中原中也賞『びるま』 日和聡子

   新人賞や文学賞の類にあまり興味を持たなくなって久しいのですが、「ユリイカ」4月号に発表された中原中也賞の受賞詩集『びるま』は、ちょっと目を惹きました。

 対象になったのは、公募・推薦の計187冊の詩集。このうち最終選考に残った詩集は7冊。どの詩集もしかるべき出版社で印刷・発行されているなか、1冊だけ「私家版」の詩集がありました。これが最終的に同賞を受賞した詩集『びるま』。作者は島根県生まれで東京都在住の日和聡子(ひわさとこ)氏。27歳。立教大学日本文学科卒業。卒論は「梅崎春生論」。(このへん風変わり?…)

 選考委員の荒川洋治氏はハナからこの詩集1本。<まるで「びっくり箱」をあけたみたいだ>と選評につづっているように、げらげら笑ってしまう不思議な世界を、一篇一篇やわらかい言葉に載せて物語り風につくってみせる。

― しかし、詩集を作ることは簡単ではないのであった。いろいろとあれこれ迷い、苦肉の策で、まずは自分で詩集を作りはじめた。文庫版『びるま』である。紙の束を買って来て、一枚一枚ものさしとカッターで計っては切り、プリンタで表を刷ってはひっくり返して裏を刷り、印刷はずれ、紙はしわになり、製本が済んでいざと見ると頁が抜けており、など、家内工業で完成作より失敗作を多く作った。
(「受賞のことば」より)


 この詩集に紡がれた一篇一篇の不思議な世界は、短編小説に衣替えしてもそのシュールな可笑しさを発揮すると思います。作者である日和聡子さんの才気は、すでに春秋に富んでおり、今後のゆくえが楽しみなので、創作活動のじゃまをしないように、静かに注目しておきたいと思います。

 なお、略歴と選評中の一文によるともう一冊、やはり私家版で『唐子木(からこぎ)』という詩集を出している模様。 「受賞のことば」に添えられた写真は ― すっと胸をはったやや左半身(ひだりはんみ)の精悍なポーズでこちらを見据え、仁義でも切りそうなドスの利いた気配を漂わせています。

 掲載誌の「ユリイカ」4月号は書店や図書館でご覧いただけます。詩集『びるま』は青土社から刊行されているようです(全39篇)。…収録詩には「八時までに亀は帰って来ますよ/そうのんさんに言われて/待っていた」というヘンな書き出しで始まる[亀待ち]や、「墓見師に連れられて/イナダ山に墓を見に行く」で始まる[墓見師]、「公衆電話を待っていたら/向こうから逆立ちした男が/歩いてきた」という[赤箱]など、異色な作品が並んでいます。 … それでは結びに短い詩を一篇、ご紹介しましょう。幕末戊辰戦争の武士の歌 …

[ 戊辰種 ]

百年経つたら
侍も若衆も皆
乱暴らうぜき働いて
ちやぶ台で 飯を食ふのだ
望遠鏡を右手に
写真に映るのだ

私はただただ
戊辰戦争にとられた駒を待つておるのだ
頭に椿を飾つて待つておるので
すぐに帰つて来たら
おいしいほうびを
屹度
やります



2002.06.10







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