2006年のチリからの日本の輸入は65.9億ドル。その大半が銅、先ほど話が出たモリブデン、サケ・マスが大変ウェイトが大きくなっています。かの有名なチリ・ワインはその他(4.2%)の部類に入っており、有名な割には売れていない。

 ここの豚肉は美味しいですよ。農水産省の人がチリに来てEPAをやる時に日本の専門家がびっくりして言った「これでは到底輸入出来ない。これが入って来たら日本の方は負けてしまう。」

これに対し「技術指導を受ければいいじゃないか」と応えたところ、

「えつ」という顔をしていた。豚は本当にいいですよ

 

チリから日本へ輸出しているものは1985年にはほとんどなかったもの。サケ・マス、木材等は1990年頃から大きくなって、発展して来ている。従ってチリから輸入しているものは最近始まっているという特徴を持っている。

 

<日本からチリへの輸出>

日本からの輸出は11・4億ドル

ほとんどが自動車。チリは自由貿易の国だから世界中のありとあらゆる自動車メーカーが来ており、最近は遂に中国の自動車メーカーが出て来ました。たった年間17/18万台の市場で激烈な争いをしています。

あの国で見るとその商品が本当に強いかどうかがよく分かる。

 

日本は猛烈に韓国の追い上げを受けているが、自動車は今の処好調に売れています。残念ながらコンピューター、電気製品は日本のシェアはドンドン低下している。デパートに行くとソニーのテレビが置いてあるが、売れているのは韓国製品ということであり、又コンピューターに関してはあまり使ったことがないというように、日本の工業製品の競争力のなさ。

携帯電話の端末等はほとんど世界では太刀打ち出来ない。この点私は将来に対し非常な危機感を持っている。今世界で太刀打ち出来るのは自動車だけという気がしている。

  一方日本からの輸出も順調に伸びている。自動車はこの20年で10倍以上。

 

<日本のチリへの投資>

 鉱業、銅が中心ですが今世界の投資から見るとわずか6.5%のシェアしかなく、投資しても経営権を持ってやらないとみんなやられてしまうよと鉱業の皆様には申し上げています。この場所では差し支えがあるかも知れませんが、BHPエスコンディダなんか買ってしまいなさいよと言っています。

 

あとは紙パルプ、今日は大王さんも来ておられるようですが、チップを作るのに熱心に植林しており、シェアとしては世界のシェアより大きい。 しかしアメリカに次ぐ世界第二位の経済大国である日本の投資は非常に少ないと言えます。

 

 

<日本における輸出入でのチリのシェア>

 日本で一番シェアの大きいのは銅鉱石で44%、従ってチリで何かあれば日本の銅は止まってしまう。コンピューターなどには銅が沢山入っているので、大変なパニックになるという非常に重要な国であるという事が判っていただけると思います。

 

サケ・マス65%そうですか吉川様、今じゃノルウェーより大分多くなっているのですね。これでEPAで関税がなくなればもっと増えるかなという話をしていますが、

 

先ほど申しましたようにチリのワインは輸入ワインの中で7%のシェアしかないとのことで、もっとも値段が安いせいかもしれませんが、数量で言えばもう少し多いのではないかと思います。

 豚肉も先ほど申しましたとおり、まだまだほぼ1社がやっているに過ぎません。これから伸びるのではないかと思っております。

 

まとめますとチリからの輸入は銅をはじめとする一次産品の高騰により金額的には急激に伸びている。チリへの日本の輸出はこの4年間でも約112%の増加ということで、日本もチリのマーケットに対してかなり積極的に動き出しているので、EPAを契機にもっと増えてくれればと期待しています。

 

大変な日本の輸入超過であります。これは一つには日本とチリの経済界の関心の程度の差があるのですね。

 

やっぱりチリにとって日本はアメリカに次ぐ、最近では中国が多くなってきていますが、輸入国であるので日本に対する関心が非常に強い。しかし日本ではチリに関係のある方々、日本チリー協会に入って頂いているような方々を除きますと、いまさっきご説明したようなチリの経済の安定性、あるいは成長性という事すらご存知でない企業が沢山あるんです。そういう意味で何とかしてもっと認識を持って頂きたいなと感じているわけでございます。

 

一方チリの経済界は今の貿易に安住していると思います。もっとチリの素晴らしさを日本でP.R.しなければならないと思うんですが、それが欠けております。EPAの締結を機に日本で見本市というのですかね、そういうものをぜひやりなさい、と随分しつこく言ったんですが、結局実現しなかった。絶好のチャンスだったんですが、おまけにモアイが来たんですから、あれをデンと据えて物品を並べれば、業界の方だけを対象にしてるのではなかなか広まらないんですね、やっぱり個人の消費者に関心を持ってもらうというのが必要です。勿論銅等は別ですが。そういうPRが不足しているなと思います。木下さん帰ったら大使に良くお話をしておいて下さい。

 

チリへの外国投資の点ではアメリカ、ついで旧宗主国のスペイン、カナダ、英国、豪州その次は日本、 イタリア、オランダ、フランス、スイスこの辺はほぼ似たり寄ったりの投資額でありまして、 5%を一寸切る位のシェア、ということでもっと頑張って欲しいな。 日本はこれから海外への投資をしていかないと高齢化の上に人口が減っていくわけですから、 日本は需要自体が減っていくわけですよね。 お金が余っているのに今ハゲタカみたいなファンドにいいように持って行かれてというようなことを言われてますが、 もっともっと海外に債権とか株とかでなく仕事をやるために投資をして、 そのリターンを日本に持って来るようにして、我々の子供や、孫達のために考えて欲しいなと思っているところです。

 

日本のラテンアメリカに対する投資、この8割方がタックス・ヘブンに対する投資であり、バハマやなんとかあるわけですが、ここは一寸除いて考えますとご覧の通り圧倒的にブラジルが多い、ついでメキシコ、アルゼンチン。ペルーとチリは殆ど同じですが、実はペルーのほうがわずかに多いということで、抜群のチリの安定性に比べて日本の投資は非常に少ない。

 

(続く)


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