歌 集 『演 戯 絵 巻』






 【一筆覚書〜盛夏篇】  プロローグにかえて


●夏休み黄色い声も焼き尽くす38℃の魔の炎天下


●深海をひらひら泳ぐ発光魚水深5000果てなき銀河


●海洋にクジラ・シャチ遊泳すヒゲペンギンは小魚追いて


●サンダルにピンクフリルのキャミソール原宿渋谷肌灼くビーチ


●下校中猫を助けて猫の国シアワセ見るやハル17歳   (『猫の恩返し』


●亜熱帯カラダつらぬく雷鳴に野性めざめむ巫女の歌声 (『ハイヌミカゼ』


 【演戯絵巻〜春眠篇】


●桜咲く今年も花見馬鹿騒ぎ思考停止の猿人の宴


●黄砂舞う大陸の風万感の思い馳せたり桎梏の小窓


●朝まだきそぼふる雨は藤の花凛々と咲くペン先に似て


●神授く歌声持ちて染めあげるちとせの世界異色を極め


●澄んだ目で青空あおぐ女の子母の手にぎり犬と話さむ


●遠景に貨物船浮く羽田沖ポケモン描きし飛行機離陸


●エラ呼吸鯰のヒゲに指でふれ予知夢見たさに餌与ゆ夜


●えんえんと続くレールのその先も癒されがたき退屈なりや


18歳じゅうはちの記憶の図形燃え尽きて虚空の中に電子飛び交う



【タルトさんに捧げる歌】


●アゲハ蝶金粉の舞う秋の午後天界にゆく一閃の光り


●すじ雲の空たかく晴れ永眠す黄のチューリップさかさまに咲き


【演戯絵巻〜絵画点心】


[ ピカソ ] Picasso


●大家並み10歳で描く息子の絵われを超えりと父筆折りぬ


●真の友カサヘマス自死洗濯船ピカソ絵画に青の血宿る


●青の呪詛解けて華咲くバラ色に恋の火燃やし筆匂いたつ


●恋の火の視界の端に新世界ニグロ彫刻キューヴ拓きて


●恋の火のまにまにのぞく子どもの目ピカソ閃きシュールに点火



[ ダ リ ] Dalí


●海の皮膚めくれば下に犬ねむり夜の砂漠でキリン燃えつつ


●うなだれるナルシスに黄の花一輪ガラへの愛に時さえ溶ける


●ブニュエルと「アンダルシアの犬」作る音楽とぼけ笑い止まらず



[ クリムト ] Klimt


●抱擁に金箔の衣を与えしは誰も侵せぬ愛を図るや


●まるまった女の姿態目を閉じて夢みる微笑幸せ掴み


●依頼受け応えて描く法医学描きしのちに誹謗ゴウゴウ



[ シーレ ] Egon Schiele


●世紀末クリムト仰ぐ青年の師にも与えしタッチ高らか


●わが道の行く先々でスキャンダル逮捕のたびにポルノ研ぎ澄む



[ カンディンスキー ] Kandinsky


●線と面フォルムと色で譜面描き音オルゴール詩情奏でむ



[ パウル・クレー ] P.Klee


●線と色混声す笑みユーモラス青騎士道は戦に屈せず



[ スーラ ] Georges Seurat


●世界初光学活かす点描画そしり受けても印象極め


●点と点コンピュータに先駆けむデジタル絵画視覚を解きて



[ ゴ ヤ ] Goya


●脱いだマハ巨人魔女我が子喰うサトゥルヌスに本能写し



[ セザンヌ ] Cézanne


●水浴も赤いチョッキも静物も幾何学に帰すキューヴ創成


[ ロートレック ] Toulouse-Lautrec


●踊り子フレンチカンカン夜の宴ムーランルージュ歓楽のパリ


【シネマ残照録】
●猟友が兵士となりてベトナムに狂気張るロシアンルーレット
『ディアハンター』
●手を挙げる娼婦を乗せて夜のまち走るタクシー腐敗撃ち抜き
『タクシードライバー』
●逝きしのち宇宙めぐるやソラリスの有機の海が死者現わしむ
『惑星ソラリス』
●少年で成長止みし成人の彼のソプラノ情事許さぬ
『ブリキの太鼓』
●アンソニー扮する旅の芸人が女の弟子と「道」くりひろげ
フェリーニの『道』
●2001宇宙の旅かく語りき未来知るやコンピュータハル
『2001年宇宙の旅』
●雷蔵の扮する眠狂四郎 円月殺法刀きらめく
『眠狂四郎』
●優作が追う犯人は谷あいで麦わら帽子落し子の母
『人間の証明』
●八つ墓に連続殺人落ち武者のたたりと結ぶ怨念も奇異
『八つ墓村』
●海底で眠るゴジラが目を醒ます放射汚染に背びれ光らせ
『大怪獣ゴジラ』
●風の谷のナウシカ 紅の豚 魔女の宅配 カオナシ千尋
宮崎 駿 作品


【きょうの一首より】


●晩秋を挽歌にかえて鴉とび犬のゆくえは誰も知らざり


●元旦の白昼に鳥現われむ今宵見る夢告げて去りしや


●フリージア夜がらす鳴けば眠り草香り放ちて闇にまどろむ


●歳月を呼び醒まさんと啼くすゞめ亡き陽に浮ぶ友の眼差し


【万華惹躍(ばんかじゃくやく)】


●夜の砂太腿濡れて声洩れむ月下に交わる熱い指さき


●陰唇の奥の奥まで灼けるよう攻め射る精も卵子に染まり


●眼を閉じて交わす体に声も和す乳房ふくらみ血も香るなり


●指さきにつぼみ色づき汽車ポッポ雪も降りつつ花の散るらむ


 【新宿版画】


●ちかちかと夜空に映える電脳街魔界新宿猫も眠らず


●陽に刺さるやさぐれ新宿歌舞伎町眠らぬ街に咲く花ありや


●アルタ前素通りすれば紀伊国屋漂流民が今日も集いし



 【長崎版画】


●ペーロン祭蛇踊りくんち唐人街オランダ商館出島残りき


●キノコ雲二十六聖人焼き尽くす影さえ灼きて時計止まらむ


●原爆忌天主堂に鐘が鳴る平和の祈願像に刻みて


●汗だくで坂道歩く盆休みクマゼミの鳴く中腹の墓


●盆提灯バクチク鳴らし鬼火呼ぶ亡き友降りて精霊流し


●グラバー邸蝶々夫人見晴るかす港長崎さいはて慕情


●皿うどんちゃんぽんカステラ南蛮料理鯔の唐墨食の壺


●ポルトガル聖書伝来キリストの教え護らむ燭台の灯


●市電降り立ちて見あげる思案橋ツバメ飛ぶさき異国上海


●大陸と長崎むすぶ船ありき銅鑼を鳴らして通いし航路


●稲佐山天空に星眼下にも星こぼれ散る夜景長崎


●赤い傘さして渡るはめがね橋雨の向こうに恋人待ちて


●蛍茶屋銅座丸山中華街蝙蝠福砂屋文明堂


●興福寺鍛冶屋町には崇福寺遣隋遣唐遺文永らえ


●九十九折り連なる島のおだやかさ海の琥珀も夕陽に映えむ


●赤レンガ和蘭の館シーボルト鳴滝塾に医学もたらし



【演戯絵巻拾遺】


●1000年の時空を超えし西行の辞世の春も今宵は闇夜


●砂時計いのちの期限まだあるや耳そばだてむ雲ながる音


●こうもりが記憶の海に群れをなす見果てぬ夢に血相かえて


●8時だヨ このかけ声に子どもらはテレビの前に集合したね


●武豊背にのせ駆けるハルウララ わすれな草の匂い宿らせ


●さかさまに映る記憶に魔法かけ いつかの少女時空かけるや





●天球に言葉の星座突き刺さる
 花嫁化鳥さかさま伝綺

●ポケットにはな種子きてカモメ翔び
 あと追い少女空とゆびきり

●上海異人娼館青女論花粉航海月蝕は雨



  【追 悼 歌】

●天界院水銀寺に花あじさい 塚本邦雄いま出立す
(塚本邦雄 2005.07.12)

●みあげれば涙に煙るおぼろ月 照らされて逝くミス・サイゴン
(本田美奈子 2005.11.09)








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