ゴッホの災難

 ヒッチコックの代表作の1つでもある映画『ハリーの災難』は、殺害されたうえ森の中に遺棄された“死人ハリー”が、生きている人間の欲望や自己保身の裏心理に翻弄され、まるでモノのように、なされるままにあっこっち引きずり廻されるという、ブラックユーモアな話です。

 ここ数日間オークション会場から話題を振りまいた1枚の油彩画。みずからも画家である故・中川一政氏の所有だったその絵は、当初、作者不詳ということで、落札価格1万円といわれていたところ、真贋の鑑定を依頼していたアムステルダムのゴッホ美術館から、真作(ゴッホ作品)というお墨付きが届いたことで、オークションの展開は一転、300〜500万円あたりからスタートして、最終的に6600万円で落札されました。

 真作『農婦』を落札したのは、広島県の木質建材メーカー会長で、ウッドワン美術館の館長。「ゴッホ作品の海外流出を防ぎたかった」との弁ですが……。

 ゴッホ作であることを固く信じていた所有者の中川一政氏も、当のヴァン・ゴッホも、ハリー同様、ともに手も足も出せない故人であり、後世の人間のなすがまま。やりたい放題です。生涯でたった1枚の絵 ― それも二束三文の値でしか売れず、ピストルで自らを撃ち抜いたオランダ出身の画家ヴァン・ゴッホ。あれほど憧れた、詩情豊な浮世絵の国Japonへ、こんなかたちで、またまた住むことになりました。

 いやはやなんとも……


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  【付 録】 バブル時代の遺産 『 ひまわり 』 − 回想 −

 ゴッホの「ひまわり」は全部で12点あり、うち1点は芦屋に住む日本人が所有していましたが、(たしか)戦災で焼失しています。安田火災が落札した作品は、ゴッホ亡きあと、ドイツの資産家のもとへ買い取られ、その後、イギリス人貴族の手にわたり、動産の整理をするさいオークションに出展されたように記憶しています。

 さて1987年3月。たまたま私的な用件で、国内外のオークション通でも知られる□□画廊の社長に会う機会があり、仕事が終わってから銀座へ足を運んだのですが、そのとき、こんな会話がありました。

「じつは今度のオークションですごい取り引きがあるんだ。でもこのことはまだ内密の話だから、外には洩らさんように」

 そう釘を刺して、英語版の出品カタログを見せてくれたわけです。ゴッホの『ひまわり』のほかに、モディリアーニの『少女』とクリムトの作品が、オークションの目玉として載っていました。

「きみならどれに一番高い値をつけるかね?」

 そう訊かれたので、即座にクリムトの作品を指さしたら、社長はこちらの顔をまじまじと見つめてから、「だよな〜」と同意得たりのニンマリ顔。

「でも一番高い値がつきそうなのはこれじゃあないんだ。たぶん…。 私も当日参加するんだがね…」

 安田火災が50数億円で『ひまわり』を落札して、センセーショナルな報道が列島を駆け巡ったのはその約2週間後のこと。 あ然 としました。

■損保ジャパン東郷青児美術館  ■ゴッホの生涯

■Van Gogh Museum(オランダ/日本語案内あり)

2003.02.11




夜空にねむれ〜ゴッホ展〜


 わすれたころにやってくるゴッホ展。会場は、かつてルネ・マグリットの大回顧展に足を運んだ、竹橋の東京国立近代美術館。

 知名度抜群のゴッホに関してくわしく触れる必要はないと思いますので、これまでの展覧会で見いだしたゴッホ絵画の特徴的色使いについて1つだけ……。
 それは、“原色の黄色” と “原色の青” といった相反する「暖色と寒色」が、同一画面に「平気で同居している」という点です。作品が一種狂的な激しさを秘めて見えるのは、うねるような筆致に加え、この色彩の“反転的バランス”によるのではないかと思っています。 (写真は展覧会出品かどうかは)

BOOK 「ゴッホの手紙」(小林秀雄訳/文庫)[推奨]
     分析医のようなゴッホの明晰さがここにあります。

会期 : 3月23日 〜 5月22日
会場 : 東京国立近代美術館

巡回予定 「大 阪 展」 5月31日〜7月18日(国立国際美術館)
巡回予定 「名古屋展」 7月26日〜9月25日(愛 知 県 美術館)

主催web site  NHKプロモーション  東 京 新 聞
参考web site  Van Gogh Museum(オランダ/日本語案内あり)  ゴッホの生涯

※映画「炎の人ゴッホ」(1956)。 ゴッホ役=カーク・ダグラス(マイケルの父)。

2005.01.30







 アート file

マン・レイ パウル・クレー エゴン・シーレ
ルネ・マグリット グスタフ・クリムト ジョルジュ・スーラ
ジョルジョ・デ・キリコ アンリ・ルソー展 ゴッホの災難.ゴッホ展
写真家ブラッサイの世界 生誕100年記念ダリ回顧展 葛飾北斎と安藤広重
東郷青児と竹久夢二 佐藤渓の「心象録・詩」 日本画家 松井冬子
日本画家 町田久美 束芋の「ヨロヨロン」束芋 イラストレーター 常田朝子
イラストレーター 田辺ヒロシ 古賀春江 シュールな童心 版画家 池田満寿夫の世界展
田中一村グラフィックな世界 写真家 植田正治 海外巡回展 青木繁 わだつみのいろこの宮
カオルコ個展 in NewYork 資生堂/香りと恋心〜バルビエ展 レオナール・フジタ展

 文 学 file

ル・クレジオ サン=テグジュペリの世界 メリメの「マテオ・ファルコネ」
曽野綾子さんのこと 安部公房〜砂の女〜 原 民喜  「夏の花」
林 芙美子 パリ日記 岡本かの子 試論1・2 川上弘美 「蛇を踏む」
金原ひとみ「蛇にピアス」 綿矢りさ「蹴りたい背中」 谷崎潤一郎「痴人の愛」
こどもの詩 〜川崎 洋 篇〜 寺山修司の世界〜虚空〜 中原中也賞「びるま」日和聡子
坂口安吾 洋書仕様「桜の森…」 追悼 塚本邦雄 水銀伝説の終焉 詩人・金子光晴「ねむれ巴里」







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